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星の章 願い
船上での再会
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***クリビア
アスター王子は私の船酔いを心配して船の中央部にある部屋をとってくれた。
そこなら揺れも感じにくいらしい。
急に乗船したのに、そんな部屋を取れたのはさすが王族だ。
「お気遣い有難うございます」
「どうってことないよ。王族の船が今ちょうど点検している最中でね、それだったらもっとよかったんだけど。それより疲れたでしょう、少し休みましょうか。私の部屋は同じ階の端っこなので何かあったら呼んでください」
彼はにっこり笑って自分の部屋へ入って行った。
私も部屋に入ると、とても広くて美しくセンスのいい調度品が飾られていた。
贅沢だなあと思ったけど、船酔いの辛さを思えばその心遣いは有難く受け取ろう。
海の見える窓際の大きなベッドに横になると、緊張が解けて昼だというのに睡魔が襲ってきた。
目覚めたのは日が沈んだばかりで星がちらほら見え始めた頃だった。
部屋を出ると足は自然に船頭へ向いた。
デッキには大勢の乗客が出ていて、楽団の演奏に合わせて踊る人、お酒を飲んで陽気に騒いでいる人などとても賑やかだ。
少し離れた静かな場所で遠巻きに見ていると、いきなり誰かに話しかけられた。
「すみません、マリアンヌさんじゃないですか?」
振り向くと、背の高い黒髪のハンサムな男が立っていた。
「まあランス伯爵、偶然ですね」
「やっぱりあなたでしたか!」
眩しい笑顔で再会にとても喜んでいる彼を余所に、私はマリウスを捜した。
いるわけないのに。
「あの、マリウスはどうしていますか?」
「元気ですよ。姉の看病をしながら医師の家で暮らすことになりました」
「ジュリアナさんの容態は?」
「意識は戻っていません。でも彼は希望を捨てずに看病していますよ」
「そうですか……」
住む場所があるなら何はともあれ安心した。
「あなたのお体の方も順調そうで本当に良かった! ちょうど安定期くらいでしょうから船旅も大丈夫でしょう」
その時アスター王子が急ぎ足でやってきた。
「クリビア、こちらは誰――って、君はランス伯爵じゃないか!」
「おお、これはアスター王子殿下。え、でもどうしてマリアンヌさんと? クリビアって……?」
***ランス伯爵
船頭では晴れ渡る夜空にドーンと花火が一発打ち上げられた。
それを機に次々と打ち上げられる花火に人々の歓声が湧き起こる。
デッキチェアにはクリビアさんを挟んでアスター王子と私が座る。
三か月ぶりに会ったマリアンヌさんはあのバハルマのクリビア王妃だった。
噂なら知っている。
だが前世の世界も、この世界も、噂はあてにならないと言うのは共通だ。
全てがそうという訳ではないだろうが、彼女に関してはそうなのだ。
泥棒だったら私に診察費などを払おうとするわけがない。そのひとつだけで、他の噂も嘘だと分かる。
娼婦だと? 笑わせるな。彼女の言動、佇まいのどこが娼婦なのだ。
彼女が熱中症で倒れたのも、川辺で倒れていたのも、あんな噂を立てられるほどバハルマでの彼女の生活がいかに過酷なものだったかの結果なのだ。
彼女の境遇を思うと心が痛む。
しかもクリビア王妃といえばシタール王国の元王女だ。
この偶然を私はどう受け止めればいい?
嬉しくてどうにかなりそうだ。
私は彼女の子どもの頃を知っている。
船酔いした彼女を介抱したことがあるのだ。
それも付きっきりで介抱したのだが、それは彼女が王女だったからではなく、前世の感情と関係していて――。
私は前世の記憶が戻ってからこの世界でも医師になろうと思った。
同時に当時の恋人である美砂を求める気持ちも蘇り、それがとても辛かった。
何故生まれ変わってまでもその感情を引きずっているのか。
美砂への気持ちを否定しているわけではない。思い出としてならわかる。
だが、それはもう終わった人生で、二人とも既にこの世にいない。
でもこの感情は今まさに彼女に恋焦がれているあの感情なのだ。
なんという執着心。
自分でも恐ろしく、それが嫌だったのでこの忌々しい感情を忘れようとした。
なのにそれは絶対にダメだと無意識の魂が暴れ出す。
そのせいで私はろくに女性と恋愛できず、結婚も親に言われるがままの政略結婚。
それが何故か二十歳の頃、船で出会ったクリビア王女と一緒にいると美砂を求める胸の苦しみがスーッとなくなり楽になったのだ。
船酔いで苦しんでいる姿が可哀想でなんとかしてあげたかったのも確かだが、なにより魂が十も年の離れたこの子の側にいたいと言っているのがわかって、私は素直にその声に従うことにした。
マリアンヌさんに対しても同じだったのは同一人物なのだから当然だ。
私は彼女となら美砂への気持ちを忘れることができるのだ。
だからといってどうすればいい?
どうにもならない。
ただ、私があなたの味方だと知ってほしくなった。
彼女は自分がクリビア王女だったことを私に話した時、表情が暗かった。
きっと私が噂を知っていると思ったのだろう。
だからこそ言いたい。
目をきらきらさせながら花火を堪能する彼女に話しかけた。
「クリビアさん、今更こんなことを言うのもなんですが、私はあなたの噂など初めから全くのデタラメだと思っていたんですよ。どの国も王宮は伏魔殿です。普通の人間では耐えられないでしょう。そのうち真実は明らかになります」
彼女は急にそんなことを言われたからか、びっくりした顔をしたが、静かに「ありがとうございます」と言って微笑んだ。
アスター王子は私の船酔いを心配して船の中央部にある部屋をとってくれた。
そこなら揺れも感じにくいらしい。
急に乗船したのに、そんな部屋を取れたのはさすが王族だ。
「お気遣い有難うございます」
「どうってことないよ。王族の船が今ちょうど点検している最中でね、それだったらもっとよかったんだけど。それより疲れたでしょう、少し休みましょうか。私の部屋は同じ階の端っこなので何かあったら呼んでください」
彼はにっこり笑って自分の部屋へ入って行った。
私も部屋に入ると、とても広くて美しくセンスのいい調度品が飾られていた。
贅沢だなあと思ったけど、船酔いの辛さを思えばその心遣いは有難く受け取ろう。
海の見える窓際の大きなベッドに横になると、緊張が解けて昼だというのに睡魔が襲ってきた。
目覚めたのは日が沈んだばかりで星がちらほら見え始めた頃だった。
部屋を出ると足は自然に船頭へ向いた。
デッキには大勢の乗客が出ていて、楽団の演奏に合わせて踊る人、お酒を飲んで陽気に騒いでいる人などとても賑やかだ。
少し離れた静かな場所で遠巻きに見ていると、いきなり誰かに話しかけられた。
「すみません、マリアンヌさんじゃないですか?」
振り向くと、背の高い黒髪のハンサムな男が立っていた。
「まあランス伯爵、偶然ですね」
「やっぱりあなたでしたか!」
眩しい笑顔で再会にとても喜んでいる彼を余所に、私はマリウスを捜した。
いるわけないのに。
「あの、マリウスはどうしていますか?」
「元気ですよ。姉の看病をしながら医師の家で暮らすことになりました」
「ジュリアナさんの容態は?」
「意識は戻っていません。でも彼は希望を捨てずに看病していますよ」
「そうですか……」
住む場所があるなら何はともあれ安心した。
「あなたのお体の方も順調そうで本当に良かった! ちょうど安定期くらいでしょうから船旅も大丈夫でしょう」
その時アスター王子が急ぎ足でやってきた。
「クリビア、こちらは誰――って、君はランス伯爵じゃないか!」
「おお、これはアスター王子殿下。え、でもどうしてマリアンヌさんと? クリビアって……?」
***ランス伯爵
船頭では晴れ渡る夜空にドーンと花火が一発打ち上げられた。
それを機に次々と打ち上げられる花火に人々の歓声が湧き起こる。
デッキチェアにはクリビアさんを挟んでアスター王子と私が座る。
三か月ぶりに会ったマリアンヌさんはあのバハルマのクリビア王妃だった。
噂なら知っている。
だが前世の世界も、この世界も、噂はあてにならないと言うのは共通だ。
全てがそうという訳ではないだろうが、彼女に関してはそうなのだ。
泥棒だったら私に診察費などを払おうとするわけがない。そのひとつだけで、他の噂も嘘だと分かる。
娼婦だと? 笑わせるな。彼女の言動、佇まいのどこが娼婦なのだ。
彼女が熱中症で倒れたのも、川辺で倒れていたのも、あんな噂を立てられるほどバハルマでの彼女の生活がいかに過酷なものだったかの結果なのだ。
彼女の境遇を思うと心が痛む。
しかもクリビア王妃といえばシタール王国の元王女だ。
この偶然を私はどう受け止めればいい?
嬉しくてどうにかなりそうだ。
私は彼女の子どもの頃を知っている。
船酔いした彼女を介抱したことがあるのだ。
それも付きっきりで介抱したのだが、それは彼女が王女だったからではなく、前世の感情と関係していて――。
私は前世の記憶が戻ってからこの世界でも医師になろうと思った。
同時に当時の恋人である美砂を求める気持ちも蘇り、それがとても辛かった。
何故生まれ変わってまでもその感情を引きずっているのか。
美砂への気持ちを否定しているわけではない。思い出としてならわかる。
だが、それはもう終わった人生で、二人とも既にこの世にいない。
でもこの感情は今まさに彼女に恋焦がれているあの感情なのだ。
なんという執着心。
自分でも恐ろしく、それが嫌だったのでこの忌々しい感情を忘れようとした。
なのにそれは絶対にダメだと無意識の魂が暴れ出す。
そのせいで私はろくに女性と恋愛できず、結婚も親に言われるがままの政略結婚。
それが何故か二十歳の頃、船で出会ったクリビア王女と一緒にいると美砂を求める胸の苦しみがスーッとなくなり楽になったのだ。
船酔いで苦しんでいる姿が可哀想でなんとかしてあげたかったのも確かだが、なにより魂が十も年の離れたこの子の側にいたいと言っているのがわかって、私は素直にその声に従うことにした。
マリアンヌさんに対しても同じだったのは同一人物なのだから当然だ。
私は彼女となら美砂への気持ちを忘れることができるのだ。
だからといってどうすればいい?
どうにもならない。
ただ、私があなたの味方だと知ってほしくなった。
彼女は自分がクリビア王女だったことを私に話した時、表情が暗かった。
きっと私が噂を知っていると思ったのだろう。
だからこそ言いたい。
目をきらきらさせながら花火を堪能する彼女に話しかけた。
「クリビアさん、今更こんなことを言うのもなんですが、私はあなたの噂など初めから全くのデタラメだと思っていたんですよ。どの国も王宮は伏魔殿です。普通の人間では耐えられないでしょう。そのうち真実は明らかになります」
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