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5話 思い出せないもの
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「先輩?」
そうレイシャの発した言葉で、俺ははっと我に返った。
「ん…あぁ、すまん、どうした」
「どうしたんです?なんか凄く悲しそうな顔してましたけど」
俺はハハ、と力なく笑った。
「すまん、ちょっと昔のこと思い出して…な。気にしないでくれ」
必死で駆け抜けた2年間。
辛くないといえば嘘になる…が。
あれを忌まわしき記憶として心の片隅で仕舞っておくには、あまりにも惜しい記憶ばかりだ。
「そうだとしても、あの顔は「鬼気追う」みたいな顔でしたよ。」
「それを言うなら「鬼気迫る」な。…本当に大丈夫なんだ。君が無理に気にする必要はない。」
じわりと、目頭が熱くなったのを悟られぬよう、俺は氷の溶けかかった水を煽った。
レイシャは納得いかないと言わんばかりの顔をしていたが、それ以上追求することは無かった。
俺は無理にでも話題転換をするために、何気なくレイシャに疑問を投げかけた。
「なぁ、君はどうして侍になろうと決意したんだ?」
その言葉を口にした時、レイシャの顔は般若とも呼べるような憤怒に満ちた顔をした。
それと同時に俺の全身が鳥肌を立たせる。
「とある男を、殺すためです」
ぞわり。
その言葉は、酷く静かで、酷くどす黒く人間の本質を写していた。
「殺すため…そうか、つまり君は昇格試験を受けるつもりで居る…そういう判断でいいな?」
昇格試験…
一つ上の級へ上がるために、1~2年に一度行われている試験。
昇格を果たす為には自分よりひとつ上の級の侍の信認と、ひとつ上の級の侍から一本取るぐらいの実力が必要だ。
本来、C級からB級へ上がりたい人はごまんといるが、B級からA級へ上がろうとする人はあまり居ない。
「そう…ですね。早くA級に上がって、やつの頭上に執行届けを叩きつけたいんです…」
…いいじゃないか。
「言い眼だ。…怒りってのは、時に周りを見えなくさせる。それは言い換えれば、何にも変え難い集中力を得るということだ。故に、怒りは人を強くする。だが、怒りと怨みを履き違えるんじゃねぇぞ。」
俺は机から乗り出し、人差し指でレイシャの額スレスレに指を当てた。
彼女は、雷にでも撃たれたかのような顔をしていた。
俺がゆっくりと手を引き、席に座り直すと、先程と変わらぬ表情で額に手を当てていた。
レイシャは、はっとしたように顔を俯かせた。
「…先輩は」
「先輩は、[無力な人間ほど強い生き物はない]って言葉、知ってますか?」
何故だろう。
初めて聞いた筈なのに、懐かしさを感じた言葉だった。
「いや、知らないな」
「とある小説の一遍に出てくる言葉なんですけど、私、その言葉が好きで、一時期同じ小説家が書いた本を買い漁って…時間も忘れて読んだことがあるんですよ。」
俺は徐に水を煽る。
「一番好きなのが■■■先生の、「悪」って本なんですけど…」
その瞬間、俺の記憶は飛んだ。
そうレイシャの発した言葉で、俺ははっと我に返った。
「ん…あぁ、すまん、どうした」
「どうしたんです?なんか凄く悲しそうな顔してましたけど」
俺はハハ、と力なく笑った。
「すまん、ちょっと昔のこと思い出して…な。気にしないでくれ」
必死で駆け抜けた2年間。
辛くないといえば嘘になる…が。
あれを忌まわしき記憶として心の片隅で仕舞っておくには、あまりにも惜しい記憶ばかりだ。
「そうだとしても、あの顔は「鬼気追う」みたいな顔でしたよ。」
「それを言うなら「鬼気迫る」な。…本当に大丈夫なんだ。君が無理に気にする必要はない。」
じわりと、目頭が熱くなったのを悟られぬよう、俺は氷の溶けかかった水を煽った。
レイシャは納得いかないと言わんばかりの顔をしていたが、それ以上追求することは無かった。
俺は無理にでも話題転換をするために、何気なくレイシャに疑問を投げかけた。
「なぁ、君はどうして侍になろうと決意したんだ?」
その言葉を口にした時、レイシャの顔は般若とも呼べるような憤怒に満ちた顔をした。
それと同時に俺の全身が鳥肌を立たせる。
「とある男を、殺すためです」
ぞわり。
その言葉は、酷く静かで、酷くどす黒く人間の本質を写していた。
「殺すため…そうか、つまり君は昇格試験を受けるつもりで居る…そういう判断でいいな?」
昇格試験…
一つ上の級へ上がるために、1~2年に一度行われている試験。
昇格を果たす為には自分よりひとつ上の級の侍の信認と、ひとつ上の級の侍から一本取るぐらいの実力が必要だ。
本来、C級からB級へ上がりたい人はごまんといるが、B級からA級へ上がろうとする人はあまり居ない。
「そう…ですね。早くA級に上がって、やつの頭上に執行届けを叩きつけたいんです…」
…いいじゃないか。
「言い眼だ。…怒りってのは、時に周りを見えなくさせる。それは言い換えれば、何にも変え難い集中力を得るということだ。故に、怒りは人を強くする。だが、怒りと怨みを履き違えるんじゃねぇぞ。」
俺は机から乗り出し、人差し指でレイシャの額スレスレに指を当てた。
彼女は、雷にでも撃たれたかのような顔をしていた。
俺がゆっくりと手を引き、席に座り直すと、先程と変わらぬ表情で額に手を当てていた。
レイシャは、はっとしたように顔を俯かせた。
「…先輩は」
「先輩は、[無力な人間ほど強い生き物はない]って言葉、知ってますか?」
何故だろう。
初めて聞いた筈なのに、懐かしさを感じた言葉だった。
「いや、知らないな」
「とある小説の一遍に出てくる言葉なんですけど、私、その言葉が好きで、一時期同じ小説家が書いた本を買い漁って…時間も忘れて読んだことがあるんですよ。」
俺は徐に水を煽る。
「一番好きなのが■■■先生の、「悪」って本なんですけど…」
その瞬間、俺の記憶は飛んだ。
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