転生した皇帝は神の罠を乗り越える~あの日の過ちに苦しむ魂は百年の時を越え~

今井杏美

文字の大きさ
62 / 62

それから(二)最終回

 皇宮の一角にある祭殿の壇上に新郎と新婦が立った。

 壇上の奥には海の神と大地の神の大きな彫像が祀られている。
 その前で、二人はお互いの愛を宣誓する。

 それを一番前で座って見ているジェラールがエレンに言った。

「あの宣誓は、それぞれが考えた言葉なんだよ。だから人によって違うんだ」
「まぁ、そうだったの。とても感動的だわ。でも考えるのは大変よね。私だったらとても無理。こんな大勢の前で発表しなきゃならないんだもの、変なことは言えないし」
「君が大変だと思ったならきっと俺が君の分も考えていたよ」
「ふふふ、ありがとう」
「はぁ。兄上は相変わらずエレンさんに甘々だな」

 
 式の終わりを告げる鐘の音が街に鳴り響いた。

 初夏の空には小鳥たちが飛び交い、脇道に置かれた木箱の上で眠っていた猫が起きて伸びをした。
 その横では犬が前足をクロスさせ落ち着いた様子で座っている。
 街の喧騒はどこ吹く風だ。



 パレードに行く二人を見送ったエレンとジェラールはジュリアに会いに行った。
 本当はジェイジェイにも会いたかったが一昨年老衰で亡くなったという。
  
 ジュリアはジェラールを見つけると興奮して嬉しそうにオキーオキーと鳴いた。
 結構な年だが元気そうだ。

 エレンはジュリアを見るなりなんて可愛いロバなのと頭を撫で回した。

「ところでお前は知っているかなぁ」
『なんでしょう?』
「レリアンが持っていた大地の神のコーラルカメオを見たことあるか? 結婚した時ジェロモンの母親があげたものだ」
『コーラルカメオのブローチなら見たことあります。夫婦で出かける時などつけておりましたよ』
「それって白っぽい薄いピンクの?」
『そうですね』
「ああ、やっぱりそうか。不思議な縁もあるもんだな……」

 ジェラールがアレットとマクシミリアンの縁をしみじみと感じていると、気付いたらエレンの姿が見えない。
 軽く見回したら彼女は馬小屋の近くでしゃがんでいた。
 後ろからそっと近づくと、そこには五つの小さな墓標があった。

 ジェラールは彼女の肩をポンとたたいた。

「ねえ、この子たちは幸せな人生だったわね」
「そうだな。セシールは動物が好きじゃなかったんだが最終的には仲良くなったみたいでびっくりだよ」
「今はウサギを七匹飼っているって」

 それを言う時セシールは自慢げに“七匹”と強調した。

「エルネストが言うにはセシールは奇数に美を見出すみたいなんだ。中でも一と自分自身でしか割れない数がお気に入りみたいだ」
「私にはよくわからないけど、セシール様がそう仰るならきっと美しいんでしょうね」
「彼女は昔からちょっと変わっていたからな」
「でもセシール様が今大学の学長をなさっているなんて、凄いわ。時代も変わったのね」
「あの大学は彼女が心血を注いでいたからなぁ」



「おい、来たぞ! 皇帝と平民出身の皇后だ!」

 通りをゆっくりと進む四頭立ての馬車の上で、マクシミリアンが震えるアレットの手をそっと握り締めた。

 彼は子どもの頃からずっと目標にしていたこの日を愛する者と迎えることが出来て感無量だ。
 自分たちを祝福する民を前に、この帝国にさらなる繁栄をもたらすことを心の中で改めて誓った。
 そして何より今日は両親と生まれて初めて会った日。

 これまでのことが思い出される。



 彼は三歳の時に自分の生まれた意味と役割をマルセラン神から教えられた。
 とてもびっくりしたが、それを胸に刻んで立派な人間になろうと誓った。
 そしてマクシミリアンは三歳にして知っていた。
 本当の両親が海の神の世界にいるということを。

 赤ん坊の頃から持っている、金銀の粒が美しい白い楕円形の石から教えてもらったのだ。
 それはエレンのペンダントだ。

 彼の特別な能力は動物、そして鉱石と意思疎通ができる能力だった。 

 実子ではない事を知っていたという事を皇帝と皇后に告げたのは彼が十歳の時で、二人は彼が大人になるまで言わないことにしていてそれを隠し通せていると思っていただけにびっくりした。

 知っていたのに会いたいと言って泣いたりしていなかった彼を、さすが他の子どもとは違うと周りは増々神聖視した。

 彼にとってそれは自分の言動が正しいことを意味していた。
 だから会いたいとか寂しいとか、子どもっぽい本当の気持ちを出したらいけない。
 皇帝と皇后が心配しないように立派でいようと努力した。

 マクシミリアンはそうやって成長していき、自分でも本当の両親のことなどなんとも思わなくなったはずだったが――。

 
 今日、彼は両親に会って胸が燃えるように熱くなって幼い子どものように声を出して泣きたくなってしまった。
 それをギリギリのところで我慢した。

 そんな感情が自分には残っていたのかと、自分がおかしくて彼はアレットの顔を見た。
 自分は皇后になることに大きな不安を抱いているこの女性の夫であり帝国の皇帝なのだからしっかりしなくてはいけないと、今一度胸に刻むように。

 アレットは両親を四歳で亡くしてその後たった一人で花売りをしていた所をマクシミリアンの祖母に庭の花の水遣り係りとして拾われた。
 平民に対して愛情があまりない祖母だったが、さすがに見るに見かねての事だった。
 マクシミリアンとアレットは子どもの頃にそこで出会い、仲良くなっていったのだ。



「マックス様、明日も元皇帝陛下の離宮に遊びに行くのなら、早く寝ないといけませんよ」
「うん、そうだね! ねえねえウージェニー、母上のお話して」
「ふふふ。またですか。マックス様がこんなにお母君の話を聞きたがっているなんて、誰が想像できましょう」
「二人だけの秘密だよ! あ、違う。アレットも知ってるよ」
「そうでございますか」
「早く早く!」
「はいはい。ではベッドにお入りになってください」


 

「ふっ」
「マック、どうしたの?」
「いや……、ちょっと昔を思い出してね」

 マクシミリアンは俄かに立ち上がった。
 そして民衆に向かって大きく手を振ると、ひときわ大きな歓声が上がった。
 再び神殿に入ることが出来る皇帝の誕生。
 これまでも悪くは無かったが、民衆の今度の皇帝への期待はそれ以上に大きい。

 マクシミリアン皇帝を見ながら男が小さく呟いた。

「なんだか新しい時代の幕開けって感じがするなぁ」



 終わり




感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます

白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。 特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。 だがある日、突然の婚約破棄通告――。 「やはり君とは釣り合わない」 そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。 悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。 しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。 「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」 「よければ、俺が貰ってやろうか?」 冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!? 次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには 「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」 ――溺愛モードが止まらない!

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

咲妃-saki-
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。