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海の王国
いや無理です
しおりを挟む見渡す限り海。陸らしきものなんて何処にもない。大陸のような大きな陸地もなければ、島のような小さな陸地もない。地球でいう太平洋のような広さだ。
「どうすんですか!海に落としたなんて…信じられないですよ!海流に流されて何処まで行ったかなんて誰にも分かんないんですよ?というか…これ…水深何mなんですか?」
何千mもあるとか言わないでほしい。もしも竪琴が底まで沈んでいた場合取るのが絶望的に難しくなるから!!
「ご、ごめん…何mか…分からない…」
「はい?」
分からない??
「そ、その…深すぎるんだ。地球のマリアナ海溝程は深くないと思うんだけど…」
「あの、ルトラス様?マリアナ海溝ってどれくらい深いかご存知ですか?」
「えっと…数千…とか?」
「違います。私がいた頃は水面下10911mが最新の情報でした。さてルトラス様?もしもですよ?落ちた竪琴が海の底まで落ちていたとして…どう取るおつもりですか?マリアナ海溝程は深くないとしても、深すぎるということは少なくとも簡単に取ることは出来ないでしょう。どうするんです?」
私がマリアナ海溝の深さを言った途端ルトラス様の顔色が青ざめていく。そんなに深いとは思いもよらなかったんだろう。
「主神ルトラス様…流石に何の策もなく、この広く深い海から竪琴を探すのは困難かと…」
ノワールが恐る恐る言う。
「俺もノワールの意見に賛成です。この広い海で竪琴を見つけるのは…かなり困難かと存じます」
ディアルマも言いにくそうだが、言っていく。これに関しては私も二人に同意する。人間に出来る枠を超えている気がする…
私達に意見を言われ、俯いて悩んでいたルトラス様が思いついた!と言わんばかりに顔を上げる。なんだか嫌な予感が…
「そうだ!僕が魔法を君達にかけるから、それで探してきてもらえばいいんだ!!」
「魔法って、何の魔法ですか?」
「水の中でも呼吸できて、濡れない魔法だよ!泳ぐこともできるし、歩くこともできるようにしとけば探しやすいよねっ☆」
言うが早いかルトラス様はすぐに魔法をかける。金色の光に包まれていき、光が消えた時には私達はシャボン玉の中にいた。これでどうしろと!!
「いやいやルトラス様!これでどうしろって言うんです?こんなに広くて深い海なのに、私達だけで探せるわけないじゃないですか!!」
「心配いらないよ!これも一緒に渡すから☆」
そう言って渡されたのは、ダウジングだった。細い金属だ。だからこれでどうしろと!?
「そのダウジングが竪琴の場所を教えてくれるはずさっ☆近くまで行かなくても、水の中に入れば反応するはずだからね~!近くにあればもっと強く反応するから、分かりやすいでしょ?☆」
「そういう問題じゃないです!ものすごく深くにあったらどうするんですか!?水圧で潰れて死にますよ!?」
「主神ルトラス様無茶で御座います!!いくら授けてくださったダウジングあっても、この海の広さの前ではどれ程役に立つか分かりかねますよ!?」
「それにこの海の海流は、複雑に入り組んでいます。竪琴がどの海流に流されたかも分からないのに不可能ですよ!」
三人で必死にルトラス様に考え直してもらおうと言い募るが、ルトラス様は曲げない。
「だってこれしか方法がないんだもんっ!!神の息吹が復活されてない状況で僕が大きな魔法を使うわけにもいかないし!!だから頑張って☆
じ、じゃあ僕帰るね~後はヨロシクッ☆」
曲げるどころか帰ろうとしている。
「ちょ、ちょっと待って下さい!!今帰られたら困ります!!」
「主神ルトラス様考え直して下さいませっ!他の方法を考えましょう!!」
「そもそも竪琴がどんな物なのかも存じ上げてないのに探すなんて無理です!!せめてどんな物なのか教えて下さい!!」
必死に引き留めるが、ルトラス様は聞こえないと言わんばかりに転移しようとする。
待って!と掴もうとしたその時、完全にルトラス様の姿が消えた。行ってしまった……
「い、行っちゃった…」
呆然としながら言うしかない。もうルトラス様を連れ戻すこともできない。竪琴がどんな見た目なのかも知らないのに…無茶苦茶だ。
「あ、主様…お気持ちは重々承知致しますが…もうやるしかないかと…」
「そうだな…そのダウジングを信じよう。もしかしたらすぐに分かるかもしれない」
二人ともものすごく疲れた顔をしながら言う。二人の言う通り、やるしかない。竪琴が見つからなければ何も始まらないのだ。
「そうだね…じゃあ行こうか。壊れてないといいけど…」
「主、それは言わない約束だ…」
ディアルマが顔を引きつらせながらながら言う。ノワールは顔色がとても悪い。もう倒れるのではないかと思うほどだ。まぁ私の顔色も大差ないだろうけど。
「ごめんね二人とも。さぁ、行こっか!!」
この暗い気持ちを吹き飛ばそうと明るく言ってみた。が、全く気持ちは明るくならない。本当に何でこんなことに…
「ていうか…どうやって海に入ればいいの…?」
水面付近まで来て、はたと気づいた。今の私達はシャボン玉に包まれている。何度も触っているが、割れる気配がない。一体どうすれば…?
「主様、このまま入ってみましょう。どうなるか分かりませんが、おそらくこのまま入れるかと」
そう言って先ずはノワールが、シャボン玉に入ったまま水面に近づいて行く。水面がシャボン玉の底に触れるギリギリの所まで行って、そのまま水中にスポンッと吸い込まれていく。
「は、入っちゃった…」
暫く待ってみるが、浮かび上がってくる感じはしない。このまま行けると言うことなのだろうか…
「主、ノワールが浮かび上がってこないところを見るに大丈夫なんだろう。息ができないとか、そういうことがあれば戻ってくるだろうしな。一緒に行こう」
ディアルマはそう言って水面近くまで進んでいく。私もディアルマを追いかけるようにして水面近くまで来たが、かなり怖い。もともと私は泳ぎが得意じゃないのだ。何かあったらどうしようかと不安になる。
あ、駄目だ。これ以上グズグズしてたら行けなくなってしまう。
「よ、よし!行くよ!!」
そう声をかけてえいやっ!とシャボン玉の底を押す。すると水中にみるみる内に吸い込まれてしまった。思わず目を瞑り、体を固くする。
ゴボゴボゴボゴボ
水中に入る時にする、独特の音が耳に入る。やがてその音は聞こえなくなり、私の周りが急に静かになった。
「主様、大丈夫ですよ。目を開けて下さいませ」
静かになった周囲にノワールの声が響く。ノワールの声に従って目を開けてみると、そこには幻想的な風景が広がっていた。辺り一面にサンゴ礁が広がり、色鮮やかな魚達がたくさんいる。テレビでみた南国の海そのものだ。
「わぁ…!綺麗…!」
「そうだな。とても美しい」
いつのまにかディアルマが隣にいた。どうやら無事に来れたようだ。
綺麗な海の風景に見惚れていると、ダウジングが反応し始めた。
「ダウジングが動き出した!」
「そうですね。どうやら…右を示しているようです」
「右か…何があるのか全く分からないな。主、先程も言ったように、この海の海流は複雑だ。誤って違うところに行けば大変なことになる。気をつけてほしい」
「うん、分かった。気をつけるね。じゃあ…右に向かって行こう!」
そう言って歩き出す。海の中で歩くという表現は多分間違っているのだろうけれど、実際シャボン玉の中で歩いている。息も苦しくない。これがルトラス様の言っていた魔法の効果なんだろう。
ダウジングに従って、私達は竪琴を探し始めた。
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