「そうじ」の力で異世界は救えるか?

掃除屋さん

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ここではない何処かへ

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「魔王様、次はどの種族を召喚なされますか?」
「次は8度目か…ならば人間の番か」
「承知しました。カシオン、次は人間を召喚せよ。…次は優秀なのを頼むぞ」

 ローブを纏った魔物が魔法陣に呪文を唱え始める。周りを囲むように魔物達がその様子を見ていた。
 次の成功を祈り真剣に祈る者、ほくそ笑みながら眺める者、己の欲望を願う者…。呪文を唱え終わると魔法陣が強く光り始めた。


 ――そして時を同じくして別の場所

 ビルの上から下界を見下ろす。地面を行き交う有象無象が、今日も働き蟻のように蠢いている。

「さぁ愚民どもよ!我のために働け!」

 私が手を挙げながらそう叫ぶと民衆は跪き祈るような姿で私を崇拝する……


 な~んて事は全くない。むしろ愚民は自分の方だ。今日も一日、仕事頑張りますよ~。
 私の名前は沖田創士(おきたそうじ)。幕末のあの方とは一切関係ない。今まで何度名前負けと言われただろうか。それに「そうじ」が掃除屋なんて皮肉なもんだ。今日もビルの屋上からロープを垂らしガラス清掃の仕事だ。
 もうすぐ昼ごはんの時間なので、このロープを下がったら昼休憩にしようと考えながら作業にかかる。
 垂れ下がったロープにつけた、公園のブランコのようなイスに座ってガラスを掃除する。屋上からこのイスに乗り込む時が一番怖い。まぁ座ってしまえば後は下がりながらガラスを掃除していくだけなので、それほど怖くはない。
 今日は風も無いし気温もちょうど良い。まさにロープ作業日和と言えよう。
 鼻歌を歌いながら作業し8階部分に差し掛かった時である。

「痛っ!」

 下から突風が吹いた瞬間、右手に痛みが走る。

「鎌鼬か?」

 そう呟いた時、一瞬の浮遊感の後、落下している事に気付く。ロープ作業の事故として最悪なケースが落下だ。そうならないようにロープ作業従事者は基本として降下するロープと落下防止装置を付けた補助ロープの2本を垂らして作業をする。

(2本とも切れてる!?まだ新品から5回しか使ってないのに!)

 どれだけもがいても落ちる事を止める事はできない。
 下に人は居ないか!?、クッションになるようなものはないか!?、そんな事を思いながら地面を見た。そこにはーー

「魔法陣?」

 確かにそこには宙に浮かぶ魔法陣があった。

(なるほど、人は死ぬ前には走馬灯を見るって聞いてたけど、本当はありえないものを見るんだな)

 この魔法陣が柔らかいクッションになって助かった、なんて淡い期待を抱きながら落下を続ける。

(頼むっ!何か起きてくれ!)

 魔法陣に乗れる事を期待して体を丸め衝撃に備える。そして魔法陣に体が触れた瞬間ーー

 衝撃は無く、すり抜けてしまった事実に目の前が真っ暗になる。しかしこれは表現としての「目の前が真っ暗」ではなく、文字通り真っ暗なのだ。


 暗黒の空間でも思考を巡らせることは出来た。落下している感覚はなく浮遊しているように感じる。

(ここが死後の世界なのか…?)

 とりあえず苦しむ時間が無かったのは幸いか、そんな事を思っていると5メートル先の床に魔法陣が浮かび上がってきた。この空間に床があるのかは分からないが。

(何か出てくるのか?綺麗な女神様とかだったらいいなぁ)

 3分ほど魔法陣をぼんやり眺めていたが何も起きなかった。もしやこれは自分が魔法陣に入るタイプなのだろうか。
 宙に浮いてるような感覚なので、とりあえず平泳ぎで進んでみる。少しづつではあるが魔法陣に近づいていく。魔法陣の上まで来たところで乗れるか試してみる。

「お、乗れた」

 ふわりと着地すると足元の魔法陣が光り出し、暗黒の世界が光だした。まるで目の前で車のハイビームを点けられたような眩しさに思わず目を瞑る。

先程まで無音の世界だったのだが、急に周りからざわめく音が聞こえたので目を開ける。

 目の前には見上げるほど大きな玉座。そこに座るのは明らかに人間ではない巨躯な何か。そう、まるでRPGに出てくる魔王そのものであった。
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