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太陽の章 王族
親睦パーティー(二)
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***クリビア
テネカウ神父は私の伝言をロータスへ伝えることが出来なかったと言って謝った。
ガルシアに戻った時、ロータスはいなくなっていたという。
「つきあっていた女性とはどうなったのですか。てっきりその女性がカラスティアの王妃になるものと思っていましたが、まだ彼は独りですよね」
「ジュリアナさんのことですか……」
ふいに耳に入った名前にドキッとした。
テネカウ神父は、うむ……と眉間に皺を寄せている。
そして気持ち小声になって、私に近づいて言った。
「彼女は亡くなりました。公には自殺という事になっています」
「え!?」
「彼女の仕事先の医師が仕事に来ない彼女を心配して家まで行ったら亡くなっていたらしいです」
「それはまたどうして……。でも公には自殺って、本当は違うのですか?」
「それはわかりませんが……」
これ以上私がくじりいって聞くのもおかしいと思ったので、この話はここで止めてもよかった。
でも彼は周りを気にしながら更に小声で続けた。
「死ぬ数日前に見知らぬ男が彼女の家の周りをうろついているのを見たと言う近所の人の証言があるのです」
「……怪しいですね」
「でも医師が既に自殺と処理したそれを覆すほどの証拠ではありません。ロータス様に振られて自殺したという方が自然です」
「ロータスが振った?」
「はい。引きとめる彼女を置いて一人で家を出て行かれた所を大勢が見ております」
「ああ……一緒に暮らしていたのですか……」
「……はい」
テネカウ神父は少し気まずそうに、心配そうに私を見た。
大丈夫。
傷ついたりしない。
彼はジュリアナさんを振ってどこかへ行った。
そしてシタールを滅ぼした。
その事実は、入場直後からずっと私に纏わりついている視線と合わせて考えると、彼がシタールを滅ぼして私を迎えに行ったという意味にとれる。
この視線は結婚した私への恨みの視線かもしれない。
「彼にも先ほどジュリアナさんが亡くなったことをお伝えしました」
「ショックだったでしょうね、一度は好きになった女性なのですから」
「うーん……」
「テネカウ神父?」
「ん、ああ、すみません。ゴホン……ええと、それと、お伝えできなかった殿下の御伝言もお伝えしました。それには本当に驚かれたようで、今にも殿下を問いただそうとする勢いでしたよ。隣にいた外交官の男性が必死に落ち着かせてくれて事なきを得たという感じです」
やっぱりロータスは私の事を怒っている。
でも彼に私を怒る資格はない。
若い女性の笑い声が後ろの方から聞こえてきて、テネカウ神父がハハッと呆れたような笑い声を漏らした。
「彼を見て下さいよ。バハルマの貴族女性たちに囲まれていますよ。あれでは悲しむ暇もありませんね」
「結構なことですわ」
私は後ろを振り向かなかった。目が合って気にしていると思われたくない。
彼が昔からモテる男性だということは知っている。
婚約したのは子どもの頃だったけど、それでも大勢の貴族女性は諦めていなかったと聞いたことがある。
舞踏会で踊った時も彼は女性から熱い視線を受けていて嫉妬してしまったくらいだ。
モテるのだから、その時も私の知らない所で浮気をしていたのだろうか。
ちょっと考えて、自分の馬鹿さ加減に苦笑する。
今さら勘繰ってどうなる。
どうでもいいことだ。
それよりも、さっきまでヴァルコフ国王と一緒だったネベラウ枢機卿猊下がこちらにやって来たからロータスを脱獄させた時のお礼を言わなければ。
枢機卿はふっくらとした顔にいつも微笑んでいるような垂れ目をしていて、厳しさは感じないけど威厳がある。
「王妃殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「お久し振りです、ネベラウ枢機卿猊下。いつぞやは私の頼みをお聞き届けくださり有難うございました。本当はもっと早くお礼を申し上げたかったのですが、父に監……」
監禁と言おうとして止めた。
場が白けるだけだし自分の弱みを言ってもなんにもならない。
ところが猊下は私がシタール王国で受けていた仕打ちを知っていたようだった。
「わかっております。そのことは誰にも言っておりませんのでご安心ください。私としましても、あの頃は殿下のことを知っていたにも拘わらず、何もして差し上げられなくて心苦しく思っておったのです」
猊下が言い終わると、テネカウ神父がすぐに「“そのことだけは”猊下にお伝えしたのです。申し訳ありません」と私に謝った。
「司祭は心配して私に言ったのでしょうから許してやってください」
「もちろんです。怒ってなんかいません」
「それにしても今では立派なバハルマの王妃殿下であらせられるのだ。まことに陛下の懐も広いというものですな」
これは初夜が済んでいないのに王妃の仕事をしている私への嫌味だろうか。
いい人だと思っていたのにいきなり突き落とされた。
肯定も否定もしたくない。
愛想笑いでやり過ごそう。
「もうロータス国王陛下とはお話をされましたか」
「いいえ」
「お互い違う道を歩まれて何年も経ちます。積もる話もございましょう」
そんなものはない。
猊下は私とロータスとで話をさせたいのだろうか。
なんだか嫌な予感がする。
すると私を呼ぶ”優しい声”が聞こえた。
テネカウ神父は私の伝言をロータスへ伝えることが出来なかったと言って謝った。
ガルシアに戻った時、ロータスはいなくなっていたという。
「つきあっていた女性とはどうなったのですか。てっきりその女性がカラスティアの王妃になるものと思っていましたが、まだ彼は独りですよね」
「ジュリアナさんのことですか……」
ふいに耳に入った名前にドキッとした。
テネカウ神父は、うむ……と眉間に皺を寄せている。
そして気持ち小声になって、私に近づいて言った。
「彼女は亡くなりました。公には自殺という事になっています」
「え!?」
「彼女の仕事先の医師が仕事に来ない彼女を心配して家まで行ったら亡くなっていたらしいです」
「それはまたどうして……。でも公には自殺って、本当は違うのですか?」
「それはわかりませんが……」
これ以上私がくじりいって聞くのもおかしいと思ったので、この話はここで止めてもよかった。
でも彼は周りを気にしながら更に小声で続けた。
「死ぬ数日前に見知らぬ男が彼女の家の周りをうろついているのを見たと言う近所の人の証言があるのです」
「……怪しいですね」
「でも医師が既に自殺と処理したそれを覆すほどの証拠ではありません。ロータス様に振られて自殺したという方が自然です」
「ロータスが振った?」
「はい。引きとめる彼女を置いて一人で家を出て行かれた所を大勢が見ております」
「ああ……一緒に暮らしていたのですか……」
「……はい」
テネカウ神父は少し気まずそうに、心配そうに私を見た。
大丈夫。
傷ついたりしない。
彼はジュリアナさんを振ってどこかへ行った。
そしてシタールを滅ぼした。
その事実は、入場直後からずっと私に纏わりついている視線と合わせて考えると、彼がシタールを滅ぼして私を迎えに行ったという意味にとれる。
この視線は結婚した私への恨みの視線かもしれない。
「彼にも先ほどジュリアナさんが亡くなったことをお伝えしました」
「ショックだったでしょうね、一度は好きになった女性なのですから」
「うーん……」
「テネカウ神父?」
「ん、ああ、すみません。ゴホン……ええと、それと、お伝えできなかった殿下の御伝言もお伝えしました。それには本当に驚かれたようで、今にも殿下を問いただそうとする勢いでしたよ。隣にいた外交官の男性が必死に落ち着かせてくれて事なきを得たという感じです」
やっぱりロータスは私の事を怒っている。
でも彼に私を怒る資格はない。
若い女性の笑い声が後ろの方から聞こえてきて、テネカウ神父がハハッと呆れたような笑い声を漏らした。
「彼を見て下さいよ。バハルマの貴族女性たちに囲まれていますよ。あれでは悲しむ暇もありませんね」
「結構なことですわ」
私は後ろを振り向かなかった。目が合って気にしていると思われたくない。
彼が昔からモテる男性だということは知っている。
婚約したのは子どもの頃だったけど、それでも大勢の貴族女性は諦めていなかったと聞いたことがある。
舞踏会で踊った時も彼は女性から熱い視線を受けていて嫉妬してしまったくらいだ。
モテるのだから、その時も私の知らない所で浮気をしていたのだろうか。
ちょっと考えて、自分の馬鹿さ加減に苦笑する。
今さら勘繰ってどうなる。
どうでもいいことだ。
それよりも、さっきまでヴァルコフ国王と一緒だったネベラウ枢機卿猊下がこちらにやって来たからロータスを脱獄させた時のお礼を言わなければ。
枢機卿はふっくらとした顔にいつも微笑んでいるような垂れ目をしていて、厳しさは感じないけど威厳がある。
「王妃殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「お久し振りです、ネベラウ枢機卿猊下。いつぞやは私の頼みをお聞き届けくださり有難うございました。本当はもっと早くお礼を申し上げたかったのですが、父に監……」
監禁と言おうとして止めた。
場が白けるだけだし自分の弱みを言ってもなんにもならない。
ところが猊下は私がシタール王国で受けていた仕打ちを知っていたようだった。
「わかっております。そのことは誰にも言っておりませんのでご安心ください。私としましても、あの頃は殿下のことを知っていたにも拘わらず、何もして差し上げられなくて心苦しく思っておったのです」
猊下が言い終わると、テネカウ神父がすぐに「“そのことだけは”猊下にお伝えしたのです。申し訳ありません」と私に謝った。
「司祭は心配して私に言ったのでしょうから許してやってください」
「もちろんです。怒ってなんかいません」
「それにしても今では立派なバハルマの王妃殿下であらせられるのだ。まことに陛下の懐も広いというものですな」
これは初夜が済んでいないのに王妃の仕事をしている私への嫌味だろうか。
いい人だと思っていたのにいきなり突き落とされた。
肯定も否定もしたくない。
愛想笑いでやり過ごそう。
「もうロータス国王陛下とはお話をされましたか」
「いいえ」
「お互い違う道を歩まれて何年も経ちます。積もる話もございましょう」
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猊下は私とロータスとで話をさせたいのだろうか。
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