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二人の時間(一)
ベニュロ侯爵は皇太子が剣術の稽古に通うことを喜んで了承した。
そしてさっそく午前中の剣術の稽古に行ってそれが終わった後、ジェラールは侯爵に一人で庭を散策したいと申し出た。
白やピンクの花の咲くマロニエの木やライラックの木、バラやラベンダー、チューリップの花が本当に美しいなと思いながら彼はエレンがいそうな場所を探す。
昼食の支度の美味しそうな匂いがしてくる。
奥まったところに出たら彼女を見つけた。
手には大きなスコップを持って大人たちと一緒に穴を掘っている。
ジェラールは女の子にそんなことさせるなんてと腹が立ったが、終わるまで隠れて見ていることにした。
掘っているのはゴミを捨てる穴だ。ゴミは庭に埋めたり川に流したりするから、彼女はその手伝いをしているのだ。
暫くして一人になったエレンにジェラールは後ろから声をかけた。
びっくりして振り向いた彼女の頬にはまだ薄っすら殴られた跡が残っている。
唇の傷は治っていた。
エレンはすぐにポケットからハンカチを取り出してお礼を言ったが、そのハンカチを見て彼はびっくりした。
「皺まで伸ばしてくれたの? 大変だったでしょう?」
「母さんが洗濯係りだから皺を伸ばすところを見たことがあって。やり方は知っていました」
「へー。凄いね!」
そんなことまでしてくれたハンカチをジェラールは記念に持って帰って大切に保管したくなった。
でもそれではいけない。
彼はハンカチの事をどうやって挽回しようかとあれからずっと考えていたのだ。
今が太っ腹なところを見せるチャンスだ。
「それ、あげるよ」
「私などが使用したものはもうお使いになりたくないでしょうか?」
「なんだって!? 違うよ!」
思いもよらない言葉にジェラールの顎が抜けそうになった。
「僕たちが出会った記念にあげるんだよ」
「そんな、いただけません」
それは想定内だ。ジェラールはポケットに手を突っ込んだ。
「それとは別にもう一つ、君にプレゼントがあるんだ」
「プレゼント? どうして?」
「友だちだから」
「友だち!?」
エレンは目の玉が飛び出るほど驚いた。
「私なんかが殿下とお友だちなんて、そんなのいけません!」
「いけなくないよ。君はとっても強く美しいオーラを放っているんだよ」
「オーラ?」
「ああ。それはもう、普通の人間の数倍強い光さ」
ジェラールは地面にオーラの強さの絵を描いてみせた。
普通の人間のオーラは平均して十数センチ位だがエレンはそれが一メートル以上もある。
彼はこんな人間には出会ったことがない。
唯一の例外は神で、神はエレンよりも強い光を放っている。
「だからといって……どうして?」
「理屈じゃない。好きになるのはだいたい僕が気に入った色のオーラを持っていて君もそうだ。白く美しく輝く光の中に金銀の粒が混ざり合って、とっても美しい色をしているんだよ」
「……自分で見られないのが残念です」
「見られるよ」
実はジェラールは昨日神殿に行って来た。
そこで彼女のお守りになるようなプレゼントをあげたいと二人の神に相談したら、「人間の個人的な願いを叶えることはできない」と一蹴された。
その代わりにマルセラン神から楕円形の神の世界の石を渡された。
その石の色がエレンのオーラの色とそっくりなのだ。
いつもはクールなマルセラン神がその時だけはにこやかな顔をしていたのでジェラールは少し不気味に思ったが、これならお守りではなくてもプレゼントとして最適だ。
その足で皇室お抱えの宝石職人の所に行ってペンダント用の穴をあけてもらった。
「ほら、この石」
ポケットに突っこんでいた手を得意げに取り出して、握った手のひらをパッと開いた。
「うわぁ、なんて綺麗な色の石なの! 初めて見たわ」
「これが君のオーラの色だ。これをプレゼントするよ」
「え、これが? 本当に!? 有難うございます!」
今までで一番のエレンの笑顔に彼の心の奥深くが満開の花で満たされた。
「あ、でもやっぱりこんな高価な物いただけません」
「え」
しかし一瞬で萎んでしまった。
お金は使っていない。
でも神から貰ったと言ったら遠慮して受け取ってもらえないかもしれない。
ジェラールは考えた。
そこで彼女に気を遣わせないように、ジェラールも友だちの証として何かもらうことにした。
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