人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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海の王国

謁見です…

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 帰りたくなっている私を置いて扉が開いていく。触ってもいないのに、ゆっくりと開いたのだ。もう…いやだ…
 
「失礼いたします。王国騎士第一部隊隊長 フェスル参りました。謁見の機会を頂きまして、誠に有難う御座います。本日は地上からの御客人を連れて参りました。此度の魔物襲来を一緒に乗り越えて下さった方々です」

 扉が開き、一歩室内に踏み出した所で、フェスルさんが頭を下げる。まだ御前ではないのだが、ここで言うのがこの国のルールなんだろう。私達もそれに倣って頭を下げた。
 
「フェスル、顔を上げて下さい。魔物の襲来から我が国を守ってくれてありがとう。御客人と共に此方へ」

 それはまるでハープのような澄み渡る声だった。何処までも響いていけそうな綺麗な声。
 その声に従ってフェスルさんが泳ぎ出す。私達も後ろにつくようにして移動する。
 扉から玉座にかけて武器を持った人魚達が並んでいるが、荘厳な風景だ。目を見開いて驚いているものの、誰も声には出さない。部屋の中の柱には、見たことのない装飾が施されている。何かの文字なのか、模様なのかも分からないが、とっても綺麗だ。玉座に向かう途中には絨毯のような物が引かれており、まるで神話のような絵が描かれていた。天井はステンドグラスのようになっており、光が差し込んでいる。
 しかし…何処を見ても地上とは違う。水で満ちているのは勿論なのだが、置かれている調度品だったり、模様だったりどれも見たことないものばかりだ。ちなみに景色を見ているから余裕があるとか、そういうことでは決してない。最大限の現実逃避の結果だ。もうガン見され過ぎて嫌だ。動物園のパンダはきっとこんな気分に違いない。あんなにガン見してごめんなさい、パンダ。今なら心から言える。




 
 そうこうしているうちに女王陛下の前に着いたらしい。フェスルさんが女王陛下の前に正座のような形で座ったので真似をする。人魚って正座出来たんだ…
 女王陛下…セルスティーナ様は長くて真っ直ぐなプラチナブロンドの髪に、海のような深い青の瞳をしている女性だった。まるで女神のように綺麗な人魚で、頭には金色の王冠をのせている。鱗の色は純白で、ステンドグラスから差し込む光を浴びて、キラキラしている。此処に来るまでに人魚を何人か見たが、純白の鱗をしていたのはセルスティー様だけだった。セルスティーナ様は真珠貝をもっと大きくしたような貝に腰掛けている。

「フェスル、改めてお礼を言わせて下さい。我が国を守ってくれて本当にありがとう。怪我はありませんか?」

「女王陛下のお言葉、有難う御座います。私の部隊の者達はいずれも軽傷、私は此方におられるセーレ殿に治して頂きました」

 そうフェスルさんが言うとセルスティーナ様の目が此方に向く。ゆったりと瞬きをしながら微笑んだ。

「そうでしたか。地上からの御客人、我が国の者を治して下さりありがとうございます」

 ゆっくりと優雅に頭を下げた。頭を下げた!?

「い、いえいえいえ!頭を上げて下さい!!わ、私達は大丈夫ですから!!」

 自分で言っといて何が大丈夫なのかは分からないが、急いで頭を上げてもらう。一国の主に頭を下げさせるなんてこちらの心臓に悪い。

「ふふふっありがとう。優しいのですね…
フェスル。状況を教えて下さい。何故魔物が来たのか、故意的に来たなら誰が来させたのかなどを詳しく」

 最初の言葉は私に向けて穏やかに、フェスルさんに呼びかけた時は厳しさを感じさせる口調だった。女王らしく凛として迷いのない声だ。

「はっかしこまりました。魔物は黒の人魚が呼び寄せて配下にしていたものでした。この国に攻めるように集めたようです。数が多いだけでなく、強い魔物もおりまして苦戦していたところをこちらの方々に助けられたのです」

「黒い人魚というと…」

「洞窟に住む魔女で間違い無いかと」

「そうですか…」

 そう言ってセルスティーナ様は考え込む。暫く考えたところで次の質問をしてきた。





「ではこちらの方々は?何故地上の方がこの国にやっていらっしゃったのです?」

「それは…」

 フェスルさんが答えようとしたが、返答に詰まる。詳しい事情を話しているわけではないのだ。そりゃ答えられないだろう。ノワールに目配せをして、説明してもらえるように頼むと頷いてくれた。

「それは私達の方から説明しても?」

「えぇ。お願いします」

「有難う御座います。私達は、この海に神の竪琴を探しにやって参りました。このダウジングと呼ばれる物を使うと、神の竪琴の場所が分かるのです。これに従って、王国までたどり着きました。どうやって入るかを検討していた所に、あの黒い人魚が魔物を引き連れて現れたのです」

「神の竪琴…?何故必要なのですか?」

「申し訳ありませんが、詳しくは言えません。神との盟約が約束が御座いますので…」

 ノワールが説明をしていくとまたセルスティーナ様は考え込む。どうするのか最前なのか検討しているのだろうか?それにしても…部屋の中にいる武器を持った兵士?達は全く動かない。なんだか置き物みたいだ。
 そんなどうでもいいことを考えている時だった。セルスティーナ様が口を開く。

「貴方方の事情は分かりました。神の竪琴を使わなければならない時がきている。が、神の竪琴の場所が分からず探していた所、この国にダウジングによって導かれ、その時に襲撃が起きた。これで間違いないですか?」

「はい。間違いございません。どうか神の竪琴を頂けませんか?」

 ノワールが聞くが、セルスティーナ様が申し訳なさそうに首を横に振る。

「申し訳ありませんが…できません。あれは国宝。国宝を何もしていない方に差し上げると、民に示しがつかないのです」

「では、何をしたら下さいますか?」

 思わず口を挟んでしまった。一気に視線が私のところへくる。慌てて俯いたが、視線の矢がブスブスと刺さっている…

「そうですね…では、フェストと共に黒い人魚の所へ行ってきて頂けますか?」


………はい??
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