61 / 99
海の王国
戦闘 2
しおりを挟む「来たか」
フェスルさんが武器を構えながら言う。さっきまでとはまるで違う雰囲気だ。
「もうすぐ来る。セーレも戦いの準備をした方が良い」
「は、はい…!」
フェスルさんに言われて、慌てて準備にとりかかる。私は武器を扱うことができないから魔法しか使わない。フェスルさんに防御結界を張り、わたしの周りに攻撃魔法を展開させておく。魔力さえ込めればいつでも発動できる状態だ。あんまり攻撃魔法は得意じゃないけど…やらなくては。早く黒の人魚に会わないといけない。
準備を終えて後は来るのを待つだけになった時、ノワールとディアルマが駆けて来た。後ろに魔物を引きつけたままだ。どうやら上手くいったらしい。
「主様!お待たせいたしました。魔物共はあれで全部です」
「半分以上倒してある。後はあいつらを倒せば終わりだ」
「ノワール、ディアルマありがとう!疲れたでしょう?ゆっくり休んで」
二人の頭を撫でて、二人を庇うように前に出る。普段は守ってもらう側だが、今日は別だ。お世辞にも良いとは言えない性格をしている私にだって意地がある。今やらなれば!
「ノワール、ディアルマは後ろにいてね。
フェスルさん私が魔法で攻撃をするので、倒し損ねた魔物を宜しくお願いします!」
こんなにハキハキと指示をしたのは初めてだ。しかもよく知らない人に。これは進歩だ。頑張れ私!!やれば出来るよ!!
……これだけ必死に鼓舞しなければ逃げそうになる私って…いやいや今は考えない。考えてはいけない。
「分かった!後は任せろ!必ず仕留める!!」
「あ、有難う…御座いますフェスルさん…!」
「かしこまりました、主様。サポートさせて頂きます」
「充分怪我には気を付けてほしい。主、何があっても必ず助けるから心配はいらない。思いっきりやればいい」
「ありがとう…!うん頑張るね!」
皆が私の拙い作戦にのってくれる。それだけじゃなくて、優しい言葉もかけてくれる。それがとても嬉しい。苦手とか言ってる場合じゃない。やらなくちゃ。せっかくルトラス様に魔法を使えるようにしてもらったんだ。それに…こんな所で躓いていてはダンタリオンを大切な人に会わせることなんてできない。
そんなことを考えていたら魔物が近くまで迫っていた。射程距離内に入っている。
「ふぅ…よし、行きます!」
そう宣言してから私は攻撃を開始した。風の魔法で竜巻を起こして魔物に向けて放つ。海水を巻き込み大きな渦潮になって、魔物をどんどん飲み込んでいく。逃げようと必死に泳いでいるが、渦潮の勢いが凄すぎてみるみる内に吸い込まれていて逃げられていない。
そして、その渦潮ごと闇の魔法で包み込んだ。闇は、何でも飲み込むことが出来る。飲み込まれた者は消え去る。そういう魔法だ。滅多に使うことはないが、今日は最適な魔法だと思う。水の中では使える魔法がどうしても限られてしまうから、一度に消そうと思うとこれが一番だ。よし、渦潮は消えた。でもまだ少し魔物が残ってしまっている。
「フェスルさん!後はお願いします」
そう言って振り返ると、フェスルさんは口をポカーンと開けて茫然としていた。放心状態だ。な、何があったんですか!?
「主様、お任せ下さいませ。私達が倒させて頂きます」
放心状態のフェスルさんを置いて、二人が前に躍り出る。残った魔物達は、仲間が次々と倒されたからか逃げ出そうとしている。だが、それを許す二人ではなかった。あっという間に追いつき、逃げ出そうしている魔物に止めをさした。
「主、魔物は全て倒したぞ。あの魔法凄かったな、練習の成果がよく出ていた。魔力の扱いが上手くなっていて凄い」
「ありがとうディアルマ!ディアルマも凄いね、魔物をあんなに早く倒しちゃうなんて、本当に凄いよ!」
魔物を倒し終え、私の所へ一目散に戻ってきたディアルマは、私を褒めてくれた。その見事なモフモフした体を、
私に擦り付けてくれる。あぁ癒しだ…!スリスリしてくれているディアルマ可愛い…!
「主様、お見事で御座います。あの規模の魔法を制御出来るようになられましたこと、このノワール本当に嬉しく思います」
「ノワールありがとう!ノワールも凄いね。ディアルマと協力して倒してたの、本当に凄い!」
ノワールは私の所へ来ると、柔らかく頭を撫でてくれる。優しく微笑んで撫でられる。これが落ち着くのだ。この世界に来た時から、こうやって撫でられると落ち着く。それが分かっているからノワールは事あるごとに私の頭を撫でてくれるのだ。自然と顔が綻ぶ。
「あ、そうだ。フェスルさんは…?」
放心状態から回復出来たかな…?
「まだ固まってますよ。起こして参りますので少々お待ち下さい」
そう言い残して、ノワールはフェスルさんの近くへ行く。何をするのかと思って見ていたら、ノワールがフェスルさんの頭を叩いたのだ。それもかなり勢いよく。スパァンという音が響き渡る。いやちょっと待って!?
「ちょ、ちょっとノワールッ!そんな、叩いちゃダメだよ!」
「大丈夫ですよ主様。人魚族は頑丈らしいですから」
「いやそういうことじゃなくて!!」
頑丈だとかそういう問題ではないと思う…
「痛っ…ノワールッ!急に何するんだ!!」
あぁほら…フェスルさんが怒り出してしまった…
「放心状態から起こして差し上げただけですが?残った魔物は任せろと言っていたくせに、主様の攻撃を見て放心状態になり、まるで役に立たなかった貴方を起こして差し上げたんです。お礼を言われたいくらいですね」
…うわ…ノワール容赦ない…
「クッ…それは…すまなかった。起こしてくれて助かった。魔物は…倒してくれたのか?」
「えぇ。全て倒し終えました。後は洞窟の中にいる魔物だけですよ」
「そ、そうか…本当にすまなかった。セーレも…後は任せろと言っておきながら、全く役に立てずすまない…」
私の方へ深く頭を下げるフェスルさんの表情は暗い。何故だが落ち込んでいるようだ。そ、そんなに放心状態になったのショックでした…?
「い、いえいえ!だ、大丈夫…です。そ、そそそそんなことより、早く中に入りませんか…?」
「あ、あぁ。そうだな、中に入ろう。今度こそ助けてみせるから」
そう言ってフェスルさんは私に向けて微笑んだ。な、なんかフェスルさんの後ろに薔薇が見えるような…そう思って見ていると、ノワールに手を引かれた。
「さぁ主様!洞窟内に向かいましょうか。何があっても私とディアルマがお助け致しますよ」
「そうだな。主、俺達が助ける。だから何も心配いらない」
二人とも…フェスルさんと張り合ってます?ノワールは私の手を引き、洞窟内へエスコートしてくれて、ディアルマは後ろから背中を押してくれている。まるでフェスルさんから私を遠ざけたいかのようだ。
「ま、待てお前達!!俺もいるからな!!」
後ろからフェスルさんが追いかけてくる。そして私の横に並んだのだが、二人が妨害をし始めた。ノワールが私の左手を掴み、ディアルマはフェスルさんを押し除けて、私の右横に並んだ。
「主様の隣は譲れません」
「あぁ。俺達の特権だ」
「そんなもの知るか!場所を代わってくれ!!」
そう言い合いをしている。これから洞窟に入って黒の人魚に会うというのに、緊張感のカケラもない。
ど、どうしてこうなったんでしょう…?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
47
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる