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処刑と前世
幸いジェラールの動悸はすぐに治まり、リックもそれに気づかなかったようで何事もなくジェラールは宮殿へ戻った。
執務室に戻ると皇帝の側近兼護衛となったアランにカレンの処刑を三日後に行うから準備をする様にと指示した。
その夜、ジェラールは久々に見知らぬ女性が泣いている夢を見た。
暫く見ていなかったのでもう見ることは無いと安心していたのに、不快な目覚めで心臓がドキドキしている。
今回は背景もはっきり認識でき、その場所は高級な調度品の並ぶ広い部屋で、まさに皇宮の一室であると思われた。
※※※
処刑前日、ジェラールはカレンの牢屋へ足を運んだ。
やつれ果てた彼女のストレートの黒髪はぺったりと頭皮に貼りついて数本の束になっている。
カレンはできるだけそんな自分が彼の目に映らないよう隅の方に縮こまって足を抱えた。
「ジャックとガリアスは処刑された」
「……」
「三人の人間を殺した罪だ」
カレンは僅かに顔を上げて「三人?」と声にはならない呟きをした。
「一人はお前の本当の母親だ。火事で亡くなったのは聞いただろう。それはジャックとガリアスの放火によるものだ」
カレンの母親が姉のナタリーの死があの二人の放火によるものと知ったのは彼らの処刑の日だった。
その後カレンにそのことを伝える時間はあったが、自分の本当の母親を殺した男に自分の双子の姉を殺す依頼をしたという残酷な事実を伝えることはどうしてもできなかったのだ。
ジェラールの持っているランタンの光では事実を知った彼女の細かい表情の変化までは分からない。
だが静かに整っていた牢屋の空気が急に暴れ出した様な変化をジェラールは感じ取った。
カレンの乱れた息遣いと心臓の鼓動が微かに聴こえてくる。
そしてカレンは再び蹲った。
ジェラールはエレンが生き返ったことを言うつもりはない。
生き返ったからといって彼女の処刑がなくなるわけではないのだから一筋の希望の光を一瞬でも与えることは逆に残酷な気がした。
ベニュロ侯爵と自分に振り回された彼女への多少の憐憫もある。
だから死刑になって当然の罪を犯したと思いながら処刑に臨む方が彼女にとって精神的に楽であろうという思いがジェラールにはあった。
「最後に言いたいことはあるか」
沈黙が続いてジェラールがもう帰ろうかと思い始めた頃、カレンが声を発した。
かなり小さかったのでジェラールは聞き洩らさないよう集中した。
「双子は……出会うべきじゃなかった……」
迷信ではあるが、彼女らの周りを見るとやはり信じるに値する不幸が訪れているのは確かなことだ。
たとえそれが自らの過ちを迷信のせいにしているに過ぎなくても。
カレンはそれ以上口を開くことは無かった。
ガリアスとジャックの処刑が行われた街の広場で、多くの聴衆の中ただ一組の夫婦だけが涙を流しながら祈りを捧げている。
爽やかな秋の日、カレンの斬首刑が執行された。
※※※
ガイアマーレ帝国の皇宮にある図書館は世界一の規模を誇る。
ここをお気に入りの場所にしているのはエルネストとセシール公爵令嬢だが、今日はジェラールが分厚い本を手に取り机に座っている。
北側に位置する図書館は秋の終わりともなると薄ら寒い。
ジェラールはくしゃみをしながら乾燥した指で本のページをめくる。
読んでいるのは歴代の皇帝史だ。
自分の前世のジェロモン皇帝の事すら知ろうとしなかったくらい本とは無縁のジェラールだったが、リックから短命だったと聞いて少し気になりだした。
どういう生涯だったのか。
短命とコラリーヌを裏切ったことと関係があるのか。
皇帝史には歴代皇帝の生年月日、没年、神殿に入れたか否か、能力、施政、その代の国の様子などが細かく記されている。
ジェロモン皇帝は二十五歳で突然死をしていた。
そして彼の特別な能力は動物との意思疎通だ。
神殿に入れる皇族の特別な能力の中で特に多かったのがこの動物との意思疎通の能力で、次いで植物・鉱石との意思疎通、オーラが見える、の順だ。
(やっぱり前世の能力だったか。にしても若くて突然死とは……)
読み進めても突然死に関しての詳しい記述は特にない。
事件性は無しかと思いながらページをめくると皇帝と皇后の肖像画が載っていた。
ジェロモン皇帝は黒髪で青い瞳という近年の皇族によくある特徴を持っている。
自分とそっくりな顔にジェラールはあまりいい気はせず、口がへの字に曲がった。
そして隣に描かれている皇后の肖像画に目をやると……。
波打つ金髪と大きな青い瞳。
彼は思わず息を呑んだ。
執務室に戻ると皇帝の側近兼護衛となったアランにカレンの処刑を三日後に行うから準備をする様にと指示した。
その夜、ジェラールは久々に見知らぬ女性が泣いている夢を見た。
暫く見ていなかったのでもう見ることは無いと安心していたのに、不快な目覚めで心臓がドキドキしている。
今回は背景もはっきり認識でき、その場所は高級な調度品の並ぶ広い部屋で、まさに皇宮の一室であると思われた。
※※※
処刑前日、ジェラールはカレンの牢屋へ足を運んだ。
やつれ果てた彼女のストレートの黒髪はぺったりと頭皮に貼りついて数本の束になっている。
カレンはできるだけそんな自分が彼の目に映らないよう隅の方に縮こまって足を抱えた。
「ジャックとガリアスは処刑された」
「……」
「三人の人間を殺した罪だ」
カレンは僅かに顔を上げて「三人?」と声にはならない呟きをした。
「一人はお前の本当の母親だ。火事で亡くなったのは聞いただろう。それはジャックとガリアスの放火によるものだ」
カレンの母親が姉のナタリーの死があの二人の放火によるものと知ったのは彼らの処刑の日だった。
その後カレンにそのことを伝える時間はあったが、自分の本当の母親を殺した男に自分の双子の姉を殺す依頼をしたという残酷な事実を伝えることはどうしてもできなかったのだ。
ジェラールの持っているランタンの光では事実を知った彼女の細かい表情の変化までは分からない。
だが静かに整っていた牢屋の空気が急に暴れ出した様な変化をジェラールは感じ取った。
カレンの乱れた息遣いと心臓の鼓動が微かに聴こえてくる。
そしてカレンは再び蹲った。
ジェラールはエレンが生き返ったことを言うつもりはない。
生き返ったからといって彼女の処刑がなくなるわけではないのだから一筋の希望の光を一瞬でも与えることは逆に残酷な気がした。
ベニュロ侯爵と自分に振り回された彼女への多少の憐憫もある。
だから死刑になって当然の罪を犯したと思いながら処刑に臨む方が彼女にとって精神的に楽であろうという思いがジェラールにはあった。
「最後に言いたいことはあるか」
沈黙が続いてジェラールがもう帰ろうかと思い始めた頃、カレンが声を発した。
かなり小さかったのでジェラールは聞き洩らさないよう集中した。
「双子は……出会うべきじゃなかった……」
迷信ではあるが、彼女らの周りを見るとやはり信じるに値する不幸が訪れているのは確かなことだ。
たとえそれが自らの過ちを迷信のせいにしているに過ぎなくても。
カレンはそれ以上口を開くことは無かった。
ガリアスとジャックの処刑が行われた街の広場で、多くの聴衆の中ただ一組の夫婦だけが涙を流しながら祈りを捧げている。
爽やかな秋の日、カレンの斬首刑が執行された。
※※※
ガイアマーレ帝国の皇宮にある図書館は世界一の規模を誇る。
ここをお気に入りの場所にしているのはエルネストとセシール公爵令嬢だが、今日はジェラールが分厚い本を手に取り机に座っている。
北側に位置する図書館は秋の終わりともなると薄ら寒い。
ジェラールはくしゃみをしながら乾燥した指で本のページをめくる。
読んでいるのは歴代の皇帝史だ。
自分の前世のジェロモン皇帝の事すら知ろうとしなかったくらい本とは無縁のジェラールだったが、リックから短命だったと聞いて少し気になりだした。
どういう生涯だったのか。
短命とコラリーヌを裏切ったことと関係があるのか。
皇帝史には歴代皇帝の生年月日、没年、神殿に入れたか否か、能力、施政、その代の国の様子などが細かく記されている。
ジェロモン皇帝は二十五歳で突然死をしていた。
そして彼の特別な能力は動物との意思疎通だ。
神殿に入れる皇族の特別な能力の中で特に多かったのがこの動物との意思疎通の能力で、次いで植物・鉱石との意思疎通、オーラが見える、の順だ。
(やっぱり前世の能力だったか。にしても若くて突然死とは……)
読み進めても突然死に関しての詳しい記述は特にない。
事件性は無しかと思いながらページをめくると皇帝と皇后の肖像画が載っていた。
ジェロモン皇帝は黒髪で青い瞳という近年の皇族によくある特徴を持っている。
自分とそっくりな顔にジェラールはあまりいい気はせず、口がへの字に曲がった。
そして隣に描かれている皇后の肖像画に目をやると……。
波打つ金髪と大きな青い瞳。
彼は思わず息を呑んだ。
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