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カリーヌのお茶会
見ず知らずの女性が泣いている夢を見るようになって数日。
ジェラールはその間、具合があまり良くなく皇宮を出ることもなく過ごしていた。
体の具合と言うより心の具合が悪い。
胸が詰まる感覚がして気分が塞ぐ。
そしてまた今夜も彼女の夢を見る。
どこか生々しく本当にそこにいるような感じがして手を伸ばした。
するとその姿は粉々に砕け散るガラスのように消え去ってしまった。
その瞬間猛烈に苦しくなり、そして目が覚めた。
額からは汗が滲み心臓はバタバタと激しく脈を打つ。
ジェラールは起き上がってサイドテーブルに置かれている水差しからコップに水を注いだ。
しかしその手は震えコップの淵から水が零れ落ちた。
(いったい俺はどうなってしまったんだ? 落ち着け!)
自分でも理解できない状態になんなんだと思いながら無理やり水を飲み干した。
カーテンの隙間からは光が差し込んでいた。
正午近く、ジェラールは皇后に呼ばれて皇帝と皇后の住まう宮殿に向かった。
庭を抜ければすぐだが廊下を通ると八分はかかるその場所に、彼はわざと廊下を通って行った。
「お呼びでしょうか」
「具合はどう?」
「普通です」
「カリーヌ嬢がお見舞いに来たそうですが、会わずに追い返しているそうね」
「ただでは帰らないんじゃないですか」
「なんのこと」
「母上とお茶でもして帰るのかと思って」
「なぜ私がそのようなことをすると思うのです」
「ベニュロ侯爵家の養女ですので」
皇后はそれを聞いて大きくため息を吐いた。
「馬鹿な事を……。もし私に選ぶ権利があるなら、男爵家出身の養女ではなくセシール公爵令嬢を選ぶでしょう。彼女は美しく神の血も流れていますからね」
「ああ、セシールでもよかったな。子どもの頃から知っていますし」
「はぁ。ほんとに、何を考えているのか全く分からないわ」
「婚約式は俺が十八になってからですよね」
「何が言いたいのです」
「別に」
婚約式を終えるとよほどのことが無い限りどちらか一方の意志で婚約破棄はできない。
ガイアマーレ帝国は側室を認めていないため慎重に伴侶を選ばなければ一生後悔して過ごすことになる。
だから皇家では本人の意思が一番尊重される。
「カリーヌ嬢を選んだのはあなたですよ。いいですか、近いうちに侯爵家からお茶会の招待状が届くでしょう。花でも持って行きなさい」
皇后が言わなければ招待状が届いても何らかの理由を付けて欠席するところだが、二週間後、彼は鉛のように重い心と足で仕方なくベニュロ侯爵邸でのお茶会に参加した。
ジェラールが到着すると、カリーヌと二人の令嬢は立ち上がり恭しく挨拶した。
出席者は全部で四人。小規模なお茶会で、つい最近まで男爵令嬢だった彼女が主催するには妥当な規模といえる。
一人の令嬢がすかさず彼の手にしてる花束を見て感嘆の声を上げた。
「なんて見事な花束でしょう。華やかでいて清楚で。まるでカリーヌ嬢の雰囲気を現しているようですわ」
「お幸せですね! 羨ましい」
(アランに買わせた花束だけどね)
「まぁ殿下、ありがとうございます」
彼はいつもカリーヌを通してエレンを見ていた。
だが、今顔を赤らめて喜ぶその顔に彼がエレンの面影を見ることはない。
「具合が悪くて誰のお見舞いも断っていた。せっかく来てくれたのに悪かった」
「いいえ、殿下のお加減が良くなって本当に嬉しいです。さあ皆さま、すぐに私付きのメイドが紅茶を持ってまいりますのでお待たせして申し訳ありませんがお座りください」
女性主導の会話でお茶会は進む。
意味のない世間話ばかりでなんの実りも無い。
ジェラールは貼り付けたような微笑みで適当に相槌を打っているからか段々頬がひくついてきた。
すると令嬢たちがざわつき始めた。
「……まぁ……なんてこと。あのメイドは?」
令嬢たちは持っていた扇で口元を隠した。
「みなさん、酷いと思いませんか。彼女は孤児院でただ働きをさせられていたのですよ。だから私付きのメイドとして雇うことにしたのです」
「まぁ、なんて懐の広い」
「いいえ、そんな立派なものではありません。侯爵家に元からいるメイドを養女である私付きにするのがなんだか心苦しくって。だからこれは私にとっても彼女にとっても良い選択だと思ったんです」
「なんてカリーヌ嬢は情け深く、謙虚でいらっしゃるのでしょう」
「尊敬いたしますわ」
ワゴンを押して紅茶を持って来た女性は顔を髪で半分隠して足を引きずっていた。
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