【完結】愛の輪廻~愛する人の為に別れを決意したら運命の人と出会いました~

今井杏美

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最終章 命を救う魔剣

二大悪女とネベラウ枢機卿の日記帳

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 ***ロータス

 処刑の日。
 空には重苦しい雲が低く垂れこめている。

 広場にはバハルマからカラスティアに移送されたヴァルコフ国王一家の処刑を見ようと、群衆がわんさと押しかけていた。
 人々のざわめきが空気を震わせ、緊張感が漂う。

 処刑台の周りは武装した兵士たちが厳重に警備しており、処刑人は無表情で準備を進めている。
 手にしている鋭い大きな斧の存在感は震えるほど恐ろい。

 ヴァルコフ一家がみずぼらしい格好で連行されてくるのを俺は壇上の上から見ている。

 処刑をするのは息子たちから。
 最初はカリアスが処刑台にあげられた。
 失禁している彼は目に見えるほど大きく震え、何かブツブツ言っている。

 処刑人が一歩前に進み出て握られた斧が鈍い光を放ちながら高く振り上げられると、一斉に群衆の息を飲む音が聞こえた。

 処刑人は俺の合図を待っている。
 俺は挙げた手を下に下ろした。
 その瞬間、斧は振り下ろされ鈍い音が広場の空気を固める。
 数秒の静寂を突き破り、ワーッという勝利の雄叫びのような声が湧き起こった。

 次はバーバラ、そして正気を失った側室たちの首が次々と刎ねられアナスタシアが処刑台に上がると、顔面蒼白のヴァルコフが怒り声を上げた。

「お前が発端だ、ロータス! お前のせいで何もかもがむちゃくちゃになった! あの時助けてさえいなければ!」

 本当にアナスタシアだけなんだな。
 その時、群衆の合間を縫って一人の女性が「ちょっとどいて、どいてください!」と言いながら処刑台へ突進して行く姿が見えた。

 どんなに小さくても聞き逃すことは無い可愛らしい艶のある声と煌めく金髪。
 息が止まるほど驚いた。
 彼女は無謀にも処刑台に上がろうとし、警備兵に髪を掴まれ引きずり倒された。

「きゃあっ」
「やめろ! 警備兵! やめるんだ! おい、彼女に乱暴を働くなと警備兵に伝えろ!!!」

 急いで彼女の所へ走った。ランス伯爵はどうした!
 ざわめく群衆の声で俺の声が届かない。
 警備兵が剣を抜いた。

「やめろ―――!!!!」

 そこにランス伯爵が間一髪で間に合い、剣を遮った。

 本当に心臓が止まるかと思った。
 安心して足の力が抜けそうになったが、なんとか彼女のもとへ辿り着き、即座に警備兵に剣を収めさせた。

「何をしているんだ! 無謀にもほどがある!」
「ロータス様! アナスタシアを処刑しないで!」
「なに?」
「申し訳ありません。陛下に頼みに行くと申しておりましたが到着が遅れてしまい、それでクリビアは焦って走り出してしまったのです」
「はぁ……全く……」

 彼女が無事で良かったと安心して、さて、どうするかと考えていると、「シタールのクリビア王女じゃねえか?」という憎々しげな声が耳に入り心臓がドキンとした。
 その声はうねりのように大きく広がっていき、次第に彼女を罵る言葉が飛び交い始める。

「我らが国王を欺いた女だ!」
「私たちの国を奪ったシタールの王女よ」
「クリビアってあの詐欺師の?」
「よくこの地を踏めたものだ」
「俺の家族はシタールに殺された!」
「私の父は鉱山で大けがをして亡くなったのよ!」
「泥棒女!」
「娼婦らしいぜ」
「おもしれえ。シタールとバハルマの二大悪女が揃ったぞ!」

 群衆の興奮は最高潮に達する。
 どこぞの馬鹿が「みんな、やっちまえ!」と扇動したせいで、石を投げつける輩まで現れた。

「悪魔!」
「この魔女め!」

 どんどん激しくなるその罵り様はどちらが悪魔か分からないほどだ。

「お前らやめろ! 警備兵、群衆を静めて石を投げている奴らを取り押さえろ!」
「はっ!」

 クリビアの安全を確保しなければ。
 アナスタシアの処刑は一旦保留、ヴァルコフは明日処刑することに決め、俺たち三人は宮殿へ戻ることにした。

 そうして群衆も広場から立ち去り始めた時に、一際大きな石がクリビアの額を直撃した。

「うっ」
「クリビア! 大丈夫か!?」
「……、ええ……大丈夫よ、ランス……」
「おい! 今石を投げた奴を捕まえろ!」
「ロータス様、私は大丈夫ですから」

 額から血を流しながら何を言う。
 とにかく治療するためにも足早に宮殿へ戻ったが、その途中、ヴァルコフの横を通り過ぎた。
 彼は後ろ手に縛られ膝立ちになり、通り過ぎるクリビアを茫然とした様子でじっと見つめていた。


 ***テネカウ司教

 ヴァルコフ国王が処刑されたとガルシア宗教国に報告が入ってから数日後、ネベラウ枢機卿の部屋のタンスの隠し棚から裏帳簿が見つかった。
 それによって枢機卿がバハルマからの献金の半分を横領していたことが発覚、彼は追放された。

 彼の部屋の整理を任された私はそこで一冊の日記帳を見つけた。
 それにはクリビア様への愛とバハルマの王妃となって幸せに暮らしていることへの喜びなどが綴られていたが……。

 バハルマとカラスティアとの戦いの時、バハルマから応援要請が来たにも拘わらず宗教騎士団を派遣しなかったのは、勝敗が決まっている戦いで騎士団の命を無駄にしたくないからだと思っていた。
 しかし日記帳を見る限り単に個人的な恨みだったようだ。

 私はそれをアルマ医師に見せることにした。
 なぜならジュリアナさんのことにも触れていたからだ。

『どうしてあの美しく清らかなクリビア王妃が泥棒だの娼婦だのと言われなければならんのだ! 牢に入れるなど言語道断! あいつは美しい女性に恨みでもあるのか。ジュリアナの時もそうだ。いくら前王妃を救うためとはいえ、彼女を利用しなければロータス国王と出会わず自殺することもなかっただろう。美しい女性が不幸になるのは堪えられん。神罰が下る前にこの私がいつかあの男を痛い目に遭わせてやる! それまでは利用するのみ』

 アルマ医師は気が抜けたような顔になって、「枢機卿は彼女の死には関係なかったのですね」と微かに微笑みながら、静かにお礼を言って日記を閉じた。

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