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三十三、触れたくちびる
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リッリ様はあの後そのまま連行されて、とある場所で隔離されているそうだ。表向きの理由は家庭の事情で退学となっている。ただ、あれだけの行動をしていたリッリ様なので生徒達はみな「何か事件でも起こしたのだろう」と考えているようだ。こそこそと噂話が広がって、すぐに興味をなくしたのか消えていった。
しばらくは平和な時間が流れていた。そして、国中がお祭りのように盛り上がっている。そう、もうすぐクリスティアン兄様とヴィルヘルミーナ様が結婚されるのだ。
婚姻の儀は王都にある大聖堂でおこなわれ、そこから馬車でパレード。その後は王宮前広場に集まった国民の前で宣誓。そして、披露宴と夜会になる。
成人していない私は夜会には出られないので披露宴まで参加する。最終準備で忙しいであろう中、王宮に呼ばれた私はヴィルヘルミーナ様に抱きしめられていた。
「ヴィルヘルミーナ様、どうなさいましたの?」
「ううっ、私のアマリア様! はぁ、かわいい癒される」
私の頭を胸元に抱え込んで、頭に頬ずりをしている。同席されているセシリア様やレベッカ様は呆れているようだ。
「もうすぐ殿下と結婚……ううっ、今から緊張している。私のこの選択は間違っていたのか? いや、間違いではない! 今、目の前にいる私の天使が答えだ!!」
「アマリア様、ごめんなさいね。いつもの発作のようなものなの」
「私でお役に立てるのなら光栄ですわ」
ヴィルヘルミーナ様は時々このような状態になる。それをまわりは発作と呼んでいた。一緒に来ていた姉はいつものニコニコ笑顔だが、やはり圧を感じる。
「ヴィルヘルミーナ様……ヴィルお義姉様、お茶が入りましたわ。こちらを飲んで落ち着いてくださいませ」
「アマリア様おすすめのハーブティーですわよ」
「アマリア様のハーブティー!」
抱きしめられたまま移動して、ソファーでようやく解放してくださった。私は姉の隣に座ってお茶をいただく。
「うまい!」
「もう……そのような言葉使いはおやめなさい」
「むっ、ここはプライベートな空間だからいいだろう? 私の猫は優秀なのだ!」
「まったく……」
セシリア様はヴィルヘルミーナ様のお目付け役のようだ。来年にはクラウス兄様と結婚され、お二人は王家に残ってクリスティアン兄様とヴィルヘルミーナ様を支えていく。クレメッティ兄様は王弟であるブルーダー公爵に養子入りし、臣下として支えていく事となる。ブルーダー公爵は結婚されていないのでお子様もいらっしゃらない。甥や姪である私達を自分の子のように可愛がってくれている。レベッカ様は学園卒業後、公爵家に嫁入りとなる。姉も卒業後すぐに結婚するつもりだったが、時期をずらす予定になっている。こうやって幸せが続くのは嬉しい。
「私のアマリア様は癒しだな!」
「はははっ、私のかわいい妹アマリアだよ」
失礼と言いながら入ってこられた兄様達。側近の方やエドヴァルド様もいらっしゃる。私達が立って礼をしようとすれば、手を挙げてそのままでいいとおっしゃった。
「まぁ、アマリアは私の妹ですわよ? まさか私を差し置いてそんな事……ねぇ?」
「笑顔の圧が凄まじいぞユリアナ様! そんなあなたも大好きです!」
「あらあら、ヴィルヘルミーナ様ったら……そんなあなたにはこちらをどうぞ」
姉は一冊の本を渡している。ヴィルヘルミーナ様は手に取って表紙を見た途端に目を見開いて、姉と本へ視線を高速で行き来していた。ちょっと怖い。
「こ、これはもしや……アードルフ様の自叙伝!」
「えぇ、サイン付きですわよ」
「ありがとうユリアナ様!! これは家宝にせねば!」
ヴィルヘルミーナ様は、はしゃいで本を両手で持ちながら天に掲げている。セシリア様がすかさず注意されるが、お隣に座ったクリスティアン兄様はかまわないと笑っておられる。
「いいんだよセシリア嬢。彼女がこのままでいたいというのなら、それでいいんだ」
「少々甘やかしすぎですわよ殿下」
ため息を吐いて兄様を諫めておられるが、兄様は気にしていない。ヴィルヘルミーナ様もうんうんと嬉しそうに頷いている。
「愛する女性のかわいい我儘を叶えるのが男の務めだよ。まぁ、他人の我儘には興味のかけらもないけどね」
兄様の言葉に女性陣はきゃあっと声をあげた。もちろん私もである。
「あ、あい、あい……?」
「ん? 私の愛するヴィルヘルミーナ。どうしたのかな?」
「あ、あいす……」
「アイス?」
ヴィルヘルミーナ様は限界を突破してそのまま気絶された。顔を真っ赤に染めている。そのまま兄様は頭をお膝に乗せて、そっと優しい手つきで髪に手を通している。
見ているだけでこちらも顔が赤くなってきそうだ。目のやり場にも困ってしまい視線を外したら、エドヴァルド様と目が合ってしまった。一気に赤くなった顔にどうしようかと思っていたら、彼も少し耳が赤い。一度目線を外してから戻して手招きをしているのでそちらに向かった。他の方も婚約者同士で何やらお話をしているみたいだ。
「はぁ、まったくアイツは人目を考えろ」
「急な事で驚きました」
「ん……アマリアの顔も赤いな。それにかわいい」
人目を考えろと兄様に言ったその口でそんな事を!
大きな手で頭を撫でて、そのまま髪を掬って口づけを落とすその姿に、また顔に熱が集まる。
「もう! エドヴァルド様まで……」
笑って誤魔化しているが耳が赤いのは気づいていますからね。
彼の手にそっと触れれば、そのままぎゅっと握られた。彼がしゃがんでお互いの額をくっつけて目が合えば、二人で小さく笑う。
甘い空間と化したこの部屋で、やはりひとりだけ冷静なヘンリク様は我関せずとお茶を飲んでいた。
王太子夫妻の結婚は国中で祝われて、無事に終わった。
大聖堂での厳かな雰囲気の中で見たお二人はとても神秘的で、パレードでは花びらがたくさん舞っていて賑やかだった。お二人の幸せそうな笑顔が国中に広がっていく。それはこの国の輝かしい未来を表すように、晴れ渡った空の下で光輝き続けていった。
「お二人とも素敵でした!」
「そうだな」
エドヴァルド様と手を繋いで、私達にもいつか訪れるだろうそれを想像した。繋いだ手が持ち上げられ、そのまま口づけを落とされる。そして――。
揺れた青紫が近づいて、誰にも気づかれないようにそっと唇を合わせる。初めてのそれは一瞬で終わってしまったが、触れた場所から熱が広がり甘い痺れとなって私の中を駆け巡っていった。
しばらくは平和な時間が流れていた。そして、国中がお祭りのように盛り上がっている。そう、もうすぐクリスティアン兄様とヴィルヘルミーナ様が結婚されるのだ。
婚姻の儀は王都にある大聖堂でおこなわれ、そこから馬車でパレード。その後は王宮前広場に集まった国民の前で宣誓。そして、披露宴と夜会になる。
成人していない私は夜会には出られないので披露宴まで参加する。最終準備で忙しいであろう中、王宮に呼ばれた私はヴィルヘルミーナ様に抱きしめられていた。
「ヴィルヘルミーナ様、どうなさいましたの?」
「ううっ、私のアマリア様! はぁ、かわいい癒される」
私の頭を胸元に抱え込んで、頭に頬ずりをしている。同席されているセシリア様やレベッカ様は呆れているようだ。
「もうすぐ殿下と結婚……ううっ、今から緊張している。私のこの選択は間違っていたのか? いや、間違いではない! 今、目の前にいる私の天使が答えだ!!」
「アマリア様、ごめんなさいね。いつもの発作のようなものなの」
「私でお役に立てるのなら光栄ですわ」
ヴィルヘルミーナ様は時々このような状態になる。それをまわりは発作と呼んでいた。一緒に来ていた姉はいつものニコニコ笑顔だが、やはり圧を感じる。
「ヴィルヘルミーナ様……ヴィルお義姉様、お茶が入りましたわ。こちらを飲んで落ち着いてくださいませ」
「アマリア様おすすめのハーブティーですわよ」
「アマリア様のハーブティー!」
抱きしめられたまま移動して、ソファーでようやく解放してくださった。私は姉の隣に座ってお茶をいただく。
「うまい!」
「もう……そのような言葉使いはおやめなさい」
「むっ、ここはプライベートな空間だからいいだろう? 私の猫は優秀なのだ!」
「まったく……」
セシリア様はヴィルヘルミーナ様のお目付け役のようだ。来年にはクラウス兄様と結婚され、お二人は王家に残ってクリスティアン兄様とヴィルヘルミーナ様を支えていく。クレメッティ兄様は王弟であるブルーダー公爵に養子入りし、臣下として支えていく事となる。ブルーダー公爵は結婚されていないのでお子様もいらっしゃらない。甥や姪である私達を自分の子のように可愛がってくれている。レベッカ様は学園卒業後、公爵家に嫁入りとなる。姉も卒業後すぐに結婚するつもりだったが、時期をずらす予定になっている。こうやって幸せが続くのは嬉しい。
「私のアマリア様は癒しだな!」
「はははっ、私のかわいい妹アマリアだよ」
失礼と言いながら入ってこられた兄様達。側近の方やエドヴァルド様もいらっしゃる。私達が立って礼をしようとすれば、手を挙げてそのままでいいとおっしゃった。
「まぁ、アマリアは私の妹ですわよ? まさか私を差し置いてそんな事……ねぇ?」
「笑顔の圧が凄まじいぞユリアナ様! そんなあなたも大好きです!」
「あらあら、ヴィルヘルミーナ様ったら……そんなあなたにはこちらをどうぞ」
姉は一冊の本を渡している。ヴィルヘルミーナ様は手に取って表紙を見た途端に目を見開いて、姉と本へ視線を高速で行き来していた。ちょっと怖い。
「こ、これはもしや……アードルフ様の自叙伝!」
「えぇ、サイン付きですわよ」
「ありがとうユリアナ様!! これは家宝にせねば!」
ヴィルヘルミーナ様は、はしゃいで本を両手で持ちながら天に掲げている。セシリア様がすかさず注意されるが、お隣に座ったクリスティアン兄様はかまわないと笑っておられる。
「いいんだよセシリア嬢。彼女がこのままでいたいというのなら、それでいいんだ」
「少々甘やかしすぎですわよ殿下」
ため息を吐いて兄様を諫めておられるが、兄様は気にしていない。ヴィルヘルミーナ様もうんうんと嬉しそうに頷いている。
「愛する女性のかわいい我儘を叶えるのが男の務めだよ。まぁ、他人の我儘には興味のかけらもないけどね」
兄様の言葉に女性陣はきゃあっと声をあげた。もちろん私もである。
「あ、あい、あい……?」
「ん? 私の愛するヴィルヘルミーナ。どうしたのかな?」
「あ、あいす……」
「アイス?」
ヴィルヘルミーナ様は限界を突破してそのまま気絶された。顔を真っ赤に染めている。そのまま兄様は頭をお膝に乗せて、そっと優しい手つきで髪に手を通している。
見ているだけでこちらも顔が赤くなってきそうだ。目のやり場にも困ってしまい視線を外したら、エドヴァルド様と目が合ってしまった。一気に赤くなった顔にどうしようかと思っていたら、彼も少し耳が赤い。一度目線を外してから戻して手招きをしているのでそちらに向かった。他の方も婚約者同士で何やらお話をしているみたいだ。
「はぁ、まったくアイツは人目を考えろ」
「急な事で驚きました」
「ん……アマリアの顔も赤いな。それにかわいい」
人目を考えろと兄様に言ったその口でそんな事を!
大きな手で頭を撫でて、そのまま髪を掬って口づけを落とすその姿に、また顔に熱が集まる。
「もう! エドヴァルド様まで……」
笑って誤魔化しているが耳が赤いのは気づいていますからね。
彼の手にそっと触れれば、そのままぎゅっと握られた。彼がしゃがんでお互いの額をくっつけて目が合えば、二人で小さく笑う。
甘い空間と化したこの部屋で、やはりひとりだけ冷静なヘンリク様は我関せずとお茶を飲んでいた。
王太子夫妻の結婚は国中で祝われて、無事に終わった。
大聖堂での厳かな雰囲気の中で見たお二人はとても神秘的で、パレードでは花びらがたくさん舞っていて賑やかだった。お二人の幸せそうな笑顔が国中に広がっていく。それはこの国の輝かしい未来を表すように、晴れ渡った空の下で光輝き続けていった。
「お二人とも素敵でした!」
「そうだな」
エドヴァルド様と手を繋いで、私達にもいつか訪れるだろうそれを想像した。繋いだ手が持ち上げられ、そのまま口づけを落とされる。そして――。
揺れた青紫が近づいて、誰にも気づかれないようにそっと唇を合わせる。初めてのそれは一瞬で終わってしまったが、触れた場所から熱が広がり甘い痺れとなって私の中を駆け巡っていった。
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