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皇都騒動
急に襲撃ですか!?
しおりを挟む私はずっと考えていた。もしも、今のように魔法薬に頼っているのではなく、魔法ももっと勉強していたらどうなっていたのかと。もしかしたら皇女様を治せたかもしれない。結局のところ、私は悪者になりたくないのだ。皆に敵意を持たれたくない。一度敵意を持たれると、ずっと持ち続けられる。それが嫌だった。だから人とあまり関わらないようにしていたのに…思い返せばあの時、レンルナードさんを助けた時から人と関わり出している。
かと言ってあの時の私に助けないという選択肢はなかったし…などとどうしようもないことを考えてしまうので、散歩に来ている。いつも通り、死の森と呼ばれている場所だ。今日もノワールが淹れてくれた紅茶を飲んで、ティータイムをしていた時だった。
「主様!!」
「主!!」
私は誰かに羽交い締めにされ、首に剣を突きつけられている。ノワールとディアルマが立ち上がって警告の声を上げた瞬間の出来事だった。
「お前か…主の言っていた奴は…」
私を羽交い締めにしている人を見る。赤い髪に赤い瞳が特徴的な男だった。ニヤリと嗤っている。嗤っていることよりも気になるのは男の体温だ。生きている者ではあり得ない体温。本当に冷たい。
私は恐怖で言葉も出ない。そんな私を見てノワール達が動こうとする。
「おっと…お前達、それ以上動けば大事な主の命の保証はできないぞ?」
ニヤニヤと嗤いながら戯けたように言うと私の首に突きつけている剣に力を込めた。皮膚が少しだけ斬られたのか血が流れる。そこまで痛くないものの、ノワール達にとっては許せなかったらしい。
「貴様…!!何をしているのかわかっているのか!」
「よっぽど死にたいらしいな…それならお望み通りにしてやるぞ」
二人とも激怒している。ディアルマに至っては脅している。ものすごく怖いが、二人の怒りが凄すぎて冷静になってきた。この男は誰なんだろう…
「あぁわかっている。こんな女、殺すのは容易い。だが…お前達を見ているのがとても面白い。さぁ…次はどんな傷をつけてやろうか…顔にでもつけてみるか。大丈夫だ、今は殺しはしない」
楽しそうに言いながら剣を顔に近づけてくる。
「いや……」
「そうだ。もっと怯えろ!!」
本当に怖い。いきなりこんな状況になって訳が分からないし、本当に嫌だ。早く、早く家に帰りたい。
「助けて……!!」
そう言った次の瞬間、地面から茨が飛び出てきた。その茨は私と男の間に入り込み、男を私から遠ざけていく。私を包み込んでいて守ってくれているようだ。
「な、なんだ!?何が起きた!?」
「これって…確か…」
ノワールの加護の効果…?
「主様!そのまま私達の所へ来たいと願ってください!」
言われるがままに願うと茨が動き出す。私をドーム状に包んだまま移動しているようだ。
「そんなことさせるか!!」
男が叫ぶ。何かをしようとしているようだが、私には何も見えない。
「グワァァッ」
え!?何が起きてるの!?
「無駄だ。お前如きにノワールの茨を傷つけるのとはできない」
ディアルマの言葉から察するに、男は茨を切ろうとしているのだろう。でも茨はびくともしていない。ノワールが並大抵の攻撃では傷つかないと言っていたが、本当に頑丈だ。中にいる私には衝撃すら伝わってこない。ただひたすらに移動しているような感覚があるだけだ。
男の叫び声を聞きながら茨に身を任せていると、茨のドームが解け始めていく。スルスルと私を守っていた茨は私から離れ、ノワールの方へ行く。
男の方を見ると傷だらけだった。茨に攻撃を仕掛けたときに受けたのか、その肌には裂傷が見える。
「主様…!ご無事ですか?早くこれをお飲み下さい」
ノワールが魔法薬を差し出してくる。この瓶と色は体力回復薬だ。これを飲むと怪我が治るから日頃からよく飲んでいる。
飲んでディアルマは何処に行ったんだろうと探すが、すぐに見つかった。男の背中を踏んでいたのだ。それも思いっきり。メリメリメリッという音が聞こえてきそうな程に容赦なく踏んでいる。
「主!大丈夫か?首の他に痛い所はないか?」
ディアルマが踏みつけながら心配そうに私を見る。
「大丈夫だよ…首も治ったから…そんなことより…」
私は男をじっと見る。離せとか、誰だと思っているとかかなり文句を言って激しく抵抗している。本当にこんな人知らない。映しの湖でもみたことない。そもそも生きているのか?そう思う程の体温だ、体温が低いとかそんなものじゃない。冷たいのだ。
そんな男にノワールが近づいていく。手には何処から取り出したのか剣を持っている。
「答えろ、お前は誰だ?何故主様を狙った?」
首元に剣を突きつけながら尋問する。ディアルマも背中に爪を突き立てて無言で答えを言わせようとしている。
「ふんっ何故答えなければならない!」
男はそんな状況にも関わらず、もっと激しく抵抗し始めた。ディアルマの爪が食い込んで服を裂いていく。ノワールの突きつけた剣も首を掠めて血が…出ていない…?
「何故…血が出ないの…?」
思わず声にでた。男がこちらを向いて自慢するかのように声をあげた。
「血など出るものか!私は人間などという矮小な存在ではない!!お前のような下等生物と一緒にするな!!」
勝ち誇ったように言われるが、意味がわからない。血が出ないことと、冷たいこと以外は人間にしか見えない。
「主様、こいつはアンデットです。それも魔法で造られたもののようですね」
ノワールが剣を突きつけながら私の疑問に答える。アンデット…?
「アンデットは簡単に言えば死体だ。死体に魂が宿り、動き出したもの。普通は自然発生するんだが…お前誰に造られた?」
「誰が教えるか!!獣風情が生意気な!!」
暴言を吐かれたディアルマがもっと爪を食い込ませる。アンデットといえど流石に痛かったのか、悲鳴を上げている。
「ディアルマ、もういい。聞くだけ無駄だったのだ。無理矢理吐かせる」
ノワールが茨を男の口に持っていく。男は必死に顔を背けているが、ディアルマに押さえつけられているのであまり動けていない。
「お前ら!こんなことをしてただですむと…ムグゥッ」
男が怒鳴ったタイミングで上手く茨を口に突っ込んだ。突っ込まれた男は抵抗していたが、次第に大人しくなる。
ノワールが茨を抜いた時には目は虚になり、体からは力が抜けていた。
「答えろ。お前はなんだ?どうしてアンデットになった?何故この森に来た?」
ノワールが聞けばあんなに抵抗していたにも関わらず男は素直に口を割った。
「俺はジュベール・アキュリスタ。ある男に、手足になることを条件にアンデットにしてもらった。その男に死の森にいる女を殺してこいと言われた」
シュベール…?確か王様と皇女様を呪った魔力の持ち主だったはすだ。それにある男…?私を殺してこい…?
「ほぅ。その男とは?」
「それは…」
男…シュベールが答えようとした時だった。
「うっ」
急に苦しみ出した。目を見開いてガクガクと震えている。
「どうした?男とは誰だ!?」
ノワールが激しい口調で問いただす。でもシュベールには答える余裕はない。力の抜けていた体には力が入り、押さえつけていたディアルマと、尋問していたノワールを払い除けていく。
「クソッ何処にそんな力が!」
「待てディアルマ!!様子がおかしいぞ…」
私達はしてシュベールから目を逸せない。なんだかとんでもないことが起きているような気がする。
「主様、結界を張って下さい。今張っているものより強いものを」
ノワールがシュベールから目を逸らすことなく言う。言われた通り、今の私が張れる最大強度の結界を張って私達を包み込んだ。その時だった。
「グァァァァァァァァァッ」
シュベールの体から黒いモヤのようなものが出てくる。全身から出ており、それが激痛なのだろう。断末魔の悲鳴を上げる。すぐにノワールが私の耳を塞ぎ、自分の体で私を包み込む。ディアルマは私の張っている結界の外に結界を張り、もっと強度を高めていく。
シュベールの体から溢れるモヤは止まることを知らないのかどんどん出てくる。私達の周りは結界で守られているが、シュベールの周りはそうではない。黒いモヤに包まれて次第に見えなくなっていく。
どれくらいの時間が経ったのだろう。一瞬だったのかもしれないが、体感的にはとても長かった。
黒いモヤが収まり、断末魔の悲鳴が聞こえなくなった。ノワールが私の体をそっと離し、周囲の状況確認をしていく。が…シュベールの姿はない。着ていた服だけがある状態で体がないのだ。
「一体何処に…?」
私が呟くと、その呟きに反応したディアルマが迷いながら口を開く。
「主…あいつは何処かに消えたのではない。溶けたんだ」
「溶けた??」
人の体ってそんな簡単に溶けるものでしたっけ?
「黒いモヤが溢れ出すのと同じく、溢れ出れば出る程にあいつの体は溶けていった。体は溶け、残ったのは服だけだ…」
ディアルマがそう説明してくれるが、信じられない。いや、ディアルマが言うのだから本当だとは思うが、訳がわからない。溶けた?じゃああのモヤはなんだというのだろう。アンデットにした人が、名前を出されるのを恐れてシュベールを消したの?それにしたって酷すぎる。
ディアルマが慰めるように擦り寄ってくれるが、体の震えが治らない。
「主様…大丈夫ですよ。さぁ…帰りましょう?」
ノワールが頭を撫でて私の手を引く。引かれるがままに歩き出そうとして足を止める。誰かに呼ばれているような気がしたのだ。耳を澄ますとやっぱり聞こえてくる。私の名前を必死に呼ぶ人の声。
「セーレッ!!!」
どうして貴方が此処にいるんですか…?
レンルナードさん…
応援ありがとうございます!
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