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皇都騒動

ダンタリオン

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ーーーーレンルナードside
  
 帰って来られなくなる。そうバンに言われて驚いた。まさか知っていたとは思わなかった。痕跡を辿るといったが、厳密に言うと違う。今から使おうとしている魔法は、ここで起こったことを自分の意識を飛ばしてみる魔法だ。失敗すると帰り道をなくし、そのまま死ぬというリスクがある魔法。

「レンルナード様、知らないとでも思いましたか?これでも皇宮で働く者です。危険な魔法やらは勉強しましたよ。勉強したなかにあったんです。レンルナード様、私は貴方様を無事に陛下方の元に送り届けなければなりません」

 バンの言うことも最もだ。確かに俺に何かあれば、一緒にいたバンが責任を取らされるかもしれない。お前がいたのに何をしていたと。

「バン。すまないが、俺のワガママを聞いてほしい。本当にすまない…バンの気持ちもわかる。それでも…頼む…!」

 分かっているからこそ、頼みこむしかできない。俺は皇帝でもなんでもない。たまたま産まれた所が皇族だっただけだ。俺にできるのは誠心誠意頼むことだけ。
 ずっと俺を見ていたバンがため息をついた。やれやれと言いたげな顔だ。

「わかりました。レンルナード様のお好きになさって下さい。ですが、一つだけお願いが御座います。絶対に無事に帰ってきて下さい」

「わかった、約束する。必ず帰ってくる」

「そのお言葉、確かに。お待ち致しております」

 その言葉に頷いて、俺は魔法を発動させていく。

『我は願う。この地に起きた真実を見せよ。我は望む、この場の記憶を』

 詠唱が終われば光に包まれる。眩しい光に目を眇めるとだんだん意識が遠くなってきた。必ず戻る。そう誓いながら俺は意識を手放した。




ーーーー過去

 墓に一羽の鳥が止まる。   

『オマエハマンゾクカ?』

 嗄れた声が響く。周りには誰もいない。鳥は墓に向かって話しかける。

『オマエヲコロシタモノヲ ニククハオモワナイカ?』

『オマエハコウテイトシテ タダシイコトヲシテイタノニ』

『リカイサレズ ショケイサレタ』

『フクシュウシタイトハ オモワナイカ?』

 返事が返ってくるはずもない。なのに話し続ける。まるで何かを言わせたがっているかのようだ。

『モシ オマエガフクシュウヲノゾムナラ テヲカソウ』

『ワタシニハ ソレダケノチカラガアル』

『イキカエルツモリハナイカ?』

 鳥が喋るたびに黒いモヤが発生している。そのモヤがどんどん渦を巻いていく。

『アンデットトナリ ワタシニノテアシトナレルナラ イキカエラレセテヤロウ』

『シューベル・アキュリスタ!アンデットトナレ!!』

 その言葉が合図だったのか、黒いモヤが墓に吸い込まれていく。

      ガタッガタガタガタッ


 墓石が揺れている。まるで中から出たがっているかのようだ。鳥がニヤリと笑う。鳥が笑える筈がないのに、その鳥は笑ったのだ。

『アンデットトナルカ!!イイダロウ サァイキカエレ!!!』

 鳥が叫ぶ。


    ガタガタガタガタッドゴォォォォッ


 墓石が壊れた。中からアンデットとなってしまったシューベルが出てくる。その姿は白骨ではなく、生前の姿のままなのだろう。赤い髪に赤い瞳だが、髪は汚れ、瞳は淀んでいる。シューベルは満足そうに笑い、跪いだ。

『あぁ…いい気分だ…!!これで復讐ができる!感謝する、名前を聞いても?』

『ワガナハ ダンタリオン。オマエノアルジノナダ』

『シューベル、オマエノノゾムガママ二 フクシュウヲスルトイイ』

『なんと…!有り難き御言葉!ではまず、現皇帝を呪おう。次はそいつが大切にしている者だ…!!』

『クククッスバラシイフノマリョクダ キニイッタゾ!!オマエ二シメイヲアタエヨウ』

『使命?何ですか?』

 かつては誰よりも傲慢な皇帝であったはずなのに、今はすっかり鳥の下僕に落ちたようだ。使命と聞いてウキウキしている。

『オマエタチガシノモリトヨブバショへイケ。ソコニイルオンナヲコロスンダ…!!』

『女…?どんな奴です?特徴は?』

『ダークウェルザローズヲツレテイルハズダ。ソイツヲカナラズコロセ。シッパイスレバオマエヲコロス!」

『ひぃっわ、わかりました!必ず殺して参ります!!』

『オマエノフクシュウヲ トゲタアトデカマワヌ。ハヤクイケ…!!!』

 鳥が叫ぶとシューベルは消えていた。誰もいなくなった場所で鳥…ダンタリオンは嗤う。

『フフフッオマエノスベテヲ ウバウヒガタノシミダ。ルトラスヨ…マッテイロヨ…』

 そう言い残して飛び立っていった。ダンタリオンがいなくなった後、破壊されていた墓石は元通りになり、静けさを取り戻していた…


ーーーーレンルナードside

「う…ん」

「レンルナード様…!お目覚めですか!?何処か変な所はありませんか!?」

 バンが必死に話しかけてくる。まだぼーっとする頭でバンの方を見る。

「レンルナード様…?何を見たのですか?」

 何を見たか…鳥が喋ってシューベルをアンデットにして…それからダンタリオンだと名乗って…

「セーレ!!」
 
 そうだ…彼奴はダークウェルザローズを連れた者を殺せと言った。それが何かはわからないが、あの森にいる女なんてセーレしかいないだろう。
 気づけば走り出していた。

「レンルナード様!?どちらに行かれるのですか!?お戻り下さい!!」

 バンが引き止めてくるが、聞こえないフリをする。ダンタリオンが誰なのかは知らないが、やばい奴なのは間違いない。


    どうか無事でいてくれ…!

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