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収束・供述(三)
ジャックがガリアスの名前を出さなかったのは単に父親の為だけだった。
彼はエレンを殺した後、万が一捕まってもガリアスの名前を決して言わないよう口止めされていた。
もし自分の名前を出したらきっと誰よりも名誉を重んじ評判を気にするベニュロ侯爵が執事を解雇して殺人犯の父親として路頭に迷うことになるだろうが、出さなければ自分が父親の執事の職は保証してやると言われたのだ。
ジャックは子どもの頃からガリアスのことをよく知っている。
面と向かって脅されることはなかったが、もしガリアスの名前を出したら父親が解雇されるどころかきっと殺されると思った、という。
ジェラールは、自分の父親へは並外れた愛情があるが他人は残酷に殺す事さえいとわないそのアンバランスさに狂気を感じた。
おぞましく、唾棄すべき存在とはこいつらのことを言うのだ。
どこに同情の余地があろうか。
「もともと殺人を依頼されたのは俺だけだし、坊ちゃんの名前を出さない事になんのわだかまりもありませんでした」
その後、ジャックは話しを変えてヨルゴ殺しについて供述した。
まずガリアスが首を絞めて殺した。
罪を着せることを思いついたのも彼。
そして自殺に見せかけるため二人で吊るしたということだ。
殺した理由は、馬車の中にエレンを連れ込んだところを見られたから。
ヨルゴの目が合った男というのがガリアスだったのだ。
「最初は殺そうとは思ってませんでした。口止めするつもりで二人でヨルゴの小屋に行ったんです。でもいるのは分かっているのにヨルゴは出なくて玄関の鍵もかけられていて、それに坊ちゃんがイライラしてきて……面倒だから殺そうと」
それでジャックが無理やり窓から入り、逃げ出そうとしたヨルゴは玄関を開けた時にガリアスに捕まってしまった。
帝国では貴族だろうと殺人を犯せば罰せられるのだが、それなのに平民を殺すことに罪の意識のない貴族は一定数いる。
それは階級差別だけではなく、平民相手の場合、金と権力で事件を葬ることができるからだ。
それがまかり通る大きな病巣を抱えた社会。
腐ってきているのは階級関係なく人間全体に言えることだ。
「エレンは……」
ジャックがそう言い出した時、ジェラールの心臓が跳ねた。
聞きたくないが聞かなければならない。
「待ち伏せ場所に行く途中、領地から戻って来た坊ちゃんに侯爵家の馬車の中から呼び止められました。言おうか迷いましたがエレン殺害依頼の話をしたらきっと面白がるだろうと思って伝えました。彼女が生きていたことを知った坊ちゃんはそれはもう驚いて、しかもカリーヌお嬢様が殺害依頼するなんてそんな面白いこと、自分も仲間に入れろと仰って……。その後、辻馬車の御者に金を渡して馬車を乗り換えました」
途中でガリアスが加わったことでジャックは殺害場所と方法を変えることになった。
「攫う時に意識を失わせたんですが、意識がないと面白くないから意識を取り戻すまで待って……。その後ナイフで切りつけて……。彼女が抵抗するから坊ちゃんが羽交い絞めにして。そして俺が依頼されたことを実行するためとどめを刺しました」
人気の無い離れた場所で殺害することになったので時間をかけてエレンをいたぶって殺したと、思い出しながら話すジャックの顔は、ややもすれば笑いながらでも言いそうな雰囲気を醸し出していた。
ジェラールの心臓は破裂しそうなほど怒りで満ち、腹から湧き上がってくる怒りの炎は内臓を焼きつくしそうなほど燃え滾る。
彼は今、この男を殺さないで耐えていられる自分が信じられない。
「四年前の火事も二人でやりました。坊ちゃんの提案です」
「動機は? 放火が大罪であることぐらい十四の子どもでも知っているだろう」
「殿下が剣の稽古に通い出してエレンを苛められなくなったから……。坊ちゃんは殿下を嫌っていていつも愚痴を言っていて……だから……」
「……まさか俺へのあてつけだと?」
「……多分」
残酷と野蛮とは同じことだろうか。
もし今ガリアスとジャックを八つ裂きにしたら、それは野蛮なことなのだろうか。野蛮になったら神殿に入れなくなってエレンに会えなくなる。
ジェラールの頭はぐるぐる回る。
彼には考えがあって処刑を先延ばしにしているだけなのだ。
だがもう一人の自分が、この感情の赴くままに行動して何が悪いのだと叫んでいる。
ジェラールは拳を握りしめ、こいつらを処刑するまであと少しの辛抱だと自分に言い聞かせ、燃え盛る怒りと憎しみの炎を胸に地下牢を後にした。
彼はエレンを殺した後、万が一捕まってもガリアスの名前を決して言わないよう口止めされていた。
もし自分の名前を出したらきっと誰よりも名誉を重んじ評判を気にするベニュロ侯爵が執事を解雇して殺人犯の父親として路頭に迷うことになるだろうが、出さなければ自分が父親の執事の職は保証してやると言われたのだ。
ジャックは子どもの頃からガリアスのことをよく知っている。
面と向かって脅されることはなかったが、もしガリアスの名前を出したら父親が解雇されるどころかきっと殺されると思った、という。
ジェラールは、自分の父親へは並外れた愛情があるが他人は残酷に殺す事さえいとわないそのアンバランスさに狂気を感じた。
おぞましく、唾棄すべき存在とはこいつらのことを言うのだ。
どこに同情の余地があろうか。
「もともと殺人を依頼されたのは俺だけだし、坊ちゃんの名前を出さない事になんのわだかまりもありませんでした」
その後、ジャックは話しを変えてヨルゴ殺しについて供述した。
まずガリアスが首を絞めて殺した。
罪を着せることを思いついたのも彼。
そして自殺に見せかけるため二人で吊るしたということだ。
殺した理由は、馬車の中にエレンを連れ込んだところを見られたから。
ヨルゴの目が合った男というのがガリアスだったのだ。
「最初は殺そうとは思ってませんでした。口止めするつもりで二人でヨルゴの小屋に行ったんです。でもいるのは分かっているのにヨルゴは出なくて玄関の鍵もかけられていて、それに坊ちゃんがイライラしてきて……面倒だから殺そうと」
それでジャックが無理やり窓から入り、逃げ出そうとしたヨルゴは玄関を開けた時にガリアスに捕まってしまった。
帝国では貴族だろうと殺人を犯せば罰せられるのだが、それなのに平民を殺すことに罪の意識のない貴族は一定数いる。
それは階級差別だけではなく、平民相手の場合、金と権力で事件を葬ることができるからだ。
それがまかり通る大きな病巣を抱えた社会。
腐ってきているのは階級関係なく人間全体に言えることだ。
「エレンは……」
ジャックがそう言い出した時、ジェラールの心臓が跳ねた。
聞きたくないが聞かなければならない。
「待ち伏せ場所に行く途中、領地から戻って来た坊ちゃんに侯爵家の馬車の中から呼び止められました。言おうか迷いましたがエレン殺害依頼の話をしたらきっと面白がるだろうと思って伝えました。彼女が生きていたことを知った坊ちゃんはそれはもう驚いて、しかもカリーヌお嬢様が殺害依頼するなんてそんな面白いこと、自分も仲間に入れろと仰って……。その後、辻馬車の御者に金を渡して馬車を乗り換えました」
途中でガリアスが加わったことでジャックは殺害場所と方法を変えることになった。
「攫う時に意識を失わせたんですが、意識がないと面白くないから意識を取り戻すまで待って……。その後ナイフで切りつけて……。彼女が抵抗するから坊ちゃんが羽交い絞めにして。そして俺が依頼されたことを実行するためとどめを刺しました」
人気の無い離れた場所で殺害することになったので時間をかけてエレンをいたぶって殺したと、思い出しながら話すジャックの顔は、ややもすれば笑いながらでも言いそうな雰囲気を醸し出していた。
ジェラールの心臓は破裂しそうなほど怒りで満ち、腹から湧き上がってくる怒りの炎は内臓を焼きつくしそうなほど燃え滾る。
彼は今、この男を殺さないで耐えていられる自分が信じられない。
「四年前の火事も二人でやりました。坊ちゃんの提案です」
「動機は? 放火が大罪であることぐらい十四の子どもでも知っているだろう」
「殿下が剣の稽古に通い出してエレンを苛められなくなったから……。坊ちゃんは殿下を嫌っていていつも愚痴を言っていて……だから……」
「……まさか俺へのあてつけだと?」
「……多分」
残酷と野蛮とは同じことだろうか。
もし今ガリアスとジャックを八つ裂きにしたら、それは野蛮なことなのだろうか。野蛮になったら神殿に入れなくなってエレンに会えなくなる。
ジェラールの頭はぐるぐる回る。
彼には考えがあって処刑を先延ばしにしているだけなのだ。
だがもう一人の自分が、この感情の赴くままに行動して何が悪いのだと叫んでいる。
ジェラールは拳を握りしめ、こいつらを処刑するまであと少しの辛抱だと自分に言い聞かせ、燃え盛る怒りと憎しみの炎を胸に地下牢を後にした。
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