転生した皇帝は神の罠を乗り越える~あの日の過ちに苦しむ魂は百年の時を越え~

今井杏美

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皇帝として

 ジェラールの目下の悩みはカレンの処刑だ。
 記憶が戻ったエレンにもし処刑しないでほしかったと言われたら……。
 犯罪者の処刑に特例はない。
 だがエレンが悲しむ顔も彼は見たくなかった。

 
 そうこうしている内に、皇帝になってから初めて神殿へお祈りに行く日がやってきた。
 
 神殿の前の石畳。
 普段なら何も考えずその上に立つが、今日は直前にふと入れないかもしれないという不安が過った。

 しかし足を乗せるといつも通り気付けば神殿に入っていた。

 もし入れなかったら神の世界に入れる身体ももらうことはできなかっただろう。
 それを考えるとどうして処刑前にそのことを思い出さなかったのか、その時は今後の自分の考えを貴族や民たちに知らしめること、そして三人もの人間を殺したガリアスとジャックを残酷に処刑することしか頭に無かった。
 入れたからよかったものの、ジェラールは今になって身震いした。

 
 
「どうしたんだい。皇帝になったというのに、もっと意気揚々とした顔をしているかと思ったよ」
「どうして神殿に入れたのかと思って」
「何が言いたい?」
「エレンを殺した男たちを火あぶりの刑に処したのです。残酷な方法だったので神殿には入れないかと思っていました」
「ほお」
「残酷なことは野蛮なことだと思うのですが」
「私が野蛮な人間は入れないと言ったのはそういう意味ではないよ」
「でもそれが一番当てはまりますよね……」
「悪い芽は摘んで構わない。その方法は君がしたいようにしていい」
「では火あぶりも問題は無かったと?」
「もちろん。君はそうすることができるに生まれて、それを適切に、自由に行使できる能力と権限がある」
「俺が皇帝だから?」
「一万年後辺りには人間も、そもそも処刑すら存在しないけどね」

 遠すぎる未来のことをいきなり言われて変な顔になるジェラールにアルマン神はにっこり笑って続けた。

、君にできることは皇帝として最善を尽くすことだ」
「……はい」
「後悔しているのか?」
「していません」
「それならいい。悪い芽はどんどん摘みたまえ」


 その日ジェラールは通常通り十五分ほどで神殿を後にした。

 アルマン神との会話の後、何よりエレンの事を知りたかった彼はマルセラン神から彼女は特に変わりはないと教えてもらった。
 だがもう彼女はジェラールと対等ではないとも言われた。
 人間の世界は下位の次元だから、エレンの方がジェラールよりも高等な存在なのだ。

 彼女との精神的な距離を遠ざけるようなことを言われて少し不快に感じたが、最終的には「だから十分に精進することだ」と言われた。

(そんなことわかっているさ)

 ジェラールはそう思いながら宮殿へ戻ると、馬小屋近くで散歩から戻ってくるリックとジュリアに居合わせた。

「お帰りなさいませ、陛下」
「ただいま、リック、ジュリア」

 ジュリアが頭を上下に揺さぶって『お帰りなさい』と言った。

 ジェラールはジェイジェイにも同様に「ご苦労様、ありがとう」と言って頭を撫でると、『神殿に行くのはいつも楽しいです』という返事が返ってきた。

 動物と意思疎通のできる能力が発現したジェラールは、次は狸たちとも会話してみるかとウキウキと馬小屋から出る時、ハタと思い出してジェイジェイの手綱を引くリックを呼び止めた。

「そうそう、リック。ジェロモン皇帝がどうして神殿に入れなくなったのか神に聞いたよ。いつも言おうと思っていたのだがつい忘れてしまって、遅くなってすまない」
「そんな畏れ多い! 謝られる必要なんて全くありません。むしろ私などに教えていただけるなど、有難くて死にそうです!」
「はは。大袈裟だなぁ。ジェロモン皇帝は野蛮になって堕ちてしまったから入れなくなったそうだよ」
「……」
「俺もよくわからなかった。ははは」
「……じゃあジェロモン皇帝が短命だったのはその堕ちたことと関係があるんでしょうか」
「短命? そうだったか?」
「はい。結構若くてお亡くなりになっています。跡を継いだのは弟君のジェノワー皇帝ですが、その次の皇帝はジェロモン皇帝の子どもなんですよね」

 オキー! オキー!

 ジュリアが急に鳴き出したのでリックは何事かと思い、ジェラールに断ってジュリアの馬房に走った。
 
 その直後ジェラールは激しい動悸に襲われた。

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