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【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編
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しおりを挟むマルクス君とゼクスの決闘が無効試合になってから数日後。
盗んできた謎の小瓶、もとい魔人薬なる怪しげな薬品を眺め感慨に耽っていた。
ちなみに、一応途中棄権したゼクスの敗北ということで、魔法学院の生徒や関係者は捉えているみたいだけど本懐はそうじゃない。
あの試合、最後までゼクスが怪しげな小瓶に手を出さなければ、試合の行方はまだわからなかったからだ。
マルクス君が負けるとまではいかなくとも、周囲への被害を気にして全力を出せない彼に一撃を入れることくらいはできたはず。
それくらいの力は、魔法の天才と呼ばれるゼクスには備わっていた。
ほんと、この魔人薬を用意した奴にはお灸をすえてやりたいところである。
せっかくの熱いバトルを邪魔してくれたので、お返しとばかりに魔人薬の在庫は全て盗んできたけどもね。
アカシックレコードで確認したら、教会の宝物庫に残り二本転がってたよ。
そこをこう、空間魔法でちょちょいのちょいってね。
「う~む。しかし、惜しい試合じゃったのう」
「うぃ~。ひっく。なのよね~。ひっく」
でもって、現在ツーピーが飲んだくれて酔いつぶれている最中。
羽スライムも心配そうにツーピーの周りをふわふわしているが、安心してくれ、健康上の被害は特にない。
なぜこうなったのかはもうお察しの通り。
一本目の魔人薬を飲み干しテンションの上がってしまったツーピーが、残り二本も俺の手からぶんどり、そのままラッパ飲みしてしまったのである。
ホムンクルスにはちょっと気分がよくなる効果しかないハズなので、処分にはもってこいだったという訳だ。
これが人間だったら魔力が暴走し、一時的な覚醒の果て肉体が耐えきれず破滅するみたいだけどね。
恐ろしい薬品もあったものである。
こんなもの誰がどうやって用意したんだと調べてみたら、これまた教会の上層部が関わっていた。
なんでも、最初は魔族に対抗するために魔核を研究していたが、そのうち魔族の力そのものが欲しくなってしまったらしい。
で、結果的に生まれた試作品がこの魔人薬で、魔族の魔核を錬金術で水に溶かし実験している最中に、偶然生まれた産物だとかなんとか。
いやもう、本当に余計なことしかしないな教会勢力。
聖国もろとも爆発四散してしまえばいいのにと思う今日この頃。
「さて、一番ヤバそうなものは処分したことじゃし……。明日からは久しぶりに、勇者ノアの様子でも見に行くかのう?」
「うぃ~。ひっく。今回もわたちの圧勝なのよね~。ひっく」
ツーピー本人は今日から出発したかったみたいだけど、いまは少しでも酔いを醒ますのが先かな?
まあ、理論上問題ないとはいえこんな劇物を処分してくれたのだ。
その労いも兼ねてしばらく甘やかしてあげよう。
そうこうして酔っているツーピーを抱き起し、フラフラした足取りでベッドに向かう。
くう、この肉体が非力すぎて幼女を運ぶのでさえ一苦労だ。
筋力強化の魔法で一時的に強くなることはできるが、なんか小学校低学年に届くかどうかのツーピーを運ぶのにバフをかけるのは、ちょっと負けた気がするんだよなあ……。
ほら、羽スライムもがんばれってボディを震わせ応援してくれているし、ここは自力で運ぶべきだろう。
……よっこらせっと。
「ふう、ふう、ふう。つ、疲れたわい。……なんだかんだで、今日も平和じゃのう」
「スピー。スピー」
うんうん。
良い寝顔ですこと。
めっちゃ気持ちよさそうに大の字で寝ちゃっていますよ、このお子様は。
それにしても、魔人薬にクライベル公爵家に聖国ねえ……。
問題はいろいろと山積みだが、さてどれから着手するべきか。
個人的にはプライドを傷つけられたことで傲慢さから目を覚まし、貴族としても一個人としてもユーナちゃんに謝罪していたゼクスと、それを見守るマルクス君のワンシーンを覗きに行きたいのだけどもね。
クライベル公爵家と教会の陰謀が複雑に絡み合ってややこしいことになっているので、そちらも心配だ。
近頃学院側へ移動している勇者ノアの接近を知った今回の黒幕の一人、アンネローゼ・クライベル公爵令嬢が怪しい動きを見せているんだよね。
アカシックレコードの演算によると、一度は自らマルクス君にけしかけたゼクスの悪評を利用して、勇者ノアの力を取り込み味方に引き入れるつもりらしい。
というのも。
ゼクスの悪行の数々は、だいたいがアンネローゼによって仕掛けられた罠の一環だ。
自分の魔法に絶対の自信を持っていたプライドの塊が、わざわざマルクス君を敵視しだしたのもそのせい。
ゼクス周辺の取り巻きや繋がりのある貴族に、「実際に戦えばマルクスの方が実力は上」という認識を吹き込んで二人が対立するようにけしかけ。
都合よくマルクス君にくっついている平民のユーナちゃんを利用して、あの女を貶めればマルクス・オーラは本気出すだろうとか、そんな感じで思考を誘導していた。
いやはや、あの問題児も色々と災難だった、というわけだね。
だからといって、ユーナちゃんに手を出しかけたことは許されることじゃないけども。
だがいまじゃその最強の破壊魔法使いという看板にも傷がつき、本人は賠償として実家の公爵家を巻き込んでまで責任を取るとかいっている。
責任というのは金銭的にもそうだし、立場的にもそうだ。
この文明も倫理も発達していない中世ファンタジーな世界観で、ここまで平民に対し誠実に対応してくれる大貴族というのも珍しい。
これにはユーナちゃんも苦笑いで、気にすんなみたいな態度で対応していた。
まあ、いざとなったらユーナちゃんの方がゼクスより強いし、その逞しい態度もさもありなん。
直接的に攻撃できる魔法はあまりもっていないが、防御に専念しているうちにマルクス君がかけつけてゼクスを瞬殺すると考えれば、危険など最初からなかったようなものだ。
ただその力関係を知っているのは弟子二人とノジャー親子くらいなものなので、ゼクスからしてみれば、「無力な平民相手に、俺はなにをやっているんだ」みたいな感じなんだろうけども。
でもって、アンネローゼ・クライベルの話に戻るわけだが。
彼女は現在絶賛落ちぶれ中のゼクスの悪評を利用し、正義は我にありみたいな感じで彼を糾弾して勇者ノアと友好な関係を築くつもりのようであった。
その過程で勇者と親しいという看板を利用して、色々暗躍するつもりのようだが……。
まあ、しばらくはこちらの様子も見ておこうと思う。
そんな感じに今後の計画を想像しながら、羽スライムを頭にのっけてスヤスヤ眠るツーピーの子守りを続ける今日この頃であった。
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