人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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ルーアの町

 救出します!

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 その後、最奥を目指して歩き続け、やっとたどり着いた。今も物陰に隠れて敵のの様子を窺っている。豪傑の皆さんは牢屋に閉じ込められており、その前に敵が2人いる。この人達がディアルマの言っていた見張りだろう。

「主様、お下がり下さい。私がこれで気絶させますから」

 そう言って取り出したのは例の吹矢だ。お願いしますと頷いて隠れる。
 それを見届けてノワールが吹矢を構える。放った吹矢は、吸い込まれるように敵の首に命中した。仲間が一人、急に倒れて驚いていた人にも吹矢が命中して、あっという間に気絶した。本当に忍者みたいだ。今のところ百発百中である。



 ノワールが敵を縄で縛っているのを横目に急いで牢屋へと向かう。ディアルマはまた大きな猫の姿で私の肩に乗っている。牢屋内は真っ暗で何も見えない。

「皆さん…!大丈夫ですか…?」

「その声は…お嬢さんか!?此処まで一人できたのか!?」

「い、いえ…ディアルマとノワールと来ました…そんなことよりお怪我はありませんか…?」

「あぁ大丈夫だ!すまんがお嬢さん、助けてくれないか?俺達魔力封印の枷をかけられていて魔法が全く使えないんだ!」

 魔力封印の枷…?そんな物があるのか…

「わ、わかりました!今お助けします!」

 まずは明るくしよう。いきなり蛍光灯級に明るくしてしまうと目が痛いかもしれない。電球くらいなら大丈夫かな…?
 後は鍵。私の目の前にある鉄格子はしっかり鍵がかかっている。勿論鍵なんて持ってないし、魔法で壊すのは危ない。見張りの2人が持ってたり…?2人を縛っていたノワールを見ると、首を横に振って否定している。ディアルマは私とずっと一緒にいてくれたし、鍵なんて知らないだろう。じゃあ魔法で作ろう。水の塊を鍵穴に入れて、それを凍らせれば鍵の代わりにはなるだろう。
 よし。段取りは決まった。では魔法を使っていこう。私の場合しっかり考えてやらないと大変なことになるらしい。主に周りが。どんなことになるのかは分からないけれど、大変なことになると言われたらなるべく回避するしかないだろう。




「今から魔法を使います。まず…明かりをつけてから、つ、次に鍵を開けます。危険なことはないかと…思いますのでご、ご安心ください」
 
「あぁ!よろしく頼む!」

 先程から気になっていたのだが、ガルドさんの声しか聞こえない。他の4人の方々はどうしたのだろう…?それを知るためにも早く助けなくては。普段は詠唱などしないが、何をするかわかりやすくする為に、今回は詠唱をする。といっても一言だけだが

         『灯り』

 目を刺激しない程度の優しい灯火。淡く辺りを照らす電球。
 その明かりが灯されてから改めてガルドさん達の方を見る。
 
 「……!」

 私は息を飲んだ。怪我はないって全然そんなことない。ガルドさん以外の皆さんは全員気を失っている。呼吸と共に胸が上下しているから、生きてはいるのだろう。でも血だらけだ。頭からも体からも、とにかく全身から血を流している。それに手錠のような手枷が嵌められており、洞窟の壁に繋がれている。これでは逃げようがない。ガルドさんだって全然怪我がないとか言える状況じゃない。明るくなったからこそわかるが、ガルドさんも相当怪我をしている。血だらけだ…右足の怪我か特に酷いんだろう、見てるだけで痛そうだ。早く治療しなければ。
        

        『水球氷結』 


 鍵穴に水の塊を入れ込んで凍らせた。それを引き抜けば予想通り、鍵の代わりになった。急がなきゃ早く治療しなければ悪化してしまう。こんなに焦って鍵を開けたことがあっただろうか。焦り過ぎて失敗しながらもなんとか開ける。転がりこむようにして中に入り、ガルドさんの前に行く。

「ガルドさん…!お待たせ…しました今すぐ治療します!」

「待つんだ!!使ってはダメだ!これは魔力封印の枷だ。これが嵌められている俺に、魔法を使えばお嬢さんも危ない!これは魔力を吸い取るんだ、だから使ってはダメだ。俺は大丈夫だから枷を外してくれ」

 そんな…魔法が使えないなんて…魔法が使えないと枷を壊すことなんて出来ない。だって鍵がないのだ、探しに行くという方法もあるけれど、どこにあるのかわからない。誘拐犯だってバカじゃないだろう。わかりやすい所に置いとくとはあまり考えられない。鍵もなければ、魔法も使えない。どうすれば…

「主様、お下がり下さい。私が致します」

 ノワールに優しく肩を引かれる。引かれるがままに後ろに下がると、ノワールはガルドさんの前に立った。

「今から枷を壊します。主様、方法をお見せ致しますので、よくご覧になって下さいませ」

「な、何をする気だ?いくらノワールが強くとも流石にこれは…」

「いいから口を閉じていて下さい。喋られると手元が狂います」

…流石ノワール。容赦ない。ガルドさんが何か言おうとしていたのにぶった切って枷を壊す準備を始めている。見ていると手に魔力を集め始めた。ノワールの手が赤く光っている。そしてその赤く光った手で手枷を握った。


      ブチバキッ!! 


……た、確かに壊れはした。したが…これは予想外だ…赤く光った手で手枷を握ったノワールはそのまま手枷を引っ張った。それだけで、手錠のような手枷の鎖部分が弾け飛んだ。壁に繋いでいた鎖も一緒に弾け飛んでしまった。そして最早手枷ではなく、ただの腕輪ようになったその金属の部分を握り潰したのだ。…怪力過ぎやしませんか…?方法を見せると言われちゃんと見ていたが、全くもって出来る気がしない。

「の、ノワール…て、手は大丈夫…?」

「ご心配して頂き有り難う御座います。私は大丈夫ですよ。主様これは 身体強化 という魔法で御座います。魔力封印の手枷は、確かに魔法を封じ、魔力を吸い取ります。ですが、それは表面化した魔力だけなのです。火を出すなど、目に見える魔法は表面化した魔力です。身体強化は体の一部を強化するもので、今は分かりやすいように行いましたが本来目には見えません。体を巡る魔力を体内で強化するものなので魔力を吸い取られたりはしないのです」

 なるほど魔力封印の手枷も万能ではないのか。じゃあこれが出来るようになれれば私も助けられる。
 そう思って先程のノワールの真似をする。手で壊すのだから強化するのは手だろう。私は手に魔力を込めることに集中する。するとだんだん手が温かくなる。ノワールと同じように赤い光が手を覆い始めた。

「素晴らしいです主様! では、他の皆さんの手枷をお願いします。私はガルドさんの怪我の具合を見ておきます」

 そう言って先程から放心状態のガルドさんの前にしゃがみ込む。手枷がノワールの手によって吹き飛んだことがよっぽど衝撃的だったらしい。よくわかる。私も衝撃を受けた。
 ガルドさんのことはノワールに任せて私は他方々の手枷を壊していく。ノワールのように一撃では無理だが、それでも何度か引っ張るうちに壊れていく。私が手枷を壊し、ノワールが怪我の具合を見て、ディアルマが気絶している人を起こしていく。この連携で作業を進め、ようやく手枷を壊し終わった。ガルドさん以外の人達も起き始めている。

「主様、皆さんの怪我の具合なのですが、命に別状は御座いません。傷も神経に達しているものは一つもなく、内臓も無事です。皆さん、魔力切れを起こしかけておられますので、体力回復薬と魔力回復薬を飲んでいただければ、外傷共々回復するかと存じます」

「わかりました! 準備します!」

 
 急いで魔法薬を取り出す。実は練習して魔法薬限定の収納魔法を使っており、ある程度の数はいつでも取り出せるようになっている。本当に大変だった…いそいそと準備を進めているとガルドさん達が声をかけてきた。

「お嬢さん…いやセーレ。本当にありがとう。セーレ達がいなければどうなっていたことか…」

「セーレちゃん本当にありがとな。俺達何の役にも立ってないのに貴重な魔法薬を使わせることになっちまって…申し訳ねぇ…」

「本当にすみません。僕たちが油断してしまったせいでセーレさん達にこんな所まで来させてしまって…」

「……ごめんセーレ。魔法薬作るのも…大変…なのに…」

「俺が魔法を使われる前に気づけばよかったんだ…本当にすまない」

「い、いえいえ!魔法薬は作れますから…!それに一人で来たわけではないので…気にしないで下さい。お待たせしました。じゅ、準備が出来ました…!緑色をしていて、鳥の模様が彫られている瓶が体力回復薬。水色をしていて、雫の模様が彫られているのが魔力回復薬です。これを一本ずつ飲んで下さい」
 
 それぞれに手渡しする。ちゃんと作った本人として責任を持たなければ。ルーアの町に行ってから分かったが、私は魔法薬の説明をする時だけは、逃げたり倒れたりせず、きちんと話せるようだ。本当に良かったと思う。やっぱりよく分からない物を口にするのは不安だろうから。

   

 珍しそうに瓶を眺められたが、渡した人から嫌がりもせずに飲んでくれた。みるみるうちに傷が癒えていく。流れてしまって固まってしまった血はどうしようもない為、見た目は血だらけだが怪我は治ったのでもう大丈夫なはずだ。
 
「飲んで下さり有り難う御座います。怪我はもう大丈夫ですか…?ど、どこか痛いところは…?」
 

「「「「「…………」」」」」 


……あの…聞いているんですが…皆さん揃って無視ですか?急に何故なんですか私痛いところはないですか?って聞いただけじゃないですか…いきなりの無視に泣きそうだ。ディアルマが慌てて擦り寄ってきてくれなければ、もうすでに泣いていたと思う。ディアルマが豪傑の皆さんに向かって唸り声をあげる。それで硬直状態が解けたのかハッと私の方を見る。

「い、いやセーレ!違うんだ無視をしたんじゃない!!まさかここまで効くとは思わなかったんだ!!もう痛いところはないぞ!本当にありがとう!」

「そ、そうだぜ!ガルドの言う通りだ!なぁイヴ!」

「あ、あぁそうだな。ここまでしっかりと傷が治る魔法薬は殆どない。セーレは素晴らしい腕の持ち主なんだ。本当にありがとう」

「セーレさんのおかげでこの通り、傷一つありません。有り難う御座います」

「セーレ凄い…ありがとう…」

 皆さんが一斉に私にお礼を言ってくれる。なんだか恥ずかしい…
 照れている私の手をノワールがとった。

「主様、本当に素晴らしかったですよ。皆さんの怪我を一つ残らず治せる魔法薬をお作りになられたこと、このノワール最上の喜びで御座います。
 さぁ早く洞窟を出ましょう。ルーアの町に戻らなくては」

 ノワールがエスコートしてくれながら歩き出す。ディアルマは肩に、豪傑の皆さんは私達の後ろからついてくる。本当に良かった、誰一人かけることなく帰れて…
 そう喜んでいた時だった。


   グラグラグラグラッ!!!!!!
 
  
   突然激しく洞窟内が揺れたのだ。
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