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ルーアの町
恐怖を体験してもらいます…! ※ホラーが苦手な方はご注意下さい。
しおりを挟む敵を3人ノワールが吹矢で倒した後、私達は山場を迎えようとしていた。今少し離れた場所に隠れているのだが、この先に敵が5人いる。この5人を倒せば豪傑の皆さんが捕われているところまでもう少しだ。
洞窟内なのに机があったり椅子があったり、キッチンらしきものがあったりと、まるで部屋のようだ。光るキノコで明るくしているのではなく、蝋燭やランプを使って明るくしていてベットまである。それにしても…
「彼らは本当にただの誘拐犯なの…?」
素直な疑問だった。倒した3人は無頼漢そのもののような見た目をしていたが、怪我をしているわけではなかったし、服や靴がボロボロでもなかった。痩せ細ってもいない。3人が持っていた武器だって見た感じボロボロじゃなかった。刃も欠けているとかそういうことは一切ない。武器の手入れ方法は知らないが、お金はかかるだろう。
それに机や椅子など置いてある家具は、此処から見る限りだが、壊れているといった印象は受けない。ランプは一つも壊れていないし、聞こえてくる話し声も元気そうだ。
大声で笑っている。元気がなければ大声で笑うなどできないだろう。家具を買うのにも、食事をするのにも、装備を揃えるのにもお金がかかる。ただの誘拐犯がここまでお金に余裕があるものなのだろうか?
「見た限りですが、ただの誘拐犯とは考えにくいかと。誘拐犯にここまでの財力があるのは不自然です。Sランクパーティーを連れ去れるくらいですから、手慣れてはいるのでしょう。ですが、何度も誘拐を繰り返している場合、追われる確率も跳ね上がります。逃げるにも資金が必要な状況下で、これだけの家具と装備を揃えられるということは彼らの後ろに誰かついているのでしょう」
「誰か…?それって彼らの後ろに黒幕がいるってことですか…?」
「おそらく。ですが、今は黒幕を暴くことはできないでしょう。証拠もありませんしね」
「あぁそれに黒幕を探すのも面倒だしな。それよりも目の前の敵だ。さぁどうする?」
「このまま行くか…?1番手っ取り早いが、危険も伴うな。かといってランプを壊したりしたら後々面倒だしな…」
今気づいたがノワール、ディアルマに対する口調が変わってない…?会って間もない頃はディアルマに対しても敬語だった気が…ってそんなこと考えている場合じゃない。
「二人とも、こんなのはどうかな…?」
「いいですね…それでいきましょう」
「面白そうだ。それでいこう」
二人とも賛成してくれたみたい。傷つけたりするのは嫌なので、誘拐犯には恐怖を感じてもらおう。
特大の恐怖を……
ーーーーー誘拐犯side
「本当に上手くいったな!」
「Sランクのくせにアッサリだったぜ」
「だな!あれでSランクパーティーとか詐欺じゃね?」
「なぁ!!Sランクも大したことないな」
「そうだな! 仕事は簡単だし、ボスから金はたっぷり貰えるし、良いこと尽くめだ!」
酒を呑みながら喋る。本当に簡単だった、預かっていた魔力石を使い、目を眩ませた隙に気絶させる。次にこのアジトに連れ去る。たったそれだけで大金が手に入るのだ。これだから誘拐は止められない。本当に楽な仕事だ。後はもう一度奴らを気絶させてから逃げるだけ。もう成功したも同然の仕事だった。
「なぁ、なんか風を感じないか?」
「あぁ?風なんて吹くわけないだろう。此処は洞窟の最奥だぞ?お前酔ったんじゃねぇの?」
「いやこいつは間違ってないぞ。急に温度が冷えてきた」
「確かに…なんか寒いな」
「風があるかなんて蝋燭をつければいいだろう。火が揺れれば風はあるんだ」
そう言って蝋燭に火を灯す。皆が固唾を飲んで火を見る。ゆらゆらと火が揺れる…
「や、やっぱり風があるぞ!!」
「なんでだ!?なんで最奥に風が入ってくるんだ!?」
「しっ!静かにしろっ!なんか聞こえないか?」
「冗談はやめろよ!此処はあの攫った奴らと俺達しかいないぞ!」
「とりあえず静かにしろ!全員武器を用意しろ!」
全員で武器を構えながら耳を澄ます。確かに何か聞こえる…ヒタヒタという音も聞こえる。
『ネェ…アノコハドコニイルノ…?』
「ヒィッなんかいるぞ!」
「静かにしろっ」
『ダレガ…ワタシカラ…アノコヲ…ウバッタノ?』
『アァ…イトシイアノコ…カエシテ…』
「誰もあんたの子供なんて攫ってねぇよ!」
「バカッ」
わざわざ正体もわからない奴に反論するバカがいるかっ!しかも明らかにヤバイ。案の定あの声の主は俺たちに気づいた。
『オマエタチガ…ワタシノコヲ…サラッタノカ…!!』
「いや誤解だ!俺達はあなたの子を攫っていない!」
『ウソヲツクナ…!オマエタチ…オモイシラセテヤル!』
ヒタヒタと近づいてきていた足音が早くなる。どうやら走っているらしい。
「ど、どうすんだよ!」
「お前のせいだろ!お前がなんとかしろ!!」
「そんな言い合いしてる場合か!!」
なんとかして逃げなくては。最悪こいつらを盾にして…と考えていた時だった。
ランプで照らされている場所に女が現れたのだ。真っ黒の長い髪に隠れて顔が見えない。見慣れない白色の服を着ており、所々赤黒くなっている。明らかに血だ。手に持ったナイフも血がこべりついている。
「ぎ、ぎゃあぁぁぁーーーーーーー!!!!!」
叫んで仲間の一人が逃げようとする。だが…
『ニガスモノカ…!!』
あっという間に女に追いつかれた。速い、俺たちでは逃げきれない。逃げた仲間は近づかれていたことにすら気づかなかった。殺されたのだ、後ろから首を切り裂かれて。
仲間を一人殺した女は俺達の方に向く。
『ツギハ…ダレダ…?』
そこからはもう地獄だった。逃げられないなら戦おうとしたが、何故か攻撃がきかない。すり抜けるのだ。そこから仲間がまた一人、また一人と殺され最後は俺一人だ。
「た、助けてくれ…悪かった…」
腰が抜けていたから逃げられなかった。俺の必死の懇願すら聞かず、奴は言う。
『オマエモ…シネ…!!』
あぁ…もう終わりだ。俺は観念して目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーー
「やりましたね!主様!」
「見事だった!まさか一切攻撃せずに気絶させるとはな」
「ありがとう。上手くいって良かった…!」
そう言って魔法を解いた。本当に殺してはいない、寧ろ傷つけてすらいない。私がかけた魔法は 幻惑 だ。その名の通り、幻を見せて惑わしただけ。さっき誘拐犯が見た女の人も、幻惑の魔法を使って幻を見せただけ。声も魔法を使って変化させた。声は空気の振動によって聞こえているらしい。それを利用して風の魔法で振動を変えたのだ。それと並行して結界を張っておいたので、残りの誘拐犯には聞こえていないはず。
誘拐犯は恐怖で気絶したし、これで先に進める。気絶した誘拐犯はノワールが縄で縛ってくれたし。
「さぁ! 進もう。助けられたら急いで帰ろう…!」
本当にもう帰りたい。早く帰りたい。フファが食べたい。
その一心で最奥に向けて足を進めた。
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