転生した皇帝は神の罠を乗り越える~あの日の過ちに苦しむ魂は百年の時を越え~

今井杏美

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城下町


 ガイアマーレ帝国の城下町


「相変わらず酷いな……」
 
 ジェラールはフードを深く被りながら裏通りを見渡した。

 果物や野菜、魚、肉などを売っている店でにぎわう大通りを見ると、一見、全ての民が豊かな生活を送っているように思える。
 しかしそういう民は一部分で、裏道では痩せこけた大人や子どもがうつろな目をして道端に座り込んでおり、そういう貧しい民の方が多いのだ。

「おい、そこの兄ちゃん! その子を捕まえてくれ! 泥棒だ!」

 逃げてきた男の子がジェラールにドンとぶつかると反動で地面に倒れ、懐からリンゴが一つ零れ落ちた。

「殿下、大丈夫ですか! 君も大丈夫かい?」

 護衛騎士のアランがそう言いながら倒れた子供を起こすと店主のような男が追い付いて、その子の腕をグイッと掴んだ。

「はあ、やれやれ。来い! 自警団に突き出してやる!」
「離せ!」

 ジェラールは足元に転がってきたリンゴを拾い、連れて行かれそうになってじたばたしている男の子に向かって言った。

「そこの僕、リンゴが落ちたぞ」
「……?」
「お兄さん、そのリンゴは店からこの子が盗んだ物だ。返してくれ」
「いや、これはその子のだ。何故ならこれは私が今購入してその子にあげたのだから」
「は? 何言ってんですか」

 ジェラールは懐から銀貨一枚取り出して店主に渡した。
 銀貨一枚は民の一週間分の食費程の値打ちかある。
 店主は態度を一変させ、ジェラールに愛想笑いをしながら男の子の腕を振り払うように離してその場から立ち去った。
 男の子は茫然としている。

「殿下、いいんですか?」
「アラン、これも縁だ。この子を家まで送り届けよう」
「え」
「いいだろ、僕」
「う、うん……」

 その子は七、八歳くらいだろうか、とても痩せこけている。
 どのような生活をしているのか、親はいるのかなどジェラールは知りたくなった。

 街の外れにある貧民街のような所に着くと、そこの小屋に案内された。
 ふと昔エレンが住んでいた小屋を思い出した。
 ただ、侯爵家の所有する小屋だけあって、貧民街の小屋とは比べものにならない大きさ、設備の小屋ではあった。

 上部の蝶番が壊れて今にも外れそうな扉を開けると男の子は母親の所へ一目散に走って行った。

「お母さん、このお兄さんがリンゴを買ってくれたんだよ!」

 母親は病気なのか、ベッドから起き上がることはできなさそうだ。

「まぁ、どこのどなたかは存じませんが、御親切にどうも……。でもうちにはお金がありませんので代金をお返しすることができません。どうか、そのリンゴはもって帰って下さい」
「そんな!」

 男の子は泣きそうな顔になった。

「失礼ですが、旦那さんはいらっしゃるのですか」
「いるにはいるのですが、昼間から飲んだくれて滅多にうちには帰って来ません」
「あんな奴、お父さんじゃないよ。あいつの酒代で僕が稼いだお金が全部消えていくんだ! お母さん病気なのに……」

 聞くとその子は十二歳で、薬草売りをしているという。だが今年は不作で困窮しているそうだ。
 母親に食事を与えるため自分の食事は三日前の皇后のボランティアで行われた炊き出しのご飯が最後だという。

(母上のボランティアもしないよりはましだが何の解決にもなっていないな……)

 すると突然扉が開いて男が入って来た。
 ジェラールとアランは咄嗟に腰の剣に手を添えた。

「おい、こいつらは誰だ! お前、病気の癖に男を引き込んでいたのか!」

 ジェラールに殴りかかって来そうな所をアランが見事にねじ伏せて黙らせた。

「父親か?」
「貴様らは誰だ」

 あらかた事情を話すと男は大人しくなりリンゴの代金なんて無いぜと吐き捨て小屋の裏の方に回っていった。

「お母さん、我々はリンゴの代金をもらうために来たのではありません。どうか病気が早く治るよう、あなたが食べて下さい。僕、リンゴをすりおろすことはできるか?」
「うん。あのねお兄さん、僕はリックって言うの」
「そうか、リック。俺は……ジュリーだ」

 そうジェラールが言い終わったと同時にリックは窓を見て外へ飛び出していった。

「父さん何するの!」
「離せ! こいつを売って金にする」
「駄目だよ! ジュリアは家族じゃないか!」

 父親が手綱を引いているのはまだ若いロバだ。それなのにここの住人同様体は痩せ細り、大きく潤んだ瞳は悲しげで首を前に垂れている。

 ジェラールは泣き叫ぶリックと哀れなロバを見過ごすことはできなかった。


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