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煤まみれのくまのぬいぐるみ
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煤まみれのくまのぬいぐるみ
「今日はこの子の誕生日なの、2歳の誕生日よ!」
SNSにアップされた写真には誕生日ケーキを目の前に笑顔の少女が映っていた。その両脇にぬいぐるみが置かれていて。
特に白くて大きなくまのぬいぐるみはひときわ目立っていた。
「なかなか子どもが授からなくてようやくできた子どもだから嬉しくて」
SNSに綴られたコメントは喜びに溢れていた。その子の誕生日を心から祝う母親、
ありふれているけれど温かな光景の一コマ。だが、そんな光景が僅か数ヶ月で壊されてしまうなんて誰が予想できただろう。
彼女とその娘の幸せが目を離した瞬間、永遠に失われてしまうなどと誰が想像できただろうか?
早朝、ウクライナの都市に空爆があった
民間人の住むアパートが標的にされ炎が上がる。消防士の私は待機場から素早く着替え消防車に乗り込んだ。
エンジンをかけアクセルを踏む頃には臨戦態勢だ。
「また、アパートに着弾したみたいだ」
「火が回ってしまうと内階段から消火するのは無理だなその場合はハシゴを使わないと」
「そうだな…なるべくなら中から突入したいが状況に応じてやり方を変えよう」
私と同僚は現場に向かう前手筈を整え確認しあった。ロシアがウクライナに侵攻してからはロシアのドローンやミサイル攻撃による火災には慣れっこになっていた。だが油断はせず、最悪のケースも考えてはいた。
そうこうするうちに現場に到着し、消火と救助をはじめることになる。
アパートの二階の窓の部分から出火していた。車から降りると消防車にホースを繋いで現場へ向かう。幸い建物内は崩れていなかった。
(無事でいてくれよ…)
そう願いながら防火ヘルメットを深く被ると私は火災現場へ入っていった。
数時間後
煤まみれになった大きなくまのぬいぐるみ
を私は大事に運んでいた。
このぬいぐるみは二歳になった女の子のもので本来なら消防士が持つものじゃなく女の子の元にあるべきものだった。
でも持ち主の女の子はドローンの空爆で亡くなった。更に悲しいことにその子の母親も亡くなった。身元確認をすると数日前にたまたま見ていたSNSの女の子だった。
「なんでだよ…なんであんなに小さな子が」
瓦礫やガラスが散乱している道の脇にくまのぬいぐるみを置くと私の目から涙が自然に流れた。この前誕生日を迎えたばかりだぞ、これから大きくなって色々経験するはずだったのに
なのに…あの子は
そしてあの子の母親も少し離れた場所で亡くなっていた。
「…………」
「奴らは何も考えちゃいないさ
民間人をやれば俺達が諦めると思っているラシストのクソ野郎ども!」
同僚が隣に来てボソリと言う
「現場、酷いもんだっだよな瓦礫だらけで足場なんてない……あの子も母親も生き埋めになっててもう少し早く救助に行けたら助かったかもしれないのに」
火災現場には亡くなった女の子の側に大きなくまのぬいぐるみがぽつんと座っていた。焼けることなく残ったぬいぐるみを私はその子の形見と思って運んできた。
「俺だって助けたかったよ…でも助けられなかった。二人とも!!くそ!くそが!」
それきり同僚は黙り込むとぬいぐるみに十字を切って黙祷した。
数日すると
煤まみれのくまのぬいぐるみの脇には沢山のぬいぐるみが置かれて花が添えられていた。まるで亡くなった女の子が魂だけになってこの場所に戻ってきても寂しくないようにするために…
ウクライナでは日々ドローンやミサイル攻撃で民間人が亡くなっている。
ロシアは今でも意図的に民間人を攻撃し、ウクライナの人々の生活と命を脅かしている。それを決して忘れてはならない。
決して
おわり
「今日はこの子の誕生日なの、2歳の誕生日よ!」
SNSにアップされた写真には誕生日ケーキを目の前に笑顔の少女が映っていた。その両脇にぬいぐるみが置かれていて。
特に白くて大きなくまのぬいぐるみはひときわ目立っていた。
「なかなか子どもが授からなくてようやくできた子どもだから嬉しくて」
SNSに綴られたコメントは喜びに溢れていた。その子の誕生日を心から祝う母親、
ありふれているけれど温かな光景の一コマ。だが、そんな光景が僅か数ヶ月で壊されてしまうなんて誰が予想できただろう。
彼女とその娘の幸せが目を離した瞬間、永遠に失われてしまうなどと誰が想像できただろうか?
早朝、ウクライナの都市に空爆があった
民間人の住むアパートが標的にされ炎が上がる。消防士の私は待機場から素早く着替え消防車に乗り込んだ。
エンジンをかけアクセルを踏む頃には臨戦態勢だ。
「また、アパートに着弾したみたいだ」
「火が回ってしまうと内階段から消火するのは無理だなその場合はハシゴを使わないと」
「そうだな…なるべくなら中から突入したいが状況に応じてやり方を変えよう」
私と同僚は現場に向かう前手筈を整え確認しあった。ロシアがウクライナに侵攻してからはロシアのドローンやミサイル攻撃による火災には慣れっこになっていた。だが油断はせず、最悪のケースも考えてはいた。
そうこうするうちに現場に到着し、消火と救助をはじめることになる。
アパートの二階の窓の部分から出火していた。車から降りると消防車にホースを繋いで現場へ向かう。幸い建物内は崩れていなかった。
(無事でいてくれよ…)
そう願いながら防火ヘルメットを深く被ると私は火災現場へ入っていった。
数時間後
煤まみれになった大きなくまのぬいぐるみ
を私は大事に運んでいた。
このぬいぐるみは二歳になった女の子のもので本来なら消防士が持つものじゃなく女の子の元にあるべきものだった。
でも持ち主の女の子はドローンの空爆で亡くなった。更に悲しいことにその子の母親も亡くなった。身元確認をすると数日前にたまたま見ていたSNSの女の子だった。
「なんでだよ…なんであんなに小さな子が」
瓦礫やガラスが散乱している道の脇にくまのぬいぐるみを置くと私の目から涙が自然に流れた。この前誕生日を迎えたばかりだぞ、これから大きくなって色々経験するはずだったのに
なのに…あの子は
そしてあの子の母親も少し離れた場所で亡くなっていた。
「…………」
「奴らは何も考えちゃいないさ
民間人をやれば俺達が諦めると思っているラシストのクソ野郎ども!」
同僚が隣に来てボソリと言う
「現場、酷いもんだっだよな瓦礫だらけで足場なんてない……あの子も母親も生き埋めになっててもう少し早く救助に行けたら助かったかもしれないのに」
火災現場には亡くなった女の子の側に大きなくまのぬいぐるみがぽつんと座っていた。焼けることなく残ったぬいぐるみを私はその子の形見と思って運んできた。
「俺だって助けたかったよ…でも助けられなかった。二人とも!!くそ!くそが!」
それきり同僚は黙り込むとぬいぐるみに十字を切って黙祷した。
数日すると
煤まみれのくまのぬいぐるみの脇には沢山のぬいぐるみが置かれて花が添えられていた。まるで亡くなった女の子が魂だけになってこの場所に戻ってきても寂しくないようにするために…
ウクライナでは日々ドローンやミサイル攻撃で民間人が亡くなっている。
ロシアは今でも意図的に民間人を攻撃し、ウクライナの人々の生活と命を脅かしている。それを決して忘れてはならない。
決して
おわり
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