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ルーアの町
何故ですか…?
しおりを挟む「な…んで…?」
これしか言葉が出てこない。だって2週間前はちゃんと町だったのだ。それがたった2週間間見なかっただけで変わり果てた姿になっていた。
「これは…」
「酷いな…」
二人も言葉を失っている。
「一体何があったんだろう…家まで崩れてる…」
「少なくとも戦争ではないということしか…戦争をしているですとか、もうすぐ起こりそうだということは聞いておりません」
「俺たち神の眷属には、そういう情報が世界から必ず伝わるようになってるんだ。戦争で荒れた土地を直す為にな。でも今回はそんなこと聞いていない。だから魔物被害か、賊被害だとは思うが…」
そんな…こんなに酷いというのか。私はルーアの町をよく見る。およそ1ヶ月前、やっと雑貨屋さんのオープンが出来たと喜んでいた若い女性は母親に縋り付いて泣いている。その母親は…おそらく生きていないだろう。攻撃でも受けたのか全身から血を流している。他にも子どもを抱いている人や、何やら話し合いをしている男性たち。
私は凄いと思った。ルーアの町の人たちは、こんな絶望的な状況でも諦めていない。先程見た母親に縋り付いて泣いていた女性も、泣きながら立ち上がった。泣き疲れてふらふらした足取りで、手当てをしている人の元に向かっていく。そこで涙を流しながらも必死に手当てをしている。
話し合いをしている男性たちも声は聞こえないが、この状況をどう打破するかを話し合っているのだろう。本当に凄い。私も力になりたい。手当てくらい私にもできる。
「ノワール、ディアルマ行きましょう。私たちも手伝いたいの…!」
振り返って言う。完全に私のワガママだ。行けば危険も伴うだろう、それでも行きたい。私を元気付けてくれていた人たちを、今度は私が元気にしたい。
「かしこまりました主様。では参りましょうか、いきなり町に現れるのは危険ですから、近くの森に行きましょう。そこから少し歩いて、ルーアの町へ向かいませんか?」
「ノワールの言う通りだな。今ルーアの町の人間たちは、町の中にいきなり現れたよそ者を迎えることなどできないだろう。賊のせいでこうなったとしたら、賊の仲間だと思われるのは避けたい。だから普通の旅人のように歩くのがいいだろう」
「わかった。すぐ映すね」
こんなに強く願ったことはないかもしれない。それくらいに力を込めて願った。
私たちは映しの湖に飛び込んだ。水中なのに不思議と苦しくない。何かに引っ張られるような感覚がした後、風を感じた。目を開けてみると、森の中にいた。ルーアの近くの森だ。足早に森を抜ける、ルーアの町が見えてきた。いつもは2人の門番が立っているのだが、今日は5人見慣れない人が立っている。片手で持てそうな剣を持った人、両手じゃないと持てないだろう大きな剣を持った人やら様々な武器を持った人たちだ。近づいてくる私達に警戒の目を向けてくる。ノワールがさりげなく私を庇うように立つ。ディアルマは私の肩の上だ。あのユキヒョウ姿では目立つからということで大型の猫サイズになっている。
門番の前までたどり着いた。
「お前たちなんの用があってこの町に来た?」
門番が問う。大きな男性だ、年齢は30後半だろうか。
「私達は旅をしているものです。町があると聞いたので立ち寄ろうかと思ったのですが…何があったのですか?」
対応してくれるのはノワールだ。私では緊張してしまって上手く話せないだろうからお願いした。
「後ろの奴も仲間か?」
「えぇ私の主です。肩に乗っている猫は、主の飼い猫ですので危険は御座いませんよ」
「そうか…だが今町はこんな有様だ。観光する所などないが?」
「そうですね。我々もこの状況で観光ができるとは思っておりませんよ。何があったのですか?」
もう一度ノワールが聞く。何があったのか聞かなければ動きようがない。
「詳しいことは中で説明する。とりあえず入ってくれ」
やっと町に入れるようだ。どうやら大きな男性がリーダーらしい。自分一人は町の中に入って残りの人たちに引き続き門番をするように言っている。
彼の案内に従って歩く。家が壊れてしまっている所が殆どだからだろう。テントが張られている。救護する人が集まるテントや、食べ物を作る人が集まるテントなど分けられているようだ。
暫く歩くと他のテントより一回り大きいテントがあった。そこに入っていくと中には人がいる。見覚えのある人たちだ。おそらく町長家族だったはず。名前は知らないけれど町の人達から頼りにされているのを何度も見たことがある。
「この方達は…?」
町長が彼に問いかける。初老に近い見た目をしているのにとても力強い声だ。こんな悲惨な状況なのに一切心は折れていなし、諦めてもいない。そんな気持ちが声から伝わるようだ。
「旅人だそうだ。町があるのを聞いてきたらしい。この状況を知りたいらしい。説明していいか?」
「勿論です。こんにちは旅の方。せっかく来て下さったのにこんな状況ですみません。私はこの町の町長をしております ルド・ルーアと申します。こちらは私が依頼した冒険者の方です」
「冒険者パーティー豪傑のリーダー、ガルドだ。宜しく頼む。俺たちは拠点を持たず旅をしているんだが、食料品を買おうとこの町によった時にはこの有様でな。今はこの町の警護をしている」
「ご丁寧に有難う御座います。私はノワールと申します。こちらにおられる方は私の主でセーレ様です」
紹介されたので会釈しておくことにする。ルド・ルーアさんは白髪が混ざり始めた亜麻色の髪にグレーの瞳。
ガルドさんは赤茶色の髪に同色の瞳。色は違うが燃え盛る炎のような髪型だ。もの凄い存在感がある。背中にある大きな剣もその印象を強めるのに一役買っている。それにしても大きい…私より頭一つ分は大きいノワールより更に大きい。見上げているとルドさんが話し始める。
「実は、3日程前にとてつもなく強い魔物が現れたのです。そいつは大きな体で町に侵入し、建物を破壊しました。町の警備団がなんとか討伐しようとしたのですが、全く歯がたたず…命を落としました。襲撃の時に亡くなってしまった者も多くおります。今は残った者たちでなんとかしようと作戦を練っていたのですが…正直我々ではどうしようもなく…」
「そこに俺たちが来たってわけだな。こんな状況でほっとけるわけねぇし、その魔物をどうにかするまでは俺たちが警護することにしたってわけだ。町長から話を聞く限りだが、その魔物はおそらくバロールだろう。二足歩行の大きな体に巨大な角、手にはこれまた巨大な石の斧を持っているAランク相当のかなり強い魔物だ。Sランクパーティーの俺たちでもかなり苦戦を強いられるだろう。
そこでだ、お前達も協力してくれないか?そこのお嬢さんは別として、お前は相当腕が立つだろう?だから頼む」
そう言ってガルドさんは頭を下げている。確かにノワールは強い。ノワールにとってAランクの魔物など敵ではないだろう。だけどノワールは迷っているようだ。私を伺っている。私を一人にすることを危惧しているのだろうか。
「ノワール、私なら大丈夫よ。此処にいるし、魔法も使える。町の皆さんをお守りすることくらいは出来るし、いざとなればちゃんとノワールを呼ぶから」
だからお願い。この町を助けてという思いを込めてノワールを見つめる。暫く見ているとノワールがため息をついた。
「かしこまりました、主様。
ガルドさん、私でよろしければ協力致しますが、条件が御座います。主に危険が及べばすぐに駆けつけさせて頂きます。戦っている最中でも関係なく。それを了承して頂けるならお手伝い致します」
「あぁ、有難う。その条件のった、だから協力してくれ。今から作戦を話し合おうと思うんだがいいか?」
「えぇ 構いません。お仲間の所へ参りましょう」
「そうだな。お嬢さんも一緒に来るか?」
私は頷いた。どんな戦いになるかは分からないが、私にできることを精一杯やろう。
私たちはガルドさんの仲間の所へと足早に向かった。
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