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第3章:気づかない痛み
Scene 04:ひとりの夕暮れ(莉子視点)
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あの日のカフェを出たあと、莉子はそのまままっすぐ帰宅するつもりだった。
けれど、駅の改札を通り抜けたところで、足が止まった。
「…どこにも居場所、ないみたい」
そんな言葉が、ふいに心をよぎった。
足を向けたのは近所の公園だった。
遊具は誰も使っておらず、夕焼けが橙と灰色に滲んでいた。
ベンチに腰を下ろし、コンビニで買ったホットカフェラテを両手で包む。
風が冷たい。
けれど、それが心地よくすら感じた。
「杏奈ちゃん、あんなに自然だった。
隣に立つのが似合ってた。私より、ずっと…」
そのことを認めたくなくて、言葉にせずに胸の奥で咀嚼する。
でも、言葉にしなければ、自分の痛みすら曖昧になっていく気がした。
「あたしはたぶん、“愛されたい”が強すぎたんだ」
「自分が与えることより、もらうことで繋がろうとしてた」
カップの底に触れる温度が冷めていくように、
心の中の熱も、ゆっくりと輪郭を失っていく。
スマホを取り出すと、ホーム画面の一番上に、悠真とのトークが並んでいた。
最後のやりとりは「おつかれ」のスタンプ。
それすらも、どこか“他人行儀”に見えた。
「ねえ、悠真。いま、誰かのこと好きになってる?」
「それとも…もう、私のこと好きじゃない?」
送れなかった言葉が、画面越しにじわじわ滲んでくる。
目を閉じると、彼の「ただいま」と「ありがとう」が思い出された。
あれは、“愛してる”という意味だったのに。
それを正しく受け取れなかったのは、自分のほうだった。
カフェラテのカップをゴミ箱に捨てる。
立ち上がると、肩にかかったコートの裾が少しだけ風になびいた。
「……帰ろう」
行き先は、まだ“恋人”が待つ部屋。
でももうそこを「ただの居場所」にはしない。
――そう、少しだけ決めた夕暮れだった。
けれど、駅の改札を通り抜けたところで、足が止まった。
「…どこにも居場所、ないみたい」
そんな言葉が、ふいに心をよぎった。
足を向けたのは近所の公園だった。
遊具は誰も使っておらず、夕焼けが橙と灰色に滲んでいた。
ベンチに腰を下ろし、コンビニで買ったホットカフェラテを両手で包む。
風が冷たい。
けれど、それが心地よくすら感じた。
「杏奈ちゃん、あんなに自然だった。
隣に立つのが似合ってた。私より、ずっと…」
そのことを認めたくなくて、言葉にせずに胸の奥で咀嚼する。
でも、言葉にしなければ、自分の痛みすら曖昧になっていく気がした。
「あたしはたぶん、“愛されたい”が強すぎたんだ」
「自分が与えることより、もらうことで繋がろうとしてた」
カップの底に触れる温度が冷めていくように、
心の中の熱も、ゆっくりと輪郭を失っていく。
スマホを取り出すと、ホーム画面の一番上に、悠真とのトークが並んでいた。
最後のやりとりは「おつかれ」のスタンプ。
それすらも、どこか“他人行儀”に見えた。
「ねえ、悠真。いま、誰かのこと好きになってる?」
「それとも…もう、私のこと好きじゃない?」
送れなかった言葉が、画面越しにじわじわ滲んでくる。
目を閉じると、彼の「ただいま」と「ありがとう」が思い出された。
あれは、“愛してる”という意味だったのに。
それを正しく受け取れなかったのは、自分のほうだった。
カフェラテのカップをゴミ箱に捨てる。
立ち上がると、肩にかかったコートの裾が少しだけ風になびいた。
「……帰ろう」
行き先は、まだ“恋人”が待つ部屋。
でももうそこを「ただの居場所」にはしない。
――そう、少しだけ決めた夕暮れだった。
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