人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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ルーアの町

 一難去ってもう一難です…

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 立っているのも難しい程の揺れが続く。何度か地震を経験してはいるが、こんな揺れは初めてだ。そもそもこれは地震なのだろうか?
  
「主!大丈夫ですか!?」

 ノワールが私を急いで横抱きにする。所謂お姫様抱っこの体勢だ。

「う、うん。大丈夫だよ有り難うノワール。この揺れは何…?地震…?」

「いえ、地震ではないかと…こんなに揺れが長期化することはまずありません。ディアルマはどう思う?」

 ノワールが私の肩に乗っているディアルマに小声で聞く。今は豪傑の皆さんもこの揺れに耐えようと踏ん張るのに精一杯だからこちらのことは見ていないだろう。

「これは地震じゃない。地中の奥底から揺れていない。洞窟内部だけが揺れているんだ。誰かが外から地震を起こしている。このままじゃ崩れるぞ!!」

…崩れる?洞窟がですか!?そんなの困る。もしこのまま何の対処もせずにいたら生き埋めだ。そんなの嫌だ。
 でも…外に逃げる事は不可能だろう。今いる場所は最奥。この揺れでは走ることもできない。なら…

    
      ガラガラガラガラッ!!

 
 天井が壊れ始めている。私は咄嗟に全員に結界を張って声を上げる。

「ご、豪傑の皆さんっ! この先に少し開けた所がありま
す。そ、そそそそそこまで頑張って走って下さい…!」

 私の声はなんとか届いたようだ。頷いてくれた後一斉に走り出す。揺れがどんどん酷くなっていく。私はノワールに抱えられたままなので、この魔法を途切れさせないように集中する。揺れて少ししてから石がパラパラと落ち始めてはいたが、今落ちてくるのは石ではなく岩だ。それくらい大きい。あんなのが当たったらひとたまりもない。



 
  
 揺れる洞窟内という最悪の状況を走り続けやっと少し開けた場所に着いた。その場所というのは誘拐犯が5人でいたあの部屋のような場所だ。ガルドさん達は初めて見るのだろう、驚いている。私が恐怖で気絶させて、ノワールが縛ってくれた5人は、まだ意識が戻っていないようだ。彼らはこの揺れとは無関係だろう。

「お見事です主。さてこれからどう致しましょう?流石に出るのは不可能ですし…」

……この状況かで普通に話しかけてきた。本当にノワールは色々な意味で凄い。

「ど、どうするって言ったって…きゃあぁぁーーーー!」
 
 ついに完全に洞窟内が壊れ出した。叫んだ私にノワールは覆いかぶさりディアルマも猫の姿で私を守ってくれる。二人とも強度の高い結界魔法をこの空間に張り巡らせているようだ。

「全員防御の姿勢に入れ!!完全に崩れるぞ!!」

 ガルドさんの言葉をきっかけに豪傑の皆さんが即座に防御をとる。イヴさんも結界を張りそこに皆さんが入っていく。何があっても耐えられるように重心を低くして構えている。


 ドンッグラグラグラグラグラッガラガラガラッ!!!


 岩が降り注ぐ音がする。本当に怖い。怖すぎて私は意識を失った…




「…!……じ!あ……!主!起きて下さい!主様!」

……ノワール…?じゃあほっぺたに感じる感触はディアルマだろうか、必死にペロペロと舐めている。私はどうしたんだろう。確か…バロールを草原に飛ばして…ノワールと合流したかと思えば豪傑の皆さんが連れ去られていて…それで…

「主様!目覚められましたか!大丈夫ですか?どこか痛いところは御座いませんか?」

「主大丈夫か!?もう揺れは止んだぞ!安心していい」

「ノワール…ディアルマ…?」

「そうです!ノワールですよ。主様、洞窟の崩落に巻き込まれたのです。結界を張っていたので怪我はないかと思いますが…大丈夫ですか?」

「あぁ、ディアルマだ。主の傍にいる。大丈夫そうなら起きて周りを見てほしい。豪傑の奴らも無事だ。人間には刺激が強かったようで気絶してはいるが…」

 崩落…?豪傑の皆さん…?そうだ!!

「そうだった!洞窟が突然崩れてき…て…」

 私は言葉を失った。部屋のようだったその場所は酷く変わり果てていた。机や椅子が散乱しランプは壊れている。今はノワールの魔法で明るくしている状況だ。キッチンは揺れた衝撃に耐えきれず大破してしまっている。豪傑の皆さんが捕われていた牢屋へ行く道も、出入り口に繋がる道も全て瓦礫で塞がっている。本当に酷い…気絶してはいるが豪傑の皆さんも無事だ。怪我がなかったこれだけが救いだ…




「ガルドさん!ガルドさん起きて下さい!」

 必死に揺さぶる。なんで起きないんだ!

「イヴさん、起きて下さい。さっさと出る方法を探しますよ」

 ノワールの方もイヴさんを起こしてもらっているが全然起きない。ノワールがだんだんイライラしてきている…

「イヴさん、イヴさん起きて下さい……いい加減起きろ!!」

 遂にノワールがキレてしまった…そのままの勢いで魔力を高めていく。どうやら魔法を使うようだってちょっと待って!

「の、ノワール待って!何するの!?」

「大丈夫ですよ主様。殺したり傷つけたりは一切致しません。ただ、起きて頂くだけです」

 そう言って水の塊を作り出していく。その塊を5つ作り出したかと思えば、それぞれ豪傑の皆さんの顔に近いところに持っていく。そして顔を覆っていくってちょっと待て!ちょっとどころじゃないだいぶ待て!!

「ノワール!窒息してしまうよ!!」

「大丈夫です。窒息する前に起きます」

「いやそういうことじゃなくて…!ディアルマも何か言って!!」

 ディアルマの方を見るが首を傾げている。なんで?と言わんばかりにコテンと音がしそうな程だ。可愛い。可愛いが…



 そうこうしている間にだいぶ時間が経ってしまったようだ。皆さんが飛び起きた。ゴホゴホッと咳をして苦しそうだ…急いで駆け寄る。

「皆さん…!良かった…大丈夫ですか…?」

「あぁ…死ぬかと思ったがな!起こしてくれて感謝する!」

「ほ、本当に死ぬかと思ったぜ…もうちょっと起こし方考えてくれ…」

「こんな時に気絶してしまってすまない。Sランクパーティーなのに情けないな…出入口は完全に塞がったのか…」

「そのようですね…どうしましょうか。これは困りましたね…」

「どうしよう…ちょっと掘ったら…出られる距離じゃ…なさそう…」

……皆さんご無事なようで何よりである。ノワールには咎めるような視線を送ったつもりなのに涼しげな顔で一礼する…本当に反省してないな…

「ノワール、皆さんの髪を乾かして下さい。私はディアルマと此処から出る方法を考えます」

 ノワールが濡らしたんだから彼が乾かす方がいいだろう。ディアルマと共に出る手段を考える。此処に居続ける気はさらさらない。それに私は腹が立っているのだ、いくらなんでも洞窟に生き埋めはないだろう。それに5人でいた誘拐犯は無事だったが、残りの見回りをしていた3人と、見張りをしていた2人は生きてないだろう…人の命を何だと思っているのだ。本当に腹が立つ。なにがなんでも此処から抜け出してやる。




「ディアルマ、どうしたらいいと思う?もともとあった出入り口を目指すのは無理よね?」

「あぁそうだな。此処からかなり距離がある。だから別の出入り口を作った方が良さそうだ」

「作る…地下も無理なら…天井かな」

 そう言って天井を見る。この洞窟がどれだけ分厚い岩でできているのかはわからない。が、思いっきり穴を開ければいいだろう。寧ろ天井しかない。地下もダメ洞窟内もダメ。なら天井だ。

「ディアルマ。私が天井に穴を開ける。だからディアルマは砂埃とかが皆にかからないようにするのお願いしていい?」

「任せておけ。しっかり結界を張る」

 ディアルマがそう言ってくれるなら安心して任せられる。次はノワールと豪傑の皆さんだ。

「皆さん。これから天井に穴を開けます。その穴から脱出しましょう。ノワール、天井に穴を開けますからその穴から脱出するので私達を浮かせてもらえませんか?…砂埃とかがかからないようにする為の結界は…張ってもらいますから大丈夫ですよ」

「かしこまりました主。必ずや成し遂げます」

「待ってくれセーレ。それはかなり貴方の負担になるのでは?俺も手伝わせてくれ」

 そうイヴさんが申し出てくれるが断らせて頂く。脱出して終わりではないのだ。

「有難いですけど…大丈夫です。こ、この洞窟を壊した犯人を…捕まえる時の為にま、魔力を温存して下さい…」

「犯人を…捕まえる?」

「は、はい…敵は…これほどのことをし、してきています…このまま…何もないとは…す、すすす少し考えにくい…かと…」

「いやしかし…」

「いや、イヴ!ここはセーレの言う通りにしておこう!!」

 ガルドさん…

「犯人を捕まえる。これはかなり大変なことだ。俺達は今回セーレ達に助けられて、守られてばかりだ。せめて犯人を捕まえるところで、役に立たなければまずいだろう?その為には温存しておかなければ」

「ガルドの言う通りだぜ?ここは素直にお願いしよう?な?」

 ガルドさんとヒューズさんが説得してくれたお陰でなんとか納得してくれたようだ。イヴさんが渋々ながら頷いてくれた。

「わかった…セーレ君達にばかり負担をかけてしまって本当にすまない。必ず犯人を捕まえる時に役に立つと誓う。だから、頼む」

 そう言って頭を下げてくれる。イヴさんと一緒に他の人も頭を下げてくれるのだが…どうしよう…困る…

「わ、わかりました。必ず脱出できるようにするので…犯人を捕まえる時は宜しくお願いします」

 私は魔力を高め始める。それに合わせてディアルマも魔力を高めていく。何で穴を開けよう?やっぱり風かな?台風並みの強風で岩を削りながら吹き飛ばしていこう。
 イメージは固まった。ディアルマの方を見ると準備はできていると頷いた。それを見てもっと魔力を高める。私の周りには風が吹き荒れる。鋭い鎌鼬のような風は大木をへし折れる程に強いのだ。きっと洞窟の天井だって壊せる。
 もう少し…もう少し……今!!

「いきます!皆さん伏せて!」

 私の言葉で一斉に伏せる。私はというと風を制御するのにかなり集中していた。間違っても皆の方にいかないように的確に天井のみを狙う。ディアルマの張ってくれた結界のお陰で砂埃一つかかっていない。
 

    ボコッガゴッドォォーーーン!!


 天井から太陽の光が差し込んできた。やった!!穴が開いた!!

「ノワール!お願い!!」

「かしこまりました」

 ノワールの魔法で体が浮いていく。浮いた体はそのまま穴を通って洞窟を脱出することに成功した。バロールを討伐した時は夜だったのに、もう太陽が登っている。かなり時間が経過していた。これはルーアの町の町長も気にしてくれているだろう。急いで戻らなければ。

「セーレ達!本当にありがとう!豪傑を代表して礼を言わせて頂く!本当に心から感謝する!!」

 そうガルドさんがキラッキラの笑顔でお礼を言ってくれる。本当に良かった。洞窟の崩落という非常事態に巻き込まれたが、皆無事だ。後は…


 
    「な、なんで…生きてるんだ!!」

 

 こんなことをしでかした犯人を捕まえるだけだ。ちょうど犯人が出てきてくれたならちょうどいい。

  ぞんぶんに後悔してもらおう。
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