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海の王国
まさかの…
しおりを挟む魔物達を討伐して私達は洞窟内に入った。
入り組んでいるのかと思っていたが、全然だ。一本しか道がない。途中で通った大きな部屋に、魔物達がいたのだそうだ。大きいとはいえ大型の魔物も沢山いたので、ここで戦っていたらかなり狭く感じただろう。此処で戦闘していたのに全く怪我をせず、無傷だった二人はやっぱり凄い…あれだろうか、このルトラス様が作ってくれたシャボン玉が攻撃を防いだのだろうか?だとしたら凄い。流石主神様だ。
「止まれ」
前を泳いでいたフェスルさんが止まる。小さく鋭い声を出して此方を振り返った。
「この先に黒の人魚がいるはずだ。奴は魔女だ。どんな攻撃をしてくるか分からない。充分に警戒してくれ」
そう怖いくらい真剣な表情で言う。何人もの騎士達が怪我をして帰ってきているからだろうか。了承を得られなければ、此処を通さないと目が語る。
「はい」
私達は頷いた。警戒するから大丈夫だという意味を込めて。そんな私達の様子を見て、フェスルさんは安心したようだ。目に見えて表情が柔らかくなった。
「よし…行くぞっ!!」
そう言うが早いか、フェスルさんは猛スピードで泳ぎ出した。今までとは全然違う速さだ。
「えぇっ!?此処で置いてっちゃうんですか!?」
「流石人魚ですね~あの速さ、目を見張るものがあります」
「呑気なこと言ってないで早く追うぞ!!あいつ、かなり気が立ってる。仲間を傷つけられた恨みかもしれんが、俺達は話し合いをしに来たんだ。此処であの黒の人魚を傷つけられるなど、たまったものではない!!」
「フェスルさん傷つける気満々なの!?ま、待ってください!フェスルさーん!!」
ディアルマの言葉を受けて慌ててフェスルさんを追う。此処まで来て傷つけられるなんて本当にたまったものではない。そんなことをすれば、神の竪琴が手に入らなくなる。神の竪琴が手に入らなければ、私達の計画は跡形も無く消え去る。フェスルさん本当に待って!!
「グァァァァァッ!!!!」
「え、えぇぇぇぇ!?フ、フェスルさん!?」
フェスルさんの悲鳴が聞こえた。それもかなり苦しそうだ。まるで何かに締め付けられているような…
「チッ…何をしているんだあいつは!!」
「本当だな…面倒ごとしか起こさないのかあの馬鹿は!」
「ふ、二人とも落ち着いて…!とにかく急がなくちゃ!!」
フェスルさんの悲鳴を聞いて更にスピードを上げる。もう風魔法で追い風を起こしている状況だ。これ以上急ぐことなんて出来ない。それにしても…なかなか黒の人魚がいる部屋に辿り着かない。この洞窟は奥行きがかなり広かったらしい。
「見えてきました!!あれが黒の人魚がいる部屋です!!」
ノワールが声を上げる。見れば暗かった洞窟内に明かりが差し込んでいる場所がある。あそこか!
「フェスルさん!」
「あら…遅かったわね…待ちくたびれちゃったわ」
急いで室内へと入り、フェスルさんの名前を呼んだが、応えたのはフェスルさんではなかった。
あの黒の人魚が応えたのだ。以前岩場で見たあの人魚、王国を襲っていた人魚だ。気怠げに玉座のような椅子に腰掛けて此方を見ている。
「あの騎士…突然押しかけて来て お前を倒す! なんて言うものだから、私の可愛い子が怒っちゃってね…あの状態よ」
そう言って顎をクイッと動かした。動かした方を見る。
「フェスルさんっ!」
思わず叫んでいた。フェスルさんは体長5メートルはありそうな大きなイカのような魔物に囚われて、その足で締め上げられていた。大きな2つの目玉がギョロっとこっちを見る。ギチギチに締められているのだろう、フェスルさんは苦悶の表情を浮かべていた。
「黒の人魚さん、フェスルさんを離してもらえませんか?彼はともかく、私達は戦いに来たわけではないのです」
ノワールが穏やかな口調で言う。すると気怠げにフェスルさんを見ていた黒の人魚が此方を見た。
「そう。お前達は戦いに来たわけではないの。まぁ聞いといてあげるわ。それで?お前達は何?人魚ではなく魔物でもない。じゃあ何なの?」
「私達は地上の生き物ですよ。この海に探し物をしに来たんです。貴方に会いに来たのは、シェルラ王国の女王陛下に言われたからです」
シェルラ王国の女王陛下 そうノワールが言った瞬間、黒の人魚の表情が変わった。気怠げでどうでもいいような顔をしていたのが、一気に憎しみの籠もった表情になる。
「へぇそう…お前達はあのセルスティーナに命令されて来たわけね…ならお前達も敵だっ!!!!」
そう言うや否や黒の人魚は攻撃魔法を繰り出してきた。慌てて避けたので無事だったが…あの魔法は危ない。私達が避けたことで魔法は洞窟の壁に直撃したのだか、壁がジュウ…という音を立てて溶けていった。岩でできた壁が溶けるのだ、生き物なんてひとたまりもない。それにフェスルさんも危ない。あのイカのような魔物が黒の人魚の怒りに呼応しているのだ。何をするつもりかは分からないが、魔力を貯めている。今のフェスルさんには避けることもできないだろう。何とかしなくては
「ディアルマ!フェスルさんを助けて!でも、あの魔物を倒さないように注意してほしいの。お願いできるかな?」
他の魔物は部屋に押し込めていたのにあの魔物だけは自分の近くに置いていたのだ。特別な魔物なのかもしれない。それに…あの魔物も黒の人魚を慕っている気がする。あくまで気がするだけだけど、倒しちゃいけない。
「分かった。それが主の願いなら叶えてみせる。任せてほしい」
「ありがとう!!じゃあお願いね!」
ディアルマは頷いて、すぐさま魔物の元へと向かった。魔物は威嚇の声をあげてディアルマと対峙している。
「ふんっお前達に、私達を倒すことなんてできやしないわ!!!」
「た、倒すつもりなんてないんです…!お願いします、話を聞いてください!」
避けながら必死に声をあげる。だけど全く聞いてくれない。もう気が立っていて此方を殺す気満々だ。
「主様!!黒の人魚さんには落ち着いてもらいましょう!捕まえて、話を聞いてもらいましょう!」
「で、でもそんなことしたら!」
余計に怒ってしまう。そう思ったのだが、ノワールは首を横に振る。
「今のままでは聞いてもらうことなんて出来ません。それに、このまま攻撃を続けて衰弱すれば、黒の人魚が危ないんです。ですから、とにかく落ち着いてもらわなければなりません」
ノワールは真剣だ。たまに冗談も言うが、この顔の時のノワールは冗談なんて言わない。だからそれが最善なのだろう。
「分かった!捕まえるのは任せて!」
「かしこまりました。では私は隙を作ることと致しましょう」
ノワールと役割を確認したところで、すぐさま行動に移す。私は魔法で光の縄を編み上げた。あの人魚が使うのは闇。なら光がよく効くはずだ。しっかりと、目に見えるくらいに頑丈に編み上げたところでノワールを見る。その視線を受けたノワールは魔法を展開した。彼女と同じ、闇の魔法。でもノワールの方が強い。闇はより強い闇に吸い込まれる性質を持っている。だから黒の人魚の闇の魔法は、ノワールの闇の魔法に全て吸い込まれた。
「な、何ですって!?わ…私の闇の魔法が…!吸い込まれた!?そんな馬鹿な!!」
人魚が混乱している。闇の魔法に凄く自信があったのだろう。もう私達のことなんて見ていない。
「今です!!」
この最大の隙を見逃すノワールではない。ここぞとばかりに声をあげる。
「分かった!!」
ノワールの合図で私は光の縄を黒の人魚に向けて放った。気づいた人魚は逃げようとしたが、遅い。光の縄は人魚のヒレに絡みつき、その自由を奪う。動けないところへ更に巻きつきて、完全に簀巻状態だ。
「何をするの!?離しなさい!!クラーケンッ!私を助けなさい!!」
「無駄だ」
助けを求める人魚の声をディアルマが遮る。ディアルマの方を見てみれば、既に魔物を倒し終えていたらしい。あの魔物はクラーケンというのか。私のお願いをちゃんと聞き入れてくれたディアルマは、止めを刺していない。クラーケンは眠っているようだ、寝息を立てている。フェスルさんも無事のようだ。
「ディアルマ、フェスルさんは?」
「骨折をしている。が、命に別状はないよ。回復薬を飲ませればすぐによくなる」
「分かった。ありがとうディアルマ。治療してくるね」
黒の人魚は二人に任せて、私はフェスルさんを治療する。といっても体力回復薬を飲ませるだけだが。上体を起こして、瓶を口の方へ持っていったら何故かは分からないが、自然と口を開いてくれた。なかなか飲ませやすい。
「クッ…私の可愛いクラーケンを眠らせるなんて…貴方達何者なの?」
「ただの地上にいる生き物だ。それより、話を聞いてくれるな?」
自分は縛られて、周りをノワールとディアルマに囲まれている。勝ち目はないと思ったのだろう。話を聞いてくれるな?とディアルマに言われた時、悔しそうにしながら頷いた。
これでやっと話ができる…長かった…
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