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海の王国
遠すぎませんか…?
しおりを挟む「ぜぇ…はぁ…」
「あ、主様…大丈夫ですか…?」
「だ、大丈夫じゃ…な…い」
私達はダウジングに従って進んでいたのだが、一向に目的の竪琴のある場所まで着かない。だいぶ歩いているからもう息がきれている。本当に疲れた、歩いても歩いても代わり映えしない風景。魚達が気持ちよさそうに泳いでいるこの景色は綺麗だとは思うが、こうも続くと飽きてくる。ダウジングの反応も歩き始めた時と変わらないし…
「ちょ、ちょっと休憩…」
そう言って近くにあった岩場に座り込む。シャボン玉に包まれているから実際に座っている感じはあまりしないが、それでも気は楽だ。
私が休憩をしたいと言ったから二人も一緒に休憩をしてくれる。流石の二人も私程じゃないにしろ疲れたらしい。座って一息ついている。
「それにしても、一体竪琴は何処にあるんだ?出発からかなり歩いているが、全くダウジングに変化がないぞ」
ディアルマがうんざりしたように言う。気持ちはよく分かる。こうもダウジングに変化がないと壊れているのでは?とさえ思ってしまう。
「一体何処に消えたのだろうな…しかしかなり歩いたのに全く変化がないとはどういうことなのだ?もっと先にあるということなのか?」
「それか海流にのって別の遠い海へ行ってしまったか…だな。これだとかなり厄介だぞ。どの海流にのったのか分からない以上探しようがない」
二人がどうするかの話し合いをしているのを聞いていると、何か音がする。何かが水を切るような音だ。急いで二人に知らせようとしたらどうやらもう気付いていたようだ。
「主、何か来る!その岩場に隠れるぞ!」
ディアルマの言葉に従い、急いで隠れる。幸いこの岩場は隠れられる所が沢山ある。その一つに隠れて様子を伺うことにした。二人とも程近い岩陰に身を潜められたようだ。
じっと息を殺して隠れていたら、遂に音の正体が姿を現した。それは、漆黒の魚のような鱗に包まれヒレのある下半身に、上半身は人間の女性の姿をした人魚だった。黒く長い髪が海藻のようにゆらゆら揺れていて、ギザギザで銅色の王冠のような物をつけている。顔は老婆のようにシワが刻まれており、若々しいとはお世辞にも言えない。ヒレがトゲトゲしていて触ったらとても痛そうだ。身につけている黒いマントの性なのか、まるで闇のような人魚だった。
「ふふふっもう少しで計画が完成する…そうすればあの王国は私の物…!あぁ!楽しみだわ…セルスティーナ、待っていなさい。もう少しでお前を地獄に叩き落としてやるわ!!」
嗄れた声で呟きながら人魚は何かをしている。私の隠れている場所からだと見えないが、何かを置いているのかゴトンッという音が聞こえてくる。
「ふぅ…出来たわ。これでやっと…!うふふ、ふふふふ…」
準備とやらが出来たのか、不気味に笑いながら去って行く。念の為、音が聞こえなくなってもその場から動かない。また戻ってくるかもしれないからだ。二人も同じ考えなのか全く動かない。それにしても、あの人魚が言っていた王国とはなんだろうか?私は考えながら息を潜め隠れ続けた。
どれくらい隠れ続けただろう。ずっとじっとしていたノワールが動き出した。辺りの確認をしてくれているらしい。
「主様、もう大丈夫ですよ。辺りを確認しましたが、もう生体反応はありません。出てきてください」
ノワールがそう声をかけてくるので恐る恐る隠れていたら場所から出る。ゆっくり、静かに、なるべく音を立てないように心がけながらノワールの元へと急ぐ。ディアルマもノワールの近くに無事に来れた。
「二人とも無事で良かった!!あの人魚は何だったの?」
私が聞くと二人が迷いながら答える。
「主様もご無事で何よりで御座います。あの人魚ですが、あれからは闇の魔力を感じました。良くないものなのは確実でしょう」
「あぁ俺も感じた。奴は王国とやらを手に入れたいらしいが、セルスティーナという奴が邪魔みたいだな。だから消そうとしているようだ。此処に置いていったのもその類の物だろう。しかし…マズイことになったな」
「あぁ…そうだな」
「何がマズイの…?」
二人の言葉の表情からして、良いことでないのは確実だ。だからどれくらいマズイのか知っておきたい。心の準備は大事だ。
「主、神の竪琴はおそらくその王国にある。国宝のような扱いで国に保管されているんだと思うんだ。神の竪琴は文字通り神が使う物だ。となれば、当然清らかな気で満ちている。清らかな気は悪しきものを寄せ付けない。国を悪しきものから守るにはうってつけだ。そんな便利な物を放っておくとは思えない」
「それに人魚は歌うことを好むと聞きます。音楽が好きな種族だと。そんな種族が楽器を拾って何もしないなんて考えにくいかと」
「じゃあ…神の竪琴は今その王国にあるかもしれないんだね。でも、その王国は何処にあるの?」
それが分からなければ大変だ。一から探さなければならないし、あの人魚よりも先に行かなければ王国ごと竪琴も壊れてしまうかもしれない。
「申し訳ありません。深い海の底にあることくらいしか…」
ノワールは申し訳なさそうに私に告げ、次にディアルマを見る。なにか知っていないかと視線が語る。
「すまないが、俺もその程度の知識しかない。海の中に来ようなんて考えたこともなかったからな。深く聞いたことがないんだ」
ディアルマもよく知らないらしい。首を横に振る。
「二人が分からないなら、頼みの綱はこのダウジングだね…」
そう言って私の手の中にあるダウジングを見る。今までのことを考えると不安しかない。
私達は不安を抱えながらダウジングが示す場所まで急いだ。
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