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もう一人の犯人(二)
ジャックが捕まった時カリーヌは自分も捕まると思い恐ろしくなった。
皇太子の能力など全く頭に無く、それで犯人が分かってしまうとは思ってもいなかったのだ。
すぐに逃げようかとも思ったが、彼が何を言おうとそんなの嘘だと言い通せば大丈夫かもしれない、乱暴者の言うことなど誰も信じやしないと、そこに一縷の望みをかけた。
それが叶うはずはない。現に彼女は牢屋にいる。
観念したのか、力なく鉄格子にもたれながらずるずるとしゃがみ込んだ。
「殿下が私を選んだのです。なのにエレンが現れた途端、婚約内定を取り消すなんて余りにも酷いではありませんか」
彼女は小さな声で俯いてそう言った。
セシール公爵令嬢ならいざ知らず、エレンに婚約者の座を奪われるなどあってはならない。
それは自分の全てを否定されるのと同じだとカリーヌは感じた。
「人の人生と気持ちを弄んで……」
「ただで取り消そうとは思っていなかった。君には陛下が責任を持っていい結婚相手を探すということを、侯爵を呼んだあの日に言うはずだった」
それだけではなく、皇帝は侯爵に新たな領地といくばくかの補償金を与えることを約束するつもりだった。
だがそんなことはカリーヌが望むことではない。
なぜなら彼女は――。
「もちろん君が望むそれなりの地位の男を考慮に入れただろう」
「なっ!」
今の言葉ではっきり分かった。
カリーヌは、自分がジェラールからどういう目で見られていたのかを。
まるっきり違う訳ではない。
だが、皇太子に出会って新たな感情が芽生えていた彼女にとって当の本人からそう言われることはとても辛いことだった。
(あぁ……。だから、言わないで正解だったのよ……)
カリーヌの心はじわじわと凍り付いていき、全て固まった時ジェラールを慕う悲しい恋心は封印された。
すると開き直りのような気持ちが生まれてきた。
少しの沈黙の後、彼女は吹っ切れたように、且つ落ち着いた口調で自供し始めた。
「私は……彼女さえいなくなれば婚約者でいられると思いました」
思った通り、内定はそのままになっていた。
ベニュロ侯爵を呼んだとき、皇帝は内定破棄の話をせずに侯爵を帰した。
皇帝としてはエレンが亡くなってしまったのだからカリーヌとの婚約を続けるだろうと考えて話をしなかったのだ。
だがジェラールはエレンと再会する前からカリーヌを好きになることはないと思い始めていた。
例えエレンが本当に亡くなってしまったとしても、彼女と正式に婚約していたかどうかは彼自身わからないところでもあった。
「だから内定取り消しの話が出る前に彼女の訃報を伝えることが出来て安心したんですよ……。身元がすぐわかるように死体の側に彼女の荷物を置いて人目の多い所に捨てろと命令したのは正解だったようです。でも、殺し方までは命令していません。ジャックに任せました。ヨルゴの事も彼からの事後報告でした。これは本当です」
エレンが神に癒されていなければ、きっとジェラールは処刑を待たずに今ここでこの女を殺していただろう。
「……無駄話はここまでだ。今日は聞きたいことがあって来た」
カリーヌは立ち上がり奥の方に移動して座った。
「エレンには煙草の火を押し付けられた跡があった。ジャックは煙草を吸わない。他に依頼した奴がいるんじゃないのか」
「は? ジャックだけです。煙草はどこかから持って来たんじゃないですか?」
※※※
「殿下が侯爵邸に行った時エレンさんがお茶を持って来たんですよね? カリーヌのお陰で彼女と再会できたとはいえ、最初からエレンさんを利用するために孤児院から引き抜いたと思うとなんか微妙ですね」
「あの時から慈悲深い女性を演じていたんだ。恐れ入るよ」
「野心があったとしても、もっとさっぱりした女性かと思っていましたよ」
「人にはいろんな面があるからな。まぁどんな性格だろうと最悪なのは彼女が私利私欲の為に殺人を依頼したということだ」
「そうですね……どんなに自分勝手な内定取り消しに怒ったとしても、殺人依頼したんじゃ全てがパーですよね」
「おい」
「冗談です。ところで殿下。エレンさんの遺体は今どこにあるのですか? 引き取ったと仰っていましたが」
「ん、ああ。まだ誰にも言うなよ――」
アランはジェラールがあまり悲しそうではないのが不思議だったのだが、エレンが神に癒されているという話を聞いてようやく納得がいった。
皇太子の能力など全く頭に無く、それで犯人が分かってしまうとは思ってもいなかったのだ。
すぐに逃げようかとも思ったが、彼が何を言おうとそんなの嘘だと言い通せば大丈夫かもしれない、乱暴者の言うことなど誰も信じやしないと、そこに一縷の望みをかけた。
それが叶うはずはない。現に彼女は牢屋にいる。
観念したのか、力なく鉄格子にもたれながらずるずるとしゃがみ込んだ。
「殿下が私を選んだのです。なのにエレンが現れた途端、婚約内定を取り消すなんて余りにも酷いではありませんか」
彼女は小さな声で俯いてそう言った。
セシール公爵令嬢ならいざ知らず、エレンに婚約者の座を奪われるなどあってはならない。
それは自分の全てを否定されるのと同じだとカリーヌは感じた。
「人の人生と気持ちを弄んで……」
「ただで取り消そうとは思っていなかった。君には陛下が責任を持っていい結婚相手を探すということを、侯爵を呼んだあの日に言うはずだった」
それだけではなく、皇帝は侯爵に新たな領地といくばくかの補償金を与えることを約束するつもりだった。
だがそんなことはカリーヌが望むことではない。
なぜなら彼女は――。
「もちろん君が望むそれなりの地位の男を考慮に入れただろう」
「なっ!」
今の言葉ではっきり分かった。
カリーヌは、自分がジェラールからどういう目で見られていたのかを。
まるっきり違う訳ではない。
だが、皇太子に出会って新たな感情が芽生えていた彼女にとって当の本人からそう言われることはとても辛いことだった。
(あぁ……。だから、言わないで正解だったのよ……)
カリーヌの心はじわじわと凍り付いていき、全て固まった時ジェラールを慕う悲しい恋心は封印された。
すると開き直りのような気持ちが生まれてきた。
少しの沈黙の後、彼女は吹っ切れたように、且つ落ち着いた口調で自供し始めた。
「私は……彼女さえいなくなれば婚約者でいられると思いました」
思った通り、内定はそのままになっていた。
ベニュロ侯爵を呼んだとき、皇帝は内定破棄の話をせずに侯爵を帰した。
皇帝としてはエレンが亡くなってしまったのだからカリーヌとの婚約を続けるだろうと考えて話をしなかったのだ。
だがジェラールはエレンと再会する前からカリーヌを好きになることはないと思い始めていた。
例えエレンが本当に亡くなってしまったとしても、彼女と正式に婚約していたかどうかは彼自身わからないところでもあった。
「だから内定取り消しの話が出る前に彼女の訃報を伝えることが出来て安心したんですよ……。身元がすぐわかるように死体の側に彼女の荷物を置いて人目の多い所に捨てろと命令したのは正解だったようです。でも、殺し方までは命令していません。ジャックに任せました。ヨルゴの事も彼からの事後報告でした。これは本当です」
エレンが神に癒されていなければ、きっとジェラールは処刑を待たずに今ここでこの女を殺していただろう。
「……無駄話はここまでだ。今日は聞きたいことがあって来た」
カリーヌは立ち上がり奥の方に移動して座った。
「エレンには煙草の火を押し付けられた跡があった。ジャックは煙草を吸わない。他に依頼した奴がいるんじゃないのか」
「は? ジャックだけです。煙草はどこかから持って来たんじゃないですか?」
※※※
「殿下が侯爵邸に行った時エレンさんがお茶を持って来たんですよね? カリーヌのお陰で彼女と再会できたとはいえ、最初からエレンさんを利用するために孤児院から引き抜いたと思うとなんか微妙ですね」
「あの時から慈悲深い女性を演じていたんだ。恐れ入るよ」
「野心があったとしても、もっとさっぱりした女性かと思っていましたよ」
「人にはいろんな面があるからな。まぁどんな性格だろうと最悪なのは彼女が私利私欲の為に殺人を依頼したということだ」
「そうですね……どんなに自分勝手な内定取り消しに怒ったとしても、殺人依頼したんじゃ全てがパーですよね」
「おい」
「冗談です。ところで殿下。エレンさんの遺体は今どこにあるのですか? 引き取ったと仰っていましたが」
「ん、ああ。まだ誰にも言うなよ――」
アランはジェラールがあまり悲しそうではないのが不思議だったのだが、エレンが神に癒されているという話を聞いてようやく納得がいった。
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