57 / 65
最終章 命を救う魔剣
私の魔剣と陛下の心
しおりを挟む
***エリノー公爵
多くの国民が悲しみに包まれたベルナルド王子の葬儀から数週間が経ち、宮廷内での業務は日常が戻ってきた。
クリビアさんのことは、助けることができたのに恩を着せて無理やり連れ帰ることもせず逆に諦めたなんて、陛下もかっこいいじゃないかと正直思った。
ただ、どこかエネルギーが足りないというか薄くなったというか……。
王子の死も影響しているんだろう。
二人を失ったことが陛下の心を変えたのかは分からないが、陛下は以前のようにきちんと政務を行うようになった。
これまでたまっていた書類の山がどんどん低くなっていくのを見るのは気持ちがいい。
私も書類に集中していると、俄かに陛下が口を開いた。
「エリノー、この間魔法鍛冶職人の世界に行っただろ、そしたら既にあの者たちは魔剣を作り始めていたんだ」
「……魔剣は一本しか作らないんじゃありませんでしたっけ?」
「王子の誕生祝いでヴァルコフ国王が来た日にこの世界と繋がって、短期間に二度も繋がることなどこれまでなかったそうだから、妙な胸騒ぎがしたんだと。それで念のため作り始めたらしい」
「ヴァルコフ国王が来た日に繋がったって、なんだかあれですねぇ……」
私がそう言うと陛下は含み笑いした。
「……。でだ、もう出来上がったかもしれないから取って来てくれないか、二本」
「二本? どうして……」
「いいから取ってこい」
そうして翌朝、私はトマシス鉱山へ向かうことになった。
休みなのか、閑散とした鍛冶場の入口でこんにちわと叫ぶと奥からアペロスが出てきた。
「これは、エリノー公爵。ようこそいらっしゃいました」
「魔剣を取りに来ました」
「グッドタイミングですね。昨日出来上がったばかりなんですよ」
「既に作っておられたと聞きました。それに加えて陛下がもう一本頼んだので無理されたんじゃないでしょうか」
「そういうのも我々の役目ですからね。ところで公爵のご様子だと、クリビアさんは助かって陛下も生きておられるのですね」
「おかげさまで。ありがとうございます」
「中途半端な気持ちだと、陛下も亡くなってしまいますから心配はしていたんですよ」
「え? 王家の血筋なら死なないと聞きましたが」
「そうなんですが、自分の命と引き換えにでも救いたいという気持ちにほんの少しでも迷いがあれば、王家の血筋だとしても胸を刺したら普通に死んでしまうのです」
「……ほんの少しでも?」
「はい。ほんの少しでも」
血の気が引いた。
陛下がサントリナへ立つ時に自分なら胸を突いても死なないと言ったから安心して見送ったのだ。
きっと私がうるさく言うと思って言わなかったんだろう。
万が一クリビアさんへの気持ちが少しでも薄らいでいたらとんでもないことになっていたじゃないか。
それだけ陛下はご自分の愛を確信していたということだけど、拒否されたのに……、凄いな……。
「でも良かったです。本当に命を懸けてでも救いたかった女性なのですね。あ、今魔剣を持ってくるのでちょっとお待ち下さい」
結果的には良かったけど、魔剣は武器として使うに限るとつくづく思った。
アペロスが私の顔を見てニコニコしながら魔剣を持って奥から出てきた。
二本だけど軽い。
そして外から見えないよう大切に袋に入れて帰途についた。
「やはりできていたか。一本はお前用だ、ほら」
「私に!?」
「俺とお前で持てばこれまで以上にダキアは強くなる。これでダキアの人数を増やす必要はない。名声の為にダキアに入ろうとする奴などいつ裏切るか知れたもんじゃないだろ。それにアペロスらはお前の為に魔剣を作り始めていたんだよ」
「本当ですか!?」
夢のようだ。感動して魔剣を持つ手が震える。
「でもどうして……?」
「お前の疑いが晴れたからだ」
「なんですか、それ!?」
詳しく聞くと、最初の頃、魔法鍛冶職人集団は私が陛下と従弟という立場もあって裏切るかもしれないと疑っていたらしい。
でも、シタール王国を襲撃する頃にはその疑いも消えて、私にも作っていいと考えるようになったと言う。
疑われていたとは露知らず。
結構なショックだけど、今は信用されていることが素直に嬉しい。
魔剣を眺めてうっとりしていたら、陛下がおもむろに心の内を話し出した。
「実はな、アペロスから王家の血筋しか命を救う魔剣として使う事はできないと聞いて、それなら俺がベルナルドに使うか? と思ったんだ。その時は命を懸けてでもっていう条件が頭から抜けていて、俺ならできると思った。お前がクリビアの事を伝えに来る前だ」
「陛下が!?」
「なんだ」
「いえ、なんでもありません」
「でも条件を思い出した時に王家の血筋でも死ぬことがあると聞いて諦めた。クリビアなら胸を突き刺しても俺は死なないという自信があったのに王子にはなかった。おかしいだろう……」
陛下は自嘲的な笑みを見せて目を伏せた。
こんなことを私に言うなんて心が弱っているとしか思えない。
仕方のないことだけど。
なんとか励まして差し上げたい。
「どうか元気をお出しください。きっとベルナルド王子はもっと素晴らしい両親の方がいいと思ってお隠れになったのでしょう。仲の悪い両親、しかも自分を愛してくれない父親なんて嫌ですもんね。先見の明がおありになったのです」
「……お前……」
「私では陛下をお慰めすることは難しいかもしれませんが、私はどんな陛下であっても陛下から離れません。一生ついて行きます! そして頂いたこの魔剣で陛下とこの国の為に身を捧げるつもりです」
「……はぁ……。そうか、頼もしい限りだ」
それから三か月後、陛下がナイフで刺され倒れた。
多くの国民が悲しみに包まれたベルナルド王子の葬儀から数週間が経ち、宮廷内での業務は日常が戻ってきた。
クリビアさんのことは、助けることができたのに恩を着せて無理やり連れ帰ることもせず逆に諦めたなんて、陛下もかっこいいじゃないかと正直思った。
ただ、どこかエネルギーが足りないというか薄くなったというか……。
王子の死も影響しているんだろう。
二人を失ったことが陛下の心を変えたのかは分からないが、陛下は以前のようにきちんと政務を行うようになった。
これまでたまっていた書類の山がどんどん低くなっていくのを見るのは気持ちがいい。
私も書類に集中していると、俄かに陛下が口を開いた。
「エリノー、この間魔法鍛冶職人の世界に行っただろ、そしたら既にあの者たちは魔剣を作り始めていたんだ」
「……魔剣は一本しか作らないんじゃありませんでしたっけ?」
「王子の誕生祝いでヴァルコフ国王が来た日にこの世界と繋がって、短期間に二度も繋がることなどこれまでなかったそうだから、妙な胸騒ぎがしたんだと。それで念のため作り始めたらしい」
「ヴァルコフ国王が来た日に繋がったって、なんだかあれですねぇ……」
私がそう言うと陛下は含み笑いした。
「……。でだ、もう出来上がったかもしれないから取って来てくれないか、二本」
「二本? どうして……」
「いいから取ってこい」
そうして翌朝、私はトマシス鉱山へ向かうことになった。
休みなのか、閑散とした鍛冶場の入口でこんにちわと叫ぶと奥からアペロスが出てきた。
「これは、エリノー公爵。ようこそいらっしゃいました」
「魔剣を取りに来ました」
「グッドタイミングですね。昨日出来上がったばかりなんですよ」
「既に作っておられたと聞きました。それに加えて陛下がもう一本頼んだので無理されたんじゃないでしょうか」
「そういうのも我々の役目ですからね。ところで公爵のご様子だと、クリビアさんは助かって陛下も生きておられるのですね」
「おかげさまで。ありがとうございます」
「中途半端な気持ちだと、陛下も亡くなってしまいますから心配はしていたんですよ」
「え? 王家の血筋なら死なないと聞きましたが」
「そうなんですが、自分の命と引き換えにでも救いたいという気持ちにほんの少しでも迷いがあれば、王家の血筋だとしても胸を刺したら普通に死んでしまうのです」
「……ほんの少しでも?」
「はい。ほんの少しでも」
血の気が引いた。
陛下がサントリナへ立つ時に自分なら胸を突いても死なないと言ったから安心して見送ったのだ。
きっと私がうるさく言うと思って言わなかったんだろう。
万が一クリビアさんへの気持ちが少しでも薄らいでいたらとんでもないことになっていたじゃないか。
それだけ陛下はご自分の愛を確信していたということだけど、拒否されたのに……、凄いな……。
「でも良かったです。本当に命を懸けてでも救いたかった女性なのですね。あ、今魔剣を持ってくるのでちょっとお待ち下さい」
結果的には良かったけど、魔剣は武器として使うに限るとつくづく思った。
アペロスが私の顔を見てニコニコしながら魔剣を持って奥から出てきた。
二本だけど軽い。
そして外から見えないよう大切に袋に入れて帰途についた。
「やはりできていたか。一本はお前用だ、ほら」
「私に!?」
「俺とお前で持てばこれまで以上にダキアは強くなる。これでダキアの人数を増やす必要はない。名声の為にダキアに入ろうとする奴などいつ裏切るか知れたもんじゃないだろ。それにアペロスらはお前の為に魔剣を作り始めていたんだよ」
「本当ですか!?」
夢のようだ。感動して魔剣を持つ手が震える。
「でもどうして……?」
「お前の疑いが晴れたからだ」
「なんですか、それ!?」
詳しく聞くと、最初の頃、魔法鍛冶職人集団は私が陛下と従弟という立場もあって裏切るかもしれないと疑っていたらしい。
でも、シタール王国を襲撃する頃にはその疑いも消えて、私にも作っていいと考えるようになったと言う。
疑われていたとは露知らず。
結構なショックだけど、今は信用されていることが素直に嬉しい。
魔剣を眺めてうっとりしていたら、陛下がおもむろに心の内を話し出した。
「実はな、アペロスから王家の血筋しか命を救う魔剣として使う事はできないと聞いて、それなら俺がベルナルドに使うか? と思ったんだ。その時は命を懸けてでもっていう条件が頭から抜けていて、俺ならできると思った。お前がクリビアの事を伝えに来る前だ」
「陛下が!?」
「なんだ」
「いえ、なんでもありません」
「でも条件を思い出した時に王家の血筋でも死ぬことがあると聞いて諦めた。クリビアなら胸を突き刺しても俺は死なないという自信があったのに王子にはなかった。おかしいだろう……」
陛下は自嘲的な笑みを見せて目を伏せた。
こんなことを私に言うなんて心が弱っているとしか思えない。
仕方のないことだけど。
なんとか励まして差し上げたい。
「どうか元気をお出しください。きっとベルナルド王子はもっと素晴らしい両親の方がいいと思ってお隠れになったのでしょう。仲の悪い両親、しかも自分を愛してくれない父親なんて嫌ですもんね。先見の明がおありになったのです」
「……お前……」
「私では陛下をお慰めすることは難しいかもしれませんが、私はどんな陛下であっても陛下から離れません。一生ついて行きます! そして頂いたこの魔剣で陛下とこの国の為に身を捧げるつもりです」
「……はぁ……。そうか、頼もしい限りだ」
それから三か月後、陛下がナイフで刺され倒れた。
0
あなたにおすすめの小説
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。
テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる