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39.甘く激しく
しおりを挟む「あの、エリオットさん」
レオンが去っても、エリオットの拘束は解かれなかった。
「えっと、エリオットもそろそろ仕事に出る時間では」
「今日休日だよ」
莉緒の肩に顔を埋めたまま彼はそうぼそっと呟いた。
曜日感覚がすっかり飛んでいた莉緒だが、そう言われればそうな気もする。
「え、あれ、じゃあ」
仕事だと出て行ったレオンのアレは、気を利かせてくれたとかそういうやつだろうか。
「あっちは多分、本当に仕事」
そう思ったが、それはエリオットが否定した。彼の立場を考えれば、休日でも仕事、あるいは接待等が当然のように入っているのだろう。
「あの、さっきレオンが言ったことなら気にしなくても」
とりあえず休みなら慌てる必要はないなと思いながらも安心させたくてそう言えば、
「いや、でも一理ある……」
と思いの外ダメージを受けている声が返ってきた。
「ないよ!」
莉緒が思った以上に、エリオットは“レオン”に対して勝ち目のなさを感じているらしい。でも。
「な、ないでしょ、そこはないって自信満々に言い切ってよ。私は昔の思い出の男の子を好きになったんじゃなくて、エリオットと過ごしてきた時間を通してエリオット自身を好きになったんだよ。私のその気持ちを疑ってるの?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないけど……そういう風に聞こえるよね。ごめん、違うよ」
腕の拘束が僅かに緩まる。
「自分の問題だ。リオに申し訳なさを感じるのも、家やレオンに対して引け目を感じるのも」
嘘が露呈して、真実を手にして、莉緒の彼に対する印象は変わった。
「……なんかね、少し安心した」
「え?」
首だけ振り返って、莉緒は言う。
「エリオットのこと優しくて、気遣いができて、絵に描いたような紳士だなって思ってたけど。でも悩んだり、弱いところがあったり。怒ったり、ムキになったり、言い合いができる相手がいたり」
「さっきのアレはみっともないところをお見せしました……」
「確かにちょっと意外だったけど。でもそういうの見せてもらえる方がずっと安心する。自分がもらってばかりで、でもこんな自分に返せるものなんて何もないんじゃって思ってたけど、私ができることもきっとあるよね」
知らない一面を知ってがっかりしたということではなく、むしろより人間味を感じてホッとした。好ましく思った。
同じレベルで悩んで、傷付いて、悲しんで。そうやって分け合っていける相手なのだと思えたから。
「リオにしかできないことだらけだよ」
額にちゅっと唇が落とされる。けれど一瞬の熱は物足りなさを与えるだけ。
それに、おでこにだなんて、可愛らしすぎる。
「……口にして」
なのでそうねだれば、
「仰せのままに」
と恭しく言って、今度は唇に熱が灯った。
重なり、少しずつ湿る唇。頭を支えてくれる大きな手。
密着した身体から伝わる熱に安心と興奮がない交ぜになって押し寄せる。
「っふ……」
今日は莉緒の方から先に仕掛けた。
身体を反転させ爪先立ちをして、チロリと舌先で割れ目をなぞる。エリオットはそのお誘いに応えて、軽く身を屈め薄く口を開いてくれた。
受け身のことが多い莉緒に、大した技術はない。けれど今まで彼がしてくれたことを思い出しながら、その口腔を探っていく。
「ん」
なぞる歯列も内頬も、やはり莉緒より少し大きい。広い口内を彷徨うようにあちこち探り、最終的には肉厚な舌に自分のものを絡めた。
絡めたというよりは、ただ縋っているだけといった感じになってしまっていたが。
「んっ、んふっ」
「っぁ……」
それでも艶やかな声が相手の喉から零れれば、興奮と達成感が高まった。
エリオットの手が莉緒の腰元を撫で回す。その手つきに肌が粟立って、莉緒は自分の秘所がじゅんと湿り気を帯びたのを感じた。
「エリオット……」
熱に浮かされながら、その名を呼ぶ。
「えっ!」
すると直後、何だか固い感触が下腹に当たった。
「……ごめん、その、名前呼ばれるの嬉しすぎて」
珍しい。顔を真っ赤にした彼が、しどろもどろになりながらそう言った。
そうして莉緒も、彼の本当の名を呼びながら行為に至るのが初めてだと気付く。
今日はいっぱい名前を呼びたい。
そう思いながら、性急な反応を示したソコのことを考えて、
「……挿れてもいいよ」
と言ったのだが、それは当の本人が拒否した。
「まだ全然準備できてないからダメ」
「あっ」
ウエストから侵入してきた手が、下着のその下へと忍び込む。割れ目に長い指が沈み、探り当てた入り口につぷりと沈められた。
「ほら、一本でまだこんなにキツイのに」
「んんっ」
確かに莉緒のソコはきゅうきゅうとその指を締め上げるのに必死だった。指一本でも、圧迫感や異物感がない訳ではない。それでも。
「でも我慢できない? 早くほしい?」
問いかけにコクコクと頷くと、笑い声が落ちてくる。
「じゃあちょっと、最初から激し目にいくね?」
「あぁっ!」
ぐにぐにと指が内側へ沈み始める。やけに小刻みにナカの襞を捲って、それと一緒に手のひらがクリトリスを捏ねるように押し潰す。
「痛い?」
「っくない、刺激が強すぎて、悦いだけ……」
「煽ってくるなぁ」
「はっ、あ、ぁんっ」
いつの間に、こんなに知り尽くされてしまったのだろうと思う。
エリオットの巧みな指先は、莉緒の“イイところ”を少しも外さず的確に刺激する。
「んぁっ、そこぉ」
「もっと?」
二本目の指が忍び込まされる。入口を開くように指を広げられれば、ナカからパタパタと蜜が落ちて彼の指を汚した。
「可愛い。指で弄られただけで、こんなに零しちゃうくらい悦かった?」
「っ、そうやって、何にでも可愛いって言うの変……!」
決して可愛いと表現する反応ではないのに。
「だって本当に可愛いから」
けれど気分良さそうにそう答え、エリオットは莉緒の耳を甘噛みした。
「ひえっ」
そのまま舌が耳の中へと入ってくる。
「気持ち悪い? やめる?」
囁かれると吐息がかかって余計に肌が反応する。ぞわぞわ這い上がる感覚は怖いのに、どこからともなく快楽も一緒に連れてやってきた。
「これ、悪くなさそうだね」
莉緒の反応を見てエリオットは耳責めも追加する。上と下、どちらからもぐちゅぐちゅと音がして、次第にどっちがどっちの音なんだか分からなくなっていく。
「エリオット……」
沢山触れられているのに、もどかしくて堪らない場所がそれでもまだあった。
もっと触ってほしい。全部触ってほしい。余すことなく、隅々まで。
そんな欲望が際限なく莉緒の中から湧いては溢れる。
「んぅ、あっ、もう……」
「一回イく?」
ナカを擦る指の動きとクリトリスを弄る動きが一層激しくなる。
「あう、あ、あぁ――――っ」
翻弄されるがまま絶頂まで導かれて、快楽が突き抜けた後莉緒の膝からは力が抜けた。
とてもじゃないが立っていられない。
そんな莉緒を胸に受け止めた彼は、脱力しているのをいいことに下に履いていたものを全て床に落としてしまう。
急に心許ない恰好にさせられて羞恥に震えていると、背後の壁に押し付けられた。
「エリ、ん、あぁ……」
それでも身体を支えるには足りなくて、その背に両腕を回して縋りつく。息を整えていると物音が気になって、億劫に思いながらも頭を巡らせるとソファの横に置いてあった小さなチェストの引き出しからエリオットが避妊具を取り出しているところだった。
そんなところにも……なんて赤面するのと同時に身体が勝手に期待して、達したばかりだというのにまた疼く。
「リオ、しっかり掴まってて」
「うん?」
手早く避妊具を装着したエリオットの手が壁と背中の間へグイと押し入ってくる。
何? と思った次の瞬間には、莉緒の爪先はフローリングから浮いていた。
「えっ、あ、ちょっ!?」
待ってと叫ぶ前に足先がピンと張る。熱く昂ったモノが秘所に潜り込み始めていた。
「やっ、ダメ! あ、あぁ!」
エリオットはひと息に貫くようなことはしない。しないが確実にずぶずぶと太い棹は莉緒の身体の中に沈み込んでいく。ゆっくりな分その感覚が生々しくて堪らなかった。
「やだぁ、足、ついてない……!」
「うん、危ないから足ちゃんと腰に回して」
「そ、そんなこと……!」
そんな破廉恥なことはできない、と思った。
だってただ単に抱っこされているという話ではない。エリオットの屹立に莉緒は貫かれている状態なのである。その上足を腰に回すなど、そんなことをしたらお互いの密着具合がとんでもないことになるし、自ら相手を深く誘い込んで離さないといった体勢になってしまうではないか。
「でもリオ、本当に危ないから」
危ないならやめてくれればいいのに。
こんなに恥ずかしいことは誰ともしたことがない。
涙目になるが、それでも壁際で身体を抱きかかえられた莉緒には逃げ道がどこにもない。
それに。
「ねぇ、リオ、リオに根本まで全部咥え込んでほしい」
そんなとんでもなく色香に濡れた声で囁かれたら。
「いつもは届かない奥の奥まで、沢山突いてあげる」
そんな風に誘惑されたら。
あっと言う間に白旗を揚げざるを得なくなる。
普段はすごく優しいし、行為中だって辛くないかどうかとすごく気遣ってくれているのに、致している時のエリオットはとんでもなくケダモノだと莉緒は思う。
甘い言葉も優しい顔も巧みに操って、莉緒を深みに嵌めていく。それに何といっても恥ずかしげもなく延々と吐き出されるセリフの数々が、心臓に悪いのだ。
「リオ?」
「うぅ~」
クサくて引いてしまうのでは、直接的すぎではと思うようなセリフでも、エリオットが言うとときめきの粉が多量にふりかけられていて心と一緒に身体も反応してしまう。
もう為す術もない。
莉緒が観念しておずおずと両脚を腰に絡めると、
「ふっ、いっぱい気持ち良くなろうね」
「あっ!?」
ずん! と大きく突き上げられた。
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