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泉の出会い
二月の寒い冬の日、神殿からの帰りジェラールはジェイジェイに水を飲ませるため泉に寄った。
神殿へ行く時は皇帝になってもアランと二人だけということは変わっていないのだが、今日はアランが熱を出したため一人だ。
「俺がお前とここにくる冬は今日が最後になるな」
たてがみを撫でながらそう言うと、『次は暖かい日ですね』とジェイジェイは言った。
三月はまだ肌寒いが比較的寒さに強い馬には丁度いいのだろう。
ジェイジェイはジェラールが神の世界に行ったら引退となるが、まだ若馬なのでエルネストに譲ることになっている。
ジェイジェイに水を飲ませている間、ジェラールが伸びをして肩を回しながら何気なしに周りを見回すと、一人の女性がうつぶせで倒れているのを見つけた。
死体かと思って近寄ったら息をしている。
声をかけても返事は無いので気を失っているようだ。
額からは汗が滲み出ており、触ってみると少し熱がある。
このままにはしておけないので取り敢えず休憩小屋まで運ぶことにした。
そしてジェラールは軽く眉間に皺を寄せながら簡易ベッドに寝かせた彼女をじっと見つめた。
血色のいいバラ色の頬と唇。透き通るような白い肌。
オリーブ色の髪は肩までのストレートでどことなくエキゾチックな雰囲気を漂わせている女性。
こんな寒空の中、露出の激しい踊り子の様な格好をしている。
眠っている彼女から分かることはそれだけだが、ジェラールが関心があるのはこの女性の外見ではない。
彼女にはオーラが無いのだ。
死体はオーラが無い。
彼はおかしいと思いながら、もしかして気を失ったらオーラが消えるのか? とまで考えて顔を覗き込んだ。
すると、突然パチッと目を覚ました女性と目が合った。
「うわっ」
びっくりして飛び退いたジェラールは自分でもわからないが慌てて釈明を始めた。
「何もしていない! 何もしようとはしていない! ただ、ちょっと確認したいことが――!」
目を開けた女性は翡翠色の大きな瞳をしていて、息を呑むほどの美しい顔をしていた。
バラの花とユリの花、艶やかさと清楚さを併せ持つ何とも言えない魅力を持つ女性。
絶世の美女と言ってもいい。
(……これは……なんと……!)
これまでどんなに美しい女性を見てもなんとも思わなかったジェラールですらびっくりするほどだ。
彼は口をポカンとあけたまま固まってしまった。
「ここは?」
鈴を転がしたような、心をくすぐられる声にジェラールは我に返った。
「……あっ、ここは泉の近くにある皇室所有の休憩小屋です。泉で倒れていたあなたを放っては置けず連れてきました。私は怪しいものではありません。ガイアマーレ帝国の皇帝、ジェラールです」
女性はプリエールと名乗った。
ガイアマーレ帝国と海を挟んだ国の出身で、誘拐され船でこの国に連れてこられたが、逃げてたまたまここに辿り着いたらしい。
喉が渇いて泉の水を飲んで一息ついていたら、頭がふらふらしてきて倒れてしまったということだった。
ジェラールは熱のある彼女を皇宮に連れて帰り医者に診せることにした。
回復したら警護の者をつけて元の国に返すつもりでいる。
しかし周りはそうは見なかった。
皇宮に連れて帰った時、貴族や使用人たち全ての老若男女が彼女を見てその圧倒的な美しさに心を奪われた。
彼女を世話する侍女たちの中には彼女が皇后になることを願う者も出てきた。
慣例に拘る老いた貴族でさえも偉大なジェラール皇帝に相応しい皇后はプリエール以外にいないと、彼女の出自など何もわかっていないのにそう言い出す始末だ。
周りのおかしな目にジェラールは辟易してため息を吐いた。
しかも何を勘違いしたのか侍女長が彼女に案内したのはエレンに用意していた、ジェラールの部屋と内扉で続いている部屋だった。
エレンがその部屋に来ることは無いしプリエールは体調が回復したら国に帰すため、他の部屋に移すように言わなかったのがいけない。
それが周りを余計に勘違いさせてしまうことになったのだ。
「参ったな……」
「仕方ないですよ、だって世にも稀なる美しさじゃないですか! 彼女を逃したらもう彼女以上の美しさを持つ女性など現れませんよ! まさに千年に一度、いや、一万年に一度と言ってもいいと思います!」
「お前、それをセシールのいる前で言ったらすぐに婚約破棄されるぞ」
「っ、それは困ります。……けど……」
エルネストは熱に浮かされたようにプリエールの事を考えている。
「おい……」
「でも、もしセシールと出会う前に彼女と会っていたら……」
「エルネスト! いい加減にしろ!」
ジェラールの怒号が飛んだ。
神殿へ行く時は皇帝になってもアランと二人だけということは変わっていないのだが、今日はアランが熱を出したため一人だ。
「俺がお前とここにくる冬は今日が最後になるな」
たてがみを撫でながらそう言うと、『次は暖かい日ですね』とジェイジェイは言った。
三月はまだ肌寒いが比較的寒さに強い馬には丁度いいのだろう。
ジェイジェイはジェラールが神の世界に行ったら引退となるが、まだ若馬なのでエルネストに譲ることになっている。
ジェイジェイに水を飲ませている間、ジェラールが伸びをして肩を回しながら何気なしに周りを見回すと、一人の女性がうつぶせで倒れているのを見つけた。
死体かと思って近寄ったら息をしている。
声をかけても返事は無いので気を失っているようだ。
額からは汗が滲み出ており、触ってみると少し熱がある。
このままにはしておけないので取り敢えず休憩小屋まで運ぶことにした。
そしてジェラールは軽く眉間に皺を寄せながら簡易ベッドに寝かせた彼女をじっと見つめた。
血色のいいバラ色の頬と唇。透き通るような白い肌。
オリーブ色の髪は肩までのストレートでどことなくエキゾチックな雰囲気を漂わせている女性。
こんな寒空の中、露出の激しい踊り子の様な格好をしている。
眠っている彼女から分かることはそれだけだが、ジェラールが関心があるのはこの女性の外見ではない。
彼女にはオーラが無いのだ。
死体はオーラが無い。
彼はおかしいと思いながら、もしかして気を失ったらオーラが消えるのか? とまで考えて顔を覗き込んだ。
すると、突然パチッと目を覚ました女性と目が合った。
「うわっ」
びっくりして飛び退いたジェラールは自分でもわからないが慌てて釈明を始めた。
「何もしていない! 何もしようとはしていない! ただ、ちょっと確認したいことが――!」
目を開けた女性は翡翠色の大きな瞳をしていて、息を呑むほどの美しい顔をしていた。
バラの花とユリの花、艶やかさと清楚さを併せ持つ何とも言えない魅力を持つ女性。
絶世の美女と言ってもいい。
(……これは……なんと……!)
これまでどんなに美しい女性を見てもなんとも思わなかったジェラールですらびっくりするほどだ。
彼は口をポカンとあけたまま固まってしまった。
「ここは?」
鈴を転がしたような、心をくすぐられる声にジェラールは我に返った。
「……あっ、ここは泉の近くにある皇室所有の休憩小屋です。泉で倒れていたあなたを放っては置けず連れてきました。私は怪しいものではありません。ガイアマーレ帝国の皇帝、ジェラールです」
女性はプリエールと名乗った。
ガイアマーレ帝国と海を挟んだ国の出身で、誘拐され船でこの国に連れてこられたが、逃げてたまたまここに辿り着いたらしい。
喉が渇いて泉の水を飲んで一息ついていたら、頭がふらふらしてきて倒れてしまったということだった。
ジェラールは熱のある彼女を皇宮に連れて帰り医者に診せることにした。
回復したら警護の者をつけて元の国に返すつもりでいる。
しかし周りはそうは見なかった。
皇宮に連れて帰った時、貴族や使用人たち全ての老若男女が彼女を見てその圧倒的な美しさに心を奪われた。
彼女を世話する侍女たちの中には彼女が皇后になることを願う者も出てきた。
慣例に拘る老いた貴族でさえも偉大なジェラール皇帝に相応しい皇后はプリエール以外にいないと、彼女の出自など何もわかっていないのにそう言い出す始末だ。
周りのおかしな目にジェラールは辟易してため息を吐いた。
しかも何を勘違いしたのか侍女長が彼女に案内したのはエレンに用意していた、ジェラールの部屋と内扉で続いている部屋だった。
エレンがその部屋に来ることは無いしプリエールは体調が回復したら国に帰すため、他の部屋に移すように言わなかったのがいけない。
それが周りを余計に勘違いさせてしまうことになったのだ。
「参ったな……」
「仕方ないですよ、だって世にも稀なる美しさじゃないですか! 彼女を逃したらもう彼女以上の美しさを持つ女性など現れませんよ! まさに千年に一度、いや、一万年に一度と言ってもいいと思います!」
「お前、それをセシールのいる前で言ったらすぐに婚約破棄されるぞ」
「っ、それは困ります。……けど……」
エルネストは熱に浮かされたようにプリエールの事を考えている。
「おい……」
「でも、もしセシールと出会う前に彼女と会っていたら……」
「エルネスト! いい加減にしろ!」
ジェラールの怒号が飛んだ。
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