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海の王国
会いにいけと…?
しおりを挟むうん?今何とおっしゃいました?私の空耳でなければ、フェスルさんと共に黒の人魚の所へ行けと言いましたか?いやいや、まさかそんな…ね?そんなこと言われるはず…
「フェスルと共に黒の人魚に会ってきて頂きたいのです。お願いできますか?」
空耳じゃなかったらしい。キッパリハッキリ言われた。
「会いに行くだけで宜しいんですか?」
ノワール!何で会いに行くだけなら簡単みたいな顔して聞くの!?簡単じゃないから!全然簡単じゃないから!!
「はい。会って来て何故こんなことを繰り返すのか聞いてきて頂きたいのです。あの魔女は昔から同じことを繰り返して来ました。でも私達が出向くといつも追い返すだけで、何も言ってはくれない。ですが、海の世界と関係のない貴方達なら、何か聞けるかもしれません。お願いします。魔女の考えを聞いてきて下さい」
…会うだけじゃなかった。ものすごく大変なことを頼まれている。会いに行くだけではなく、話をして何故こんなことをするのか聞いてほしい?なんて無茶振りだ。フェスルさんも突然言われて困っている。
「恐れながら女王陛下…あの魔女が話を聞くとは思えません。何度も話し合いの為騎士を送りましたが、無事に帰ってきた者はいません。それに…地上の者を送ってもし何かあれば大変なことになりかねません」
あの人魚そんなに危険なのか…無事に帰ってきた者はいないって何をしたの…?
「分かっています…でも、これ以上被害を出すわけにはいきません。だから.…どうかお願いします。行ってきて頂けたら神の竪琴をお渡しすると約束致します」
そう言ってセルスティーナ様は、怖いくらいに私達を一途に見つめる。まるで他のことは目に入っていないというかのような一途さだ。
はっきりいってあの黒い人魚に会いに行くのは嫌だ。だってあんなに魔物を従えて王国を執拗に攻めていたのだ、誰だってそんな人のいる所には行きたくないだろう。
でも…行かなければ神の竪琴は手に入らない。なら行くしかないだろう…本当に嫌だが。二人を見ると行っても良いと頷いてくれる。本当に頼もしい。
「かしこまりました。フェスルさんと共に黒の人魚に会いに行って参ります。帰ってきたら竪琴を下さいませ」
ノワールが代表して了承すれば、セルスティーナ様の表情は一気に綻んでいく。張り詰めていたのが、目に目えて柔らかく変化していった。どうやら安心されたようだ。
「はい。必ずお渡ししましょう。本当にありがとう、フェスル皆さんを頼みましたよ」
「御意。皆さんを無事に黒の人魚の元まで導き、この国に帰還致します」
フェスルさんが深く頭を下げて拝命する。はぁ…行きたくない…
「こんなことになってしまってすまない。お前達は無事に、地上に帰してみせるから心配しないでくれ」
お城から出てその足で国を出た所でそう言われた。
「はい。有難う御座います。私達は大丈夫ですよ、そう簡単にやられはしませんから。して黒の人魚は何処にいるんです?」
「ふっ頼もしいな。黒の人魚は此処からずっと東の方へ進んだ所だ。幾つか海流を乗り継がなければ辿り着けない。しっかりついてきてくれ」
そう言ってフェスルさんは泳ぎ出す。えぇ…海流を乗り継ぐんですか…?この王国に来るまでに散々海流には乗ったが、本当に大変なのだ。出るのも入るのも一苦労で、なるべく乗りたくないな~なんて思っていたのに。
「主様、大丈夫ですよ。海流に乗る時はお助けしますから」
「あぁ。万が一別の場所に流されても一人にしないから大丈夫だ」
二人が励ましてくれる。ディアルマは自分の頭で私の背中を押し、ノワールは私の手をとってフェスルさんを追いかけ始めた。はぁぁ…こうなったらもう逃げられない…私は諦めて二人に身を任せた。
王国を出てからどれくらい経っただろう。黒の人魚が住む洞窟の近くまで来た。フェスルさんの言う通りに海流を乗り継いできたが、それでもかなり時間がかかったように思う。そして王国からだいぶ離れた場所のようだ。王国内はサンゴがあったり、魚が泳いでいたりしたが、此処にはサンゴは無く魚もいない。ゴツゴツとした岩場が広がっているだけだ。魚が水を切って泳ぐ音もしない為、辺りは静寂に包まれている。
「此処が黒の人魚のいる洞窟ですか?」
「そうだ。間違いなく此処だ。あれが見えるか?」
フェスルさんが指を指している方向を見ると、何が点滅していた。禍々しい赤の光がピカピカしている。
「あれに見つかると黒の人魚に気づかれるんだ。今回の目的はあの人魚と会って話すことだから、見つかるのが良いのかもしれないが、あれに見つかると魔物が出てくる。それもかなり強い魔物だ。用心した方がいい」
成る程、魔物が番犬代わりなのか。強い魔物…か。このまま真正面から行くのがいいのか、それとも何か方法を考えた方がいいのか…
「主様、どう致しましょう?このまま行きますか?」
「う~ん…まずは内部を探ってみてくれないかな?罠とかあるかもしれないし。二人ともお願いしていい?」
そう聞くと二人とも心得たと頷いてくれた。
「了解した。少し待っていてくれ」
「かしこまりました主様。では暫しお待ちを」
二人とも目を閉じて集中していく。私はこの間に襲われないように警戒しておこう。フェスルさんは何がなんやらといった様子だが、ひとまず従うことにしたようで、大人しく私と警戒をしてくれている。
探ってくれているから、その結果を元にどうするか考えよう。なるべく魔物が沢山いたりとかしませんように…
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