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ペンダントの紐と双子の迷信
ガリアスまで捕まりベニュロ侯爵家の評判は地に落ちた。
社交界ではどこも相手にされなくなり、事業で手を組んでいた貴族や商人からも契約を切られる。
連帯責任のない帝国において、ガエタン・ベニュロ侯爵が処刑されることはない。
しかし皇帝は殺人犯を三名も出した侯爵家の領地を見せしめとして没収、煙草事業は他の貴族と商人へ分割、移管された。
同業者は煙草のイメージを悪化させたとして精神的な損害賠償金を請求。
多額の借金を背負うことになったベニュロ侯爵は侯爵としての多額の税を国に治められず破産。
それによって爵位も返上することになり、邸宅や家財道具等も没収された。
使用人たちはあの侯爵家で働いていたという悪い印象のせいで次の就職先が見つからず、大変な苦労を強いられているという。
※※※
ジェラールは大切な物をしまっておくための鍵のかかった引き出しを開けた。
そこには美しく装丁された箱とハンカチが入っている。
箱の中身は真珠のイヤリングとそれとお揃いの髪飾りだ。
ハンカチには彼がエレンにあげたペンダントが包まれていて、彼はそれを眺めながら彼女の荷物を取りに行ったことを思い出していた。
それは侯爵家が破産した後のことだ。
エレンの小屋に入ると、そこは人が住んでいたとは思えないほど殺風景で何も無かった。
ハンガーにかかっていたのはメイド服一着のみで、他には一人分のお皿とコップ、カトラリー、そして数枚の布。
孤児院から身一つでここに来たのだから色々揃っていないのは当然だが、ジェラールはやるせない気持ちになった。
それらを袋に入れていると、あの白いリスが窓辺からキュキュッと彼を呼んだ。
近づくと、手にはエレンのペンダントを持っていた。
ペンダントを外してお遣いに出たのかと少し寂しくなったが、火事の後もずっと付けていたのにどうしてその日だけ? と、いまいち釈然としない。
しかしリスからペンダントを受け取ってその理由が分かった気がした。
紐が切れていたのだ。
毎日付けていたと仮定して、すぐ結び直せるのにそうしなかったのは、多分出る直前に切れたからその暇が無かったのかもしれない。
それだけ急いで家を出たんだろうと思うと、彼はペンダントをギュッと握り締めた。
「ありがとう。盗まれないように持っていてくれたんだろう?」
このリスがそう言ったわけではないが、ジェラールにはそれが分かった。
『エレンの大切な物だから』とリスの声が聞こえた。
そしてまだ用があるらしくじっと彼を見つめている。
「そうだ、君に報告しなければいけなかった。ヨルゴとエレンを殺した奴らを捕まえたよ。君のお陰だ、ありがとう」
それを聞いたリスは嬉しそうに『ありがとう』と言って、ヨルゴの小屋の方に戻って行った。
今、紐はプラチナのチェーンに付け替えてある。
早く渡すのが楽しみで、彼の顔は自然と綻んだ。
エレンが生き返る予定の日はジェラールが十八歳の誕生日を迎える日より早い。
彼は自分の誕生日を迎えたらすぐに彼女と結婚しようと思っていた。
※※※
ガイアマーレ帝国にはある迷信がある。
それは、双子が生まれると必ずその家運が傾くというものだ。
貴族家では呪いとして怖れられていて、特に髪や瞳の色、性別の違う双子は忌み嫌われている。
ジェラールは執事の遺書に書かれていた呪いの意味が分からなかったので、ガエタン・ベニュロ夫妻が暮らす町外れの狭い借家を訪ねて聞いてみることにした。
そこでエレンとカリーヌが双子だったということを知る。
当時ナタリーに髪と瞳の色の違う双子が生まれたことを知ったベニュロ侯爵は、どちらか一方を捨てるか家族で出て行けと迫り、そしてカレンが養子に出されることとなったのだ。
その侯爵がカリーヌを養女にした理由は、エレンと似ているカリーヌなら皇太子が気に入るのではと思ったから。
エレンは死んだと思い込んでおり、ならば呪いはもう関係ないと思っていた。
カリーヌの専属メイドがエレンだと判明した時に侯爵がエレンをすぐに追い出さなかったのは、カリーヌが既に皇太子の婚約者に内定していたため今更家運が傾くこともあるまい、そして慈悲深い女性としてカリーヌを演出することが出来る、なによりここでエレンを追い出したら皇太子にカリーヌがなんと思われるか分からないという理由からだった。
ガエタンが話している途中、夫人がヒステリックに叫びだした。
「すぐにでもエレンを追い出せばよかったのです! そもそもいらぬ欲をかいてカリーヌを連れてきたから!」
そして「わあー!」と泣いて、テーブルに突っ伏した。
「いつものことです」
目を伏せてそう言ったガエタンはやつれて顔色も青黒く、昔の傲慢な貴族の面影などどこにもない。
人はこうも変わるものかとジェラールは内心驚いた。
ガエタン・ベニュロはこの後、程なくして鬱病で自殺する。
夫人からずっと侯爵の欲のせいだと責め立てられていたことも彼の病状を悪化させる一因となった。
社交界ではどこも相手にされなくなり、事業で手を組んでいた貴族や商人からも契約を切られる。
連帯責任のない帝国において、ガエタン・ベニュロ侯爵が処刑されることはない。
しかし皇帝は殺人犯を三名も出した侯爵家の領地を見せしめとして没収、煙草事業は他の貴族と商人へ分割、移管された。
同業者は煙草のイメージを悪化させたとして精神的な損害賠償金を請求。
多額の借金を背負うことになったベニュロ侯爵は侯爵としての多額の税を国に治められず破産。
それによって爵位も返上することになり、邸宅や家財道具等も没収された。
使用人たちはあの侯爵家で働いていたという悪い印象のせいで次の就職先が見つからず、大変な苦労を強いられているという。
※※※
ジェラールは大切な物をしまっておくための鍵のかかった引き出しを開けた。
そこには美しく装丁された箱とハンカチが入っている。
箱の中身は真珠のイヤリングとそれとお揃いの髪飾りだ。
ハンカチには彼がエレンにあげたペンダントが包まれていて、彼はそれを眺めながら彼女の荷物を取りに行ったことを思い出していた。
それは侯爵家が破産した後のことだ。
エレンの小屋に入ると、そこは人が住んでいたとは思えないほど殺風景で何も無かった。
ハンガーにかかっていたのはメイド服一着のみで、他には一人分のお皿とコップ、カトラリー、そして数枚の布。
孤児院から身一つでここに来たのだから色々揃っていないのは当然だが、ジェラールはやるせない気持ちになった。
それらを袋に入れていると、あの白いリスが窓辺からキュキュッと彼を呼んだ。
近づくと、手にはエレンのペンダントを持っていた。
ペンダントを外してお遣いに出たのかと少し寂しくなったが、火事の後もずっと付けていたのにどうしてその日だけ? と、いまいち釈然としない。
しかしリスからペンダントを受け取ってその理由が分かった気がした。
紐が切れていたのだ。
毎日付けていたと仮定して、すぐ結び直せるのにそうしなかったのは、多分出る直前に切れたからその暇が無かったのかもしれない。
それだけ急いで家を出たんだろうと思うと、彼はペンダントをギュッと握り締めた。
「ありがとう。盗まれないように持っていてくれたんだろう?」
このリスがそう言ったわけではないが、ジェラールにはそれが分かった。
『エレンの大切な物だから』とリスの声が聞こえた。
そしてまだ用があるらしくじっと彼を見つめている。
「そうだ、君に報告しなければいけなかった。ヨルゴとエレンを殺した奴らを捕まえたよ。君のお陰だ、ありがとう」
それを聞いたリスは嬉しそうに『ありがとう』と言って、ヨルゴの小屋の方に戻って行った。
今、紐はプラチナのチェーンに付け替えてある。
早く渡すのが楽しみで、彼の顔は自然と綻んだ。
エレンが生き返る予定の日はジェラールが十八歳の誕生日を迎える日より早い。
彼は自分の誕生日を迎えたらすぐに彼女と結婚しようと思っていた。
※※※
ガイアマーレ帝国にはある迷信がある。
それは、双子が生まれると必ずその家運が傾くというものだ。
貴族家では呪いとして怖れられていて、特に髪や瞳の色、性別の違う双子は忌み嫌われている。
ジェラールは執事の遺書に書かれていた呪いの意味が分からなかったので、ガエタン・ベニュロ夫妻が暮らす町外れの狭い借家を訪ねて聞いてみることにした。
そこでエレンとカリーヌが双子だったということを知る。
当時ナタリーに髪と瞳の色の違う双子が生まれたことを知ったベニュロ侯爵は、どちらか一方を捨てるか家族で出て行けと迫り、そしてカレンが養子に出されることとなったのだ。
その侯爵がカリーヌを養女にした理由は、エレンと似ているカリーヌなら皇太子が気に入るのではと思ったから。
エレンは死んだと思い込んでおり、ならば呪いはもう関係ないと思っていた。
カリーヌの専属メイドがエレンだと判明した時に侯爵がエレンをすぐに追い出さなかったのは、カリーヌが既に皇太子の婚約者に内定していたため今更家運が傾くこともあるまい、そして慈悲深い女性としてカリーヌを演出することが出来る、なによりここでエレンを追い出したら皇太子にカリーヌがなんと思われるか分からないという理由からだった。
ガエタンが話している途中、夫人がヒステリックに叫びだした。
「すぐにでもエレンを追い出せばよかったのです! そもそもいらぬ欲をかいてカリーヌを連れてきたから!」
そして「わあー!」と泣いて、テーブルに突っ伏した。
「いつものことです」
目を伏せてそう言ったガエタンはやつれて顔色も青黒く、昔の傲慢な貴族の面影などどこにもない。
人はこうも変わるものかとジェラールは内心驚いた。
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