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87 襲撃
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私は、ゆったりと馬車の窓から夕暮れの空を眺めていた。道中の空気には、達成感と疲労がほどよく混ざっている。
前方の御者台には、光矢と叔父様。手綱は光矢が握り、叔父様が御者の技術を教えていた。行きも同じようにして来たらしい。光矢いわく、「なんでもできるようになっておきたい」そうだ。
「村の皆さん、本当に喜ばれていましたね……」
佳乃が微笑みながら言った。その直後――。
馬が急にいななき、車輪がきしむ音が響く。御者台の光矢が鋭く手綱を引いた。
「……止まれ!」
馬車が急停止すると同時に、前方の林の影から四つの人影が現れる。
全身黒装束に、全人教の紋章が縫い付けられていた。
「……報復か」
叔父様の低い声が響く。
敵の一人が、奇妙な光を帯びた小さな円盤を地面に叩きつけた。
瞬間、私の身体を包んでいた神気が、ふっと、霧散する。
「……え?」
「神気が……抑えられてる……!」
神気を無効化する高価な神具。全人教が、ここまで準備していたということだ。
「光矢君!」
「はい! 叔父さん!」
光矢は鞄から腕輪を取り出し、私と佳乃に素早く投げ渡した。
「それは“神気封じ”を封じる腕輪です。つけて!」
渡された腕輪をはめると、すぐに神気の流れが戻った。
これなら戦える――。佳乃と顔を見合わせ、うなずく。
光矢は剣を構え、叔父様は短杖を逆手に握った。私は自分と仲間たちに薄く結界を張る。
「くそっ、神気封じの神具が効いてないぞ。不良品だったか!」
「かまうな、いけ!」
刺客たちは一瞬動揺したものの、すぐに襲いかかってきた。
必然的に一対一の戦いとなり、私は向かってきた一人を結界に閉じ込める。
「結界……!? くっ……!」
観察すると、やはり心臓に鎖のような呪いが絡みついていた。素早く解除し、浄化を試みる。だが、今までの敵よりもはるかに抵抗が強い。結界の膜がじりじりと薄くなっていくのがわかる。
焦らず、結界を最大に強化して浄化を続けた。途端に男は苦しみだし、全身から黒い靄が噴き出す。
「うぅ……これが浄化の力か。確かに危険だな」
そう呟くと、懐から真っ黒な小瓶を取り出し、一気に飲み干した。
「えっ……!」
「報告でお前の能力は知っている。浄化の力は我らにとって不快極まりない。ずっと受け続ければ気が狂う。だからこそ――対策をしてきたんだよ」そう言ってニヤッと笑った。
浄化を強めようとしたが、力が反発して効かなくなっていた。
あの黒い小瓶で何かしらの力を得たのだ。
けれど私には、この方法でしか敵を止める術がない。落ち込んでいる場合ではない。せめて逃げられないよう、結界をさらに強く張り直す。
「力比べだ。どちらの神気が持つか、試してやる!」
敵は笑いながら全力で結界を叩き始めた。
私も負けじと力を注ぐ。激しい衝突音が空気を震わせた、そのとき――。
遠くから、村人の悲鳴が聞こえた。
振り向くと、村へ帰る途中と思われる老人とその孫が、敵の一人に捕らえられ、ナイフを突きつけられている。
「やめなさい! その人たちは関係ないでしょう!」
敵は冷たい笑みを浮かべた。
「全員、動くな。少しでも動いたら、一人殺す」
「おい、この結界を解け」
どうする――。このままでは人質が……。
皇女殿下の時のようにおじいさんとお孫さんだけ結界を張りたいけど…もしそれを無効化する神具を持っていたら?気づかれたら一人殺されるかもしれない…
全員の焦燥が走る中、突然、風を切る音が響いた。
次の瞬間、人質を拘束していた敵の手からナイフが弾け飛ぶ。
「……アオ君!?」
アオ君は短く「人質を」と、共に来た祥一郎さんに告げると、まっすぐ前へと踏み出した。
その背に、迷いも恐れもなかった。
「よく耐えたな。あとは任せろ」
その声が、胸の奥にすとんと落ちる。
戦場の空気が変わった――そう感じるより早く、アオ君の剣が光を走らせた。
一撃一撃が鋭く、無駄がなく、美しかった。
私たちは息を合わせ、再び反撃に転じる。
膠着していた戦いは、アオ君の参戦で一気に傾き、敵は捕らえられた。
「……間に合って、よかった」
アオ君は私を見て、心底ほっとしたように微笑んだ。
その微笑みを見た瞬間、胸の奥がふっと熱くなる。
今まで何度も助けられてきたのに――なぜだろう、今日は少し違って見えた。
――この人は、信じられる。
そう直感した。それだけのはずなのに、胸の奥がかすかにざわめく。
全人教の報復は、これで終わらない――そうわかっているのに、今はそれよりも、自分の中に生まれた小さな動揺のほうが気になっていた。
前方の御者台には、光矢と叔父様。手綱は光矢が握り、叔父様が御者の技術を教えていた。行きも同じようにして来たらしい。光矢いわく、「なんでもできるようになっておきたい」そうだ。
「村の皆さん、本当に喜ばれていましたね……」
佳乃が微笑みながら言った。その直後――。
馬が急にいななき、車輪がきしむ音が響く。御者台の光矢が鋭く手綱を引いた。
「……止まれ!」
馬車が急停止すると同時に、前方の林の影から四つの人影が現れる。
全身黒装束に、全人教の紋章が縫い付けられていた。
「……報復か」
叔父様の低い声が響く。
敵の一人が、奇妙な光を帯びた小さな円盤を地面に叩きつけた。
瞬間、私の身体を包んでいた神気が、ふっと、霧散する。
「……え?」
「神気が……抑えられてる……!」
神気を無効化する高価な神具。全人教が、ここまで準備していたということだ。
「光矢君!」
「はい! 叔父さん!」
光矢は鞄から腕輪を取り出し、私と佳乃に素早く投げ渡した。
「それは“神気封じ”を封じる腕輪です。つけて!」
渡された腕輪をはめると、すぐに神気の流れが戻った。
これなら戦える――。佳乃と顔を見合わせ、うなずく。
光矢は剣を構え、叔父様は短杖を逆手に握った。私は自分と仲間たちに薄く結界を張る。
「くそっ、神気封じの神具が効いてないぞ。不良品だったか!」
「かまうな、いけ!」
刺客たちは一瞬動揺したものの、すぐに襲いかかってきた。
必然的に一対一の戦いとなり、私は向かってきた一人を結界に閉じ込める。
「結界……!? くっ……!」
観察すると、やはり心臓に鎖のような呪いが絡みついていた。素早く解除し、浄化を試みる。だが、今までの敵よりもはるかに抵抗が強い。結界の膜がじりじりと薄くなっていくのがわかる。
焦らず、結界を最大に強化して浄化を続けた。途端に男は苦しみだし、全身から黒い靄が噴き出す。
「うぅ……これが浄化の力か。確かに危険だな」
そう呟くと、懐から真っ黒な小瓶を取り出し、一気に飲み干した。
「えっ……!」
「報告でお前の能力は知っている。浄化の力は我らにとって不快極まりない。ずっと受け続ければ気が狂う。だからこそ――対策をしてきたんだよ」そう言ってニヤッと笑った。
浄化を強めようとしたが、力が反発して効かなくなっていた。
あの黒い小瓶で何かしらの力を得たのだ。
けれど私には、この方法でしか敵を止める術がない。落ち込んでいる場合ではない。せめて逃げられないよう、結界をさらに強く張り直す。
「力比べだ。どちらの神気が持つか、試してやる!」
敵は笑いながら全力で結界を叩き始めた。
私も負けじと力を注ぐ。激しい衝突音が空気を震わせた、そのとき――。
遠くから、村人の悲鳴が聞こえた。
振り向くと、村へ帰る途中と思われる老人とその孫が、敵の一人に捕らえられ、ナイフを突きつけられている。
「やめなさい! その人たちは関係ないでしょう!」
敵は冷たい笑みを浮かべた。
「全員、動くな。少しでも動いたら、一人殺す」
「おい、この結界を解け」
どうする――。このままでは人質が……。
皇女殿下の時のようにおじいさんとお孫さんだけ結界を張りたいけど…もしそれを無効化する神具を持っていたら?気づかれたら一人殺されるかもしれない…
全員の焦燥が走る中、突然、風を切る音が響いた。
次の瞬間、人質を拘束していた敵の手からナイフが弾け飛ぶ。
「……アオ君!?」
アオ君は短く「人質を」と、共に来た祥一郎さんに告げると、まっすぐ前へと踏み出した。
その背に、迷いも恐れもなかった。
「よく耐えたな。あとは任せろ」
その声が、胸の奥にすとんと落ちる。
戦場の空気が変わった――そう感じるより早く、アオ君の剣が光を走らせた。
一撃一撃が鋭く、無駄がなく、美しかった。
私たちは息を合わせ、再び反撃に転じる。
膠着していた戦いは、アオ君の参戦で一気に傾き、敵は捕らえられた。
「……間に合って、よかった」
アオ君は私を見て、心底ほっとしたように微笑んだ。
その微笑みを見た瞬間、胸の奥がふっと熱くなる。
今まで何度も助けられてきたのに――なぜだろう、今日は少し違って見えた。
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