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〜異世界に慣れるまで 2〜
やりすぎました…
しおりを挟む集中し過ぎていたのだろう。
ノワールが「本日はもう終わりにしましょう」と声をかけてくれるまでぶっ通しで作り続けていた。やり始めた時は朝だったのに、驚くことにもう夕陽が差し込んでいる。周りを見ると完成した魔法薬が散乱していた。誰に言われずともわかる。これはやり過ぎた。ノワールの生温かい目で私を見ている。今だけは見ないでほしい。それはもう切実に。確かに作っておいた方がいいとは思っていた。思っていたが、これはやり過ぎだろう。体力回復薬と、魔力回復薬の材料がもう無い。私は自分にドン引きしていた、何もここまでする必要はないだろう…どうしよう完成した魔法薬の瓶は、少なく見積もっても50個はある。何処に保管すれば…自分に対する不甲斐なさで泣きそうだ…
「主様、大丈夫で御座います。保管する場所はこの調合室の中に御座いますから。
この部屋で 収納 と仰って下さい。そうすれば魔法薬をしまうことができます。魔法薬しかしまうことができませんのでご注意下さいませ。
取り出す時は、取り出したい魔法薬と本数を思い浮かべて下さい。そうすれば取り出すことができますよ。
さぁ主様、少し早いですがお食事に致しましょう。私はお食事の準備を致しますから、お風呂に入っていらしたら如何でしょうか?」
…思いっきり気遣われている。なんだろう、一応私はノワールの主人であるはずなのに、扱いが小さい子に対するそれのような気がする…いやまだ大丈夫だ何が大丈夫なのかわからないけど、大丈夫だと思いたい。これから少しづつ主人らしいことをして、頼りになると思ってもらえるように頑張ろう。
そうと決まれば気合を入れて食事を用意しよう!と思ったところでノワールに手を引かれてお風呂まで連れて行かれる。
「温まって下さいね。湯冷めされないようにしっかりお浸かり下さい。お髪のお手入れはどうしたしましょう?お一人でできますか?」
……訂正する。小さい子に対する扱いのような気がするではなく、小さい子に対する扱いだ。私は自分の髪の手入れもできないと思われているのだろうか…軽く凹む。確かに昔から童顔気味で年齢よりも幼く見られることが多かった。この世界の私も大人っぽい顔立ちとは言い難い。がしかし、しかしである。私はこれでも大学卒業を間近に控えていた成人済みの大人である。こちらでは何歳で成人を迎えるのか知らないけれど、4年制の大学に通い、何度も言うが卒業を間近に控えた私はもう22歳なのだ。流石にこちらでも子供ではないだろう。
「ノワール、髪の手入れくらい1人で出来ます!私はもう22歳なんですよ?確かにノワールと会ってから頼りないところばかり見せてしまっていますが、地球では成人済みの大人なんです!」
だから子供扱いはやめてくれと言外に言う。けれどノワールは不思議そうに首を傾げるだけだ。なんで不思議そうにしているのかわからない。私はそんな突飛なことを言っただろうか?
「あの主様、ルトラス様から伺っているお話ですと、主様の年齢は18歳ですよ?アルライトでは種族によって成人を迎える年齢が異なるのですが、人は20歳で成人を迎えます。ですので、20歳よりも少し若い方が何かと得なことも多いだろうから18歳にしておこうとルトラス様が仰っておりました。セーレには話しておいたから説明は不要だと言われていたのですが、聞いてらっしゃらなかったのですか?」
「初耳です…」
本当に初耳である。何それ?勝手に人の年齢を変えておきながら報告もなしですか。神様にとって4年というのは短い期間なのかもしれないが、乙女にとって4年は些細なことではない。やっぱりルトラス様は人でなしだと思う。そして若い方が得ってなんだ?何が得だというのか成人してからじゃないとできないことが沢山あるというのに…私は未だかつてない感情になっている。こういうのをやさぐれているというのだろうか。違っていたら申し訳ない。
ノワールが苦笑しながら説明をしてくれる。
「主様のご年齢は18歳でございます。先程も申しました通り、20歳で成人となられます。これは男女共にです。民族によって細かな違いは御座いますが、大抵の場合人の成人年齢は20歳です。ですので、主様は後2年で成人を迎えられます。成人を迎えられますと住んでいる国の国王に謁見をし、その年の代表者が成人の誓いを立てます。簡単に説明致しますと無事に成人を迎えることができた感謝と、自分の行動に責任を持ち、頑張って働いていきます。というものですね。謁見が終わり次第、成人を祝うパーティーが御座いますよ。規模は異なりますが、貴族でも平民でも致します。これら一連の儀が成人の儀と呼ばれるものです。主様の故郷でいうところの成人式と同じ役割を果たすものですよ」
こちらの世界にもあるのか。違うところもあるのだろう、でも私は嬉しかった。もうきっと地球に帰ることはないのだろう。ルトラス様も言っていた。けれど、私は地球で過ごした日々を忘れることはできない。これからも地球の面影を見つける度に嬉しくなる、そして悲しくなるんだろう。私のそんな感情をノワールは理解してくれている。
「主様、今日のご夕食は和食に致しましょう。ルトラス様より材料は山ほど頂いております。このノワール、腕によりをかけてお作りいたしますので、ご入浴なさって下さい」
本当にノワールは優しい。私が何も言わなくても理解してくれる。ノワールがいてくれて本当によかった。お言葉に甘えてお風呂に入ろう。何を作ってくれるのか楽しみだ。
「わかりました、ノワール。お風呂頂いてきますね。和食楽しみにしています!」
「はい。主様、ごゆっくり」
そう言ってノワールは脱衣所から出て行った。私はお風呂に入りながら和食のことで頭がいっぱいになる。地球にいた頃はそこまで特別だとは思わなかったのに、このアルライトでは特別なものだと思ってしまう。何を作ってくれているだろうと思うと、ゆっくりお風呂になんて入っていられない。私はいそいそとお風呂から上がってリビングに行った。
「おや主様、お早いお戻りでしたね。
本日のご夕食はサンマの焼き魚と、ほうれん草のおひたし、それからワカメのお味噌汁と白米で御座います。どうぞお召し上がり下さい」
…私が想像していたよりずっと和食だった。見た目も地球でよく見ていたままだし、味も食べ慣れているそれだ。凄く美味しい!
「ノワール、本当に美味しいです!朝食も作ってもらったのに夕飯まで作ってくれて本当にありがとうございます。明日の朝食は私が作りますね!」
「かしこまりました、楽しみにしております。ところで主様。明日は魔法を練習してみませんか?ついでに主様がこちらにいらした時に見た森を少しお散歩しようかと思うのですが如何でしょう?」
「是非!明日はそうしましょう!私お散歩の時にお弁当持っていって外で食べたいです!」
「かしこまりました。では明日はそのように致しましょう。今日のところは私がお皿を洗いますね。明日魔法を覚えられたらお皿洗いもなさってみて下さい」
「はい!よろしくお願いします!ノワールありがとうございます。」
魔法を教えてもらえるだけでもワクワクするのにお散歩までできるなんて本当に明日が楽しみだ。全属性が使えるらしいし、もしちゃんと使えるようになれたらこの世界でも生きていきやすくなるだろう。危険が減るかもしれない。そう思うと余計に魔法を教えてもらいたくなる。
「主様、今日はもうお休みになられては如何でしょう?」
「お言葉に甘えされていただきますね。ありがとうございますノワール。お休みなさい」
「お休みなさいませ、主様」
私は自室に向かう。まだアルトライトにきて2日目だが、ノワールと一緒ならやっていけそうな気がする。明日は何を作ろうかと考えながらと考えていたらいつの間にか眠っていた。
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