宝石♢男子

西神 幸徒

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第15話 マイナス爆発、すれちがう心(2)

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 さて、裏庭のベンチでダルそうにしているガーネットを、あたしはこっそり校舎の影から見守ることにしたの。

 ないとは思うけど、逃げられたら困るじゃない?
 せっかく手紙を書いたのに、いざ裏庭にいったらガーネットがいなくてまちぼうけ。
 なんてことになったら、差出人の子がかわいそうでしょ?

「っと、きたわね……!」

 べ、べつにどんな子かなーとか、気になったわけじゃないから‼︎
 そんなこと、これっぽっちも考えてないし――って、えぇ⁉︎

「あら、まさか本当にきてくださるなんて。やさしいのね、ガーネットさん?」

 さ、差出人の子って、チトセだったの⁉︎
 とたんに、ガーネットの表情がけわしくなる。

「オレになんの用? 言っとくけど、金じゃオレは買えないからね」
「そんなことより、今日はカナメさんとほとんど話しておりませんでしたわね? いつもべったりでしたのに――……あら、気にさわったかしら?」

 チトセを見おろすガーネットの目は、見たことないくらいつめたかった。
 だけどチトセに、気にするようすはいっさいない。

「あなたたち宝石男子とカナメさんが、町はずれの館でいっしょにくらしていることは調査ずみです。だからって、クラスメイトにバラすような、品のないことをするつもりはありませんわ……そ、そんなことをしたら、き、きらわれてしまいますし……!」

 制服の胸元をぎゅっとつかんで、せつなそうなチトセ。
 ていうかバレてるし、あたしたちがいっしょにくらしていること……!

「そーだね、バラしたらオレたち一家みーんな、あんたのこときらいになるかも!」

 ヨユーそうに笑うガーネットは、いつもよりちょっと意地悪なかんじ。
 うわっ、チトセの顔がだんだん赤くなって――いまにも怒りだしそう……!

「いいこと? バラさないだけで、いつだってバラせるの……わかったなら、よく聞くことね‼︎ このわたくし、じきじきのお願いを‼︎」

 チトセの声がじょじょにおおきくなってゆき、これはまずい、ブチギレるかも‼︎
 と、思ったそのときだった。
 チトセが深く頭をさげて、ふるえる声でこう言ったの。

「こ、これ以上カナメさんに近づかないで‼︎ ガーネットさんはいますぐ館をでていくこと‼︎ そしてこのさき、二度とあわないと約束なさい――‼︎」

 ふたりのあいだに、沈黙が走る……。

 あたしだってびっくりしたわ、まさか、あのチトセが頭をさげてまでお願いごとをするなんて、思いもよらないじゃない!
 ガーネットも、一瞬おどろいたかんじだったけど。
 すぐにキョトンとした顔をして、

「なんでオレだけだめなの?」

 まさかのきりかえし‼︎
 顔をあげたチトセは、グッとくちびるをかんでから、苦しげにうちあけたの。

「あ、あなたがカナメさんとベタベタしているのを見ているだけで、わたくし、胸がはりさけてしまいそうなの――っ」

 わあぁぁぁぁぁぁ‼︎ やっぱり、やっぱりそうだったのね⁉︎
 これで確信したわ、チトセはガーネットのことが――す、すすす、すきなのね⁉︎

「ふーん……チトセの気持ちはわかった。でも、そんな願いオレはいやだね!」

 ガーネットは、まっすぐな目でチトセを見た。

「だってオレ、カナメがだーいすきだもん。毎日あうし、たくさん話すし、ハグだってしちゃうもんね!」
「ガーネットさん、わたくしは本気なの‼︎ 真剣に、心の底からあなたにお願いしているの、だからっ――!」

 いまにも泣きだしそうなチトセに、ガーネットはようしゃなかった。

「ごめん。オレ、チトセのことはすきになれない。そーいうわけで、もうつきまとうのやめてくれる?」
「ガーネットのバカ‼︎ そこまで言わなくてもいいじゃな……あっと、これはその……」

 ま、まずいことになったわ。
 見ていられなくて、つい飛びだしちゃった……あたしのほうがバカだわ‼︎

 マグマみたいに真っ赤な顔をしたチトセが、ギロッとこっちをにらんできて――ど、どうしたらいいの⁉︎

「なんでカナメさんがここに――っああ、そうでしたの。そういうことでしたのね?」
「ご、ごめんなさい‼︎ じゃまするつもりはなくて……じゃあ、あたしはこれで――っ」
「まちなさい‼︎」

 チトセが金切り声でさけんだ、その瞬間――!

「うわっ、な、なによこの量……‼︎」

 真っ黒なけむりが、ぶわわっとチトセの全身からふきだしたの‼︎

「あなたたち、本当はおつきあいしているのでしょう⁉︎ そうにちがいありませんわ‼︎」
「あたしとガーネットが⁉︎ そんなわけ――っ」
「だからわざわざぬすみ見して、手紙の差出人をたしかめるような真似をしたのですわ‼︎ ガーネットさんがほかの女子にうばわれたら、一大事ですものね……‼︎」

 チトセの怒りは、とまらない。
 チトセの体からあふれでる黒いけむりも、とどまるところを知らない。
 これはマイナスエネルギー……チトセがためこんでいた不安やストレスが、大爆発してしまったんだわ!

 黒いけむりが充満した裏庭は、暗くてまわりがよく見えない。
 このままほうってはおけない――なんとかして、チトセを落ちつかせないと‼︎

「ぜんぶかんちがいよ、チトセ‼︎ だから冷静になって‼︎」
「うるさいうるさいうるさい‼︎ カナメさんなんて、だいっきらいですわ――‼︎」

 黒いけむりのかたまりが、鉄砲玉みたいにこっちへ飛んできて――くっ、よけきれない!
 あせるあたしのまえにとびだしたのは、

「カナメっ――‼︎」

 ガーネット、だったの。

「こんなに大量のマイナスエネルギーを受けとめたら、カナメの心がこわれちゃうよ‼︎ ここはいーから、オレにまかせて――っ‼︎」

 ガーネットは黒いけむりを、両手でぐんぐん吸いとっていったわ!
 額に玉のあせをうかべて、必死さが痛いくらいにつたわってくる……!
 でもっ、それでも、すべてのけむりを吸いきることはできなくて――っ。

 相手の顔さえ、近づかなければ見えないくらい、うす暗い、不安のなか。

 プツン。

 と、糸がきれたみたいに、ガーネットがたおれちゃった……っ‼︎
 どうにか受けとめたけど、どうしよう、どうしたらいいの⁉︎
 あわてるあたしに、追い打ちをかけるように、チトセのさけぶ声がひびく。

「覚えておきなさい‼︎ あなたたちふたりとも、絶対にゆるさないんだから‼︎」

 暗くて表情は見えなかったけど、走りさるうしろすがたは、しっかり見えたわ……。

 チトセがさって、しずかになった裏庭で――……。 

 あたしは、ただボーゼンと、変わりゆくガーネットを見つめることしかできなかった。
 それがくやしくて、つめが手のひらに食いこむくらい、拳を強くにぎりしめる。

「宝石男子を守るって、あたし誓ったのに……こんなの家族失格よね」

 守れなかったどころか、ガーネットに守られて――まさか、こんなことになるなんて。
 あたしのひざの上で、ほそく息をしているガーネットはもう、いつもの彼じゃない。

 ふわふわだった赤い髪は、じょじょに真っ白に変わり……。
 肌は老人みたいにシワだらけ、かがやいていた真紅の瞳も、すっかりにごってしまった。
 それなのに、それなのによ?
 ガーネットは、あたしを見て笑うの。

「オレは愛情の宝石、ガーネットだよ? 神推しのためなら、なんだってできちゃうんだから……こんなのへっちゃらだし。カナメのためなら、オレ……」

 ガーネットはそのまま、ゆっくり、ゆっくりまぶたをとじた。

『見かえりなしの究極の愛――それが推すということ』だって、ガーネットが言っていたのを、ふと思いだしちゃって……。

 そしたらあたし、もうだめで。
 ぜんぜん涙がとまらなくて――っ。

「ガーネット、死んじゃいやっ‼︎ あたしどうしたらいいの、どうすればあんたを助けられるのよ……⁉︎」

 もう二度と、ガーネットが目覚めないような。
 そんな不安にとらわれて、すっかり混乱しちゃってた。
 だから――、

「……そいつは死んでねえよ。マイナスエネルギーを吸いすぎて、くすんじまっただけだ」

 いつもの、たんたんとした声。
 ガーネットが吸いきれなかった周囲のけむりが、いっきに晴れて……この力は、まさか!
 見あげれば、やっぱり――あきれ顔のブラックが、そこに立っていた。
 もう、言葉にできないくらい、すごく、すごく安心したんだから……!

「ブラック、どうしよう! あたし、あたしのせいで……‼︎」
「……とりあえず館にもどるぞ。思ったよりくすみがひどい、このままじゃキケンだ」

 ブラックが、気を失ったままのガーネットを、おぶって走りだした。

「……ほうっておけば、かがやきを失ったまま、二度と目を覚まさないかもしれない――急ぐぞカナメ‼︎ しっかりしろ‼︎」
「二度と目覚めないなんて、そんなのいやよ‼︎ あたし、ガーネットを救いたいの‼︎」
「いいか、ガーネットをなおすには『浄化』をするしかない。必要なものは館の研究室にあるから、とにかくおまえもついてこい――!」

 それからはもう必死だった。

 あたしは全力疾走しながら、ついさっきおきてしまったことをブラックに話したの。
 ガーネットが、チトセをフッたこと。
 その現場をあたしが見ていたこと。
 そのせいで、チトセはあたしとガーネットが、つきあっていると思いこみ……。
 チトセのマイナスエネルギーが、爆発してしまったことも。ぜんぶ。

 ブラックは、とくになにも言わなかった。
 ただ、みけんのしわをぎゅっとよせて、深い深いため息をついたの……。


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