転生した皇帝は神の罠を乗り越える~あの日の過ちに苦しむ魂は百年の時を越え~

今井杏美

文字の大きさ
48 / 62

新しい治世

 夢に出てくる女性はコラリーヌだと思っていた。
 架空の人物でないとしたら、それ以外にはありえないほどの確信をジェラールは持っていた。
 それがまさか皇后だったとは。
 
 でもどうして? と疑問が湧いてすぐに自分がジェロモン皇帝の生まれ変わりだからだと納得する。
 皇后は早くに亡くなってしまった皇帝の死が悲しくて泣いていたのかもしれないと彼は思った。
 
 皇后の名はレリアン。
 レリアン皇后はジェロモン皇帝が亡くなってから皇太后となるも一年半で病死している。
 そして皇后の実家の侯爵家はセシール公爵令嬢の母方の実家筋に当たるということが分かった。

 それ以上の詳しいことは皇帝史には載っておらず、ジェラールは本を閉じた。
 
 図書館から出ると、大きな籠を抱えているエルネストに出くわし、彼は「陛下が図書館から出てきた!」とびっくりした顔で大声を出した。

「悪かったな……」
「ははは」
「ところでなんだ、その籠は」
「ピンクです。図書館でも大人しくしてくれるんでたまに連れて来るんです」
「ふーん」

 ジェラールが覗くとウルウルした黒い瞳のピンクと目が合った。

『ジュリアと遊びたい』

「……おい、『ジュリアと遊びたい』って言っているぞ」
「え、本当ですか? じゃあ図書館は後にしてジュリアの所に行くとするか」

 ここ数日皇帝の補佐として忙しく狸たちの世話が疎かになっていたエルネストは馬小屋に向かい、それに釣られるようにこの後予定のないジェラールも後をついて行った。


 ※※※

 まだ前皇帝の治世だった夏の作物の収穫は最悪だったにもかかわらず、次の秋の収穫は大豊作となった。
 冬になると早くから雪が降りだして、この調子で積もると来年も豊作に違いないと民は喜んだ。

 そのためジェラール皇帝は帝国民から多くの支持を得て、その政治も盤石なものとなる。

 まず彼が手を入れたのは、民が生活に苦しんでいた頃に不当に税金を上げ作物を取り立て、備蓄を放出せずに民を苦しめた領主を罰して領地を没収することだった。

 皇太子時代のお忍びでそのような領主は特定できていたため、時間をかけずに処分することが可能だった。
 
 前皇帝はジェラールが何を言っても備蓄放出の通達は出していると言ったきり調査官を送ることもせず、領主任せで放ったらかしにしていた。
 自分が神の血筋であることに胡坐をかいてあまり民の事を考えていなかったのだ。
 そんな父親をジェラールはとても情けなく感じ、また憤ってもいたが、そんな父親だからこそこんなに早く譲位してもらえたとも言える。

 ジェラールの代では多くの貴族が罰せられることになった。


 そして年が明け、新しい政策が発表された。
 帝国民で希望する者全てが無償で文字を習得できるように各領地ごとに学ぶ場所や機会を作ることが領主に義務付けられたのだ。
 これは後にこの帝国の各地に大学ができる基盤となる。

 この政策の陣頭に立っているのはエルネストとセシールで、特にセシールは情熱を燃やしており、この政策に自分も加わらせてくれと自ら皇帝に申し出たほどだ。

 貴族女性が政治に参加することは異例でそのような習慣はまだ帝国にはなかったが、セシールに弱いエルネストの頼みもあって二人でやるならとジェラールは了承した。

 実は二人は婚約している。
 昨年の初秋に婚約してエルネストの強い希望ですぐに内定式を執り行ったためセシールは正式な婚約者である。

 

 月日は矢のように過ぎて行き、その間、豊作と種々の新政策が相まって人々の生活は豊かになりホームレスや孤児も激減していく。
 これは帝国が豊かになって国の税収も上がったことで、国民にその利益を還元できたからなのだが、不正を働く貴族がいなくなったからスムーズにできたことだとも言える。

 豊作に関しては、迷信など全く信じていなかったジェラールも頭をひねるしかない。
 不思議と次の年も、また次の年も豊作になる。


 そして神との約束は残り半年。
 彼にとって永遠に感じる程の三年間もあと少しで終わる。

 ここまで彼を突き動かし続けてきたのはエレンへの愛だ。
 彼女への愛は決して消えることは無い。

 ジェラールは毎晩彼女との思い出を手繰り寄せ、彼女が自分を思い出す日を待ち続けていた。


 
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます

白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。 特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。 だがある日、突然の婚約破棄通告――。 「やはり君とは釣り合わない」 そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。 悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。 しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。 「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」 「よければ、俺が貰ってやろうか?」 冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!? 次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには 「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」 ――溺愛モードが止まらない!

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。