神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

文字の大きさ
88 / 97

87 襲撃

しおりを挟む
 私は、ゆったりと馬車の窓から夕暮れの空を眺めていた。道中の空気には、達成感と疲労がほどよく混ざっている。

 前方の御者台には、光矢と叔父様。手綱は光矢が握り、叔父様が御者の技術を教えていた。行きも同じようにして来たらしい。光矢いわく、「なんでもできるようになっておきたい」そうだ。

「村の皆さん、本当に喜ばれていましたね……」
 佳乃が微笑みながら言った。その直後――。 
 馬が急にいななき、車輪がきしむ音が響く。御者台の光矢が鋭く手綱を引いた。
「……止まれ!」
 馬車が急停止すると同時に、前方の林の影から四つの人影が現れる。
 全身黒装束に、全人教の紋章が縫い付けられていた。
「……報復か」
 叔父様の低い声が響く。
 敵の一人が、奇妙な光を帯びた小さな円盤を地面に叩きつけた。
 瞬間、私の身体を包んでいた神気が、ふっと、霧散する。
「……え?」
「神気が……抑えられてる……!」
 神気を無効化する高価な神具。全人教が、ここまで準備していたということだ。
「光矢君!」
「はい! 叔父さん!」
 光矢は鞄から腕輪を取り出し、私と佳乃に素早く投げ渡した。
「それは“神気封じ”を封じる腕輪です。つけて!」
 渡された腕輪をはめると、すぐに神気の流れが戻った。
 これなら戦える――。佳乃と顔を見合わせ、うなずく。
 光矢は剣を構え、叔父様は短杖を逆手に握った。私は自分と仲間たちに薄く結界を張る。

「くそっ、神気封じの神具が効いてないぞ。不良品だったか!」
「かまうな、いけ!」
 刺客たちは一瞬動揺したものの、すぐに襲いかかってきた。
 必然的に一対一の戦いとなり、私は向かってきた一人を結界に閉じ込める。
「結界……!? くっ……!」
 観察すると、やはり心臓に鎖のような呪いが絡みついていた。素早く解除し、浄化を試みる。だが、今までの敵よりもはるかに抵抗が強い。結界の膜がじりじりと薄くなっていくのがわかる。
 焦らず、結界を最大に強化して浄化を続けた。途端に男は苦しみだし、全身から黒い靄が噴き出す。
「うぅ……これが浄化の力か。確かに危険だな」
 そう呟くと、懐から真っ黒な小瓶を取り出し、一気に飲み干した。

「えっ……!」

「報告でお前の能力は知っている。浄化の力は我らにとって不快極まりない。ずっと受け続ければ気が狂う。だからこそ――対策をしてきたんだよ」そう言ってニヤッと笑った。

 浄化を強めようとしたが、力が反発して効かなくなっていた。
 あの黒い小瓶で何かしらの力を得たのだ。

 けれど私には、この方法でしか敵を止める術がない。落ち込んでいる場合ではない。せめて逃げられないよう、結界をさらに強く張り直す。

「力比べだ。どちらの神気が持つか、試してやる!」
 敵は笑いながら全力で結界を叩き始めた。

 私も負けじと力を注ぐ。激しい衝突音が空気を震わせた、そのとき――。

 遠くから、村人の悲鳴が聞こえた。

 振り向くと、村へ帰る途中と思われる老人とその孫が、敵の一人に捕らえられ、ナイフを突きつけられている。
「やめなさい! その人たちは関係ないでしょう!」
 敵は冷たい笑みを浮かべた。
「全員、動くな。少しでも動いたら、一人殺す」
「おい、この結界を解け」

 どうする――。このままでは人質が……。
 皇女殿下の時のようにおじいさんとお孫さんだけ結界を張りたいけど…もしそれを無効化する神具を持っていたら?気づかれたら一人殺されるかもしれない…

 全員の焦燥が走る中、突然、風を切る音が響いた。
 次の瞬間、人質を拘束していた敵の手からナイフが弾け飛ぶ。

「……アオ君!?」

 アオ君は短く「人質を」と、共に来た祥一郎さんに告げると、まっすぐ前へと踏み出した。

 その背に、迷いも恐れもなかった。
「よく耐えたな。あとは任せろ」

 その声が、胸の奥にすとんと落ちる。
 戦場の空気が変わった――そう感じるより早く、アオ君の剣が光を走らせた。
 一撃一撃が鋭く、無駄がなく、美しかった。
 私たちは息を合わせ、再び反撃に転じる。
 膠着していた戦いは、アオ君の参戦で一気に傾き、敵は捕らえられた。

「……間に合って、よかった」
 アオ君は私を見て、心底ほっとしたように微笑んだ。
 その微笑みを見た瞬間、胸の奥がふっと熱くなる。
 今まで何度も助けられてきたのに――なぜだろう、今日は少し違って見えた。
 ――この人は、信じられる。
 そう直感した。それだけのはずなのに、胸の奥がかすかにざわめく。

 全人教の報復は、これで終わらない――そうわかっているのに、今はそれよりも、自分の中に生まれた小さな動揺のほうが気になっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。 1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。 2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。 3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。 狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。 「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。 ----- 外部サイトでも掲載を行っております

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。 でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。 結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。 健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。 父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。 白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...