転生した皇帝は神の罠を乗り越える~あの日の過ちに苦しむ魂は百年の時を越え~

今井杏美

文字の大きさ
25 / 62

休憩小屋に行った翌日・エレンの安心とカリーヌの不安

 休憩小屋から帰った翌日のベニュロ侯爵邸。

「痛っ」
「あ、すみません!」
「ちょっともう、気を付けてよ! ワザと?」
「滅相もありません! 以後気を付けます。本当に申し訳ありません」

 朝、鏡の前でエレンに髪を梳かしてもらっているカリーヌの機嫌はいつもと違ってすこぶる悪い。

(どうしてこんな女のせいで私が気分を悪くしないといけないのよ! ムカつくわ。もう最悪)

「そういえば雇う時どうして昔ここで働いていたって言わなかったの?」
「それは……。私は昔ここで苛められていて、まだその人たちは侯爵家におりますので知られたくなくて……」

 エレンは正直に答えた。
 年も取ったし外見も全く変わったので、見ただけでは分からないだろうと思っていたのだ。
 思った通り、知ってる者に出会ってもヨルゴ以外は誰もエレンに気付かなかった。
 ジャックもカリーヌが話すまで気付かなかったくらいだ。

「苛められていた? だったらどうしてここで働こうと……あ、そういうこと」

 カリーヌは鏡越しにエレンを見てニヤついた。

「殿下に会えると思ったのね」
「……いえ、賃金が頂ける職場だったからです」
「偽名を使おうとは思わなかった?」
「……使用人の事を気にする人などいないと思っていましたし、それが私の様な者であれば余計に……」

(自分の事、ちゃんとわかっているじゃない)

 彼女の返事にカリーヌは満足げな表情になった。 
 しかしジェラールがエレンにクッキーを食べさせた時の親しい様子はどうしても彼女の心を傷つけていた。
 嫌味を言うなら彼女にしかできない。

「エレン。もしかして自分の方が殿下と親しいって私の事を陰で笑っていた?」
「そんなことありません!」
「でもね、婚約者は私なのよ。結婚してもあなたを皇宮には連れて行かないわ。私に特別に雇われたあなたはここを辞めるしかないわね」

 思いつめた顔で「はい」と答えるエレンを見て、カリーヌは皇宮に連れて行ってもらえるとでも思っていたのかと呆れた。
 しかしそうではないことがすぐにわかった。

「カリーヌ様。あの……、お願いがあるのですが、その時は他で働けるよう推薦書のような物を書いていただけないでしょうか」
「え? ……推薦書くらいは書いてあげるわよ」
「本当ですか! 有難うございます!」

 ぱあっと明るくなったエレンの顔に、カリーヌは拍子抜けした。
 てっきり皇宮に行けないから暗い顔をしているのかと思ったら推薦書のこととは。
 
 しかも頭を深く下げて何度も感謝の言葉を述べる。
 カリーヌはその様子に優越感を覚え、腹の虫が段々治まっていくのを感じた。

 

 数日後


「カリーヌお嬢様、デザイナーが参りました」とメイドが知らせに来た。

「そう。エレン、あなたはもう下がっていいわ」
「はい。では失礼いたします」

 沢山のデザイン画の書かれた見本を持ったデザイナーがエレンと入れ違いに部屋に入って行く。

「この度は私どもに仕事をご依頼くださり有難うございます」
「私の誕生パーティーに着るドレスを作ってほしいの。あと一か月も無いんだけど、急いで作ってもらえるかしら」
「そういうことでしたら針子を総動員して心を込めて製作させていただきますわ。見本は沢山持ってきましたので、ゆっくりとお選びください。もちろんカリーヌ様のご希望に沿って色やデザインはいかようにも変更可能です」

 カリーヌはデザイン画をペラペラ捲って気に入ったドレスをチェックしていく。
 部屋にデザイナーを呼んでドレスを選ぶ経験はこれが初めてだったので少し興奮気味だ。

 そのさなか、デザイナーが満面の笑みを浮かべて言った。

「皇太子殿下がちょくちょく宝飾店を訪れていると最近街で噂になっているんですよ」

 カリーヌのページを捲る手が止まる。

「誕生日プレゼントだったのですね」


 カリーヌはエレンの存在を考えるともしやと思った。

 しかし時期的に自分への誕生日プレゼントの可能性の方が高い。
 なぜなら自分は皇太子の婚約内定者なのだから。
 そのプライドから、どうしてもそう思いたかった。

 彼に伝えた覚えのない誕生日はきっと侯爵家から伝わったのだろうと、彼女は自分に都合のいい方に考えることとした。


 

感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます

白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。 特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。 だがある日、突然の婚約破棄通告――。 「やはり君とは釣り合わない」 そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。 悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。 しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。 「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」 「よければ、俺が貰ってやろうか?」 冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!? 次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには 「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」 ――溺愛モードが止まらない!

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。