「そうじ」の力で異世界は救えるか?

掃除屋さん

文字の大きさ
25 / 37

予言者

しおりを挟む
 足取りが重い。何かやらかしてしまっただろうか。サスタスの後を歩きながら創士は記憶を辿る。しかし特に思い当たる節はない。むしろ今まで魔王に対し何もしなかったのが問題なのかもしれない。そんな事を考えていると、魔王の待つ大広間へと到着してしまった。

 この場所を訪れるのは召喚された時以来だ。あの時と違うのは、ここに魔王とサスタスしかいない事だけである。サスタスに促され魔王の前に立つ。魔王の表情は決して好意的なものではなかった。

「沖田よ…。サスタスから話は聞いておる」

 創士はサスタスを見た。その整った顔には貼り付けた様な微笑みが浮かんでいた。

「我が娘、デッドアイを連れ回しているらしいな」
(いや、逆です。逆)

 創士は粗相の無いように言葉を選んでから返答する。

「働かざる者食うべからず、という事でデッドアイ王女は毎朝私を清掃現場へ引っ張って行き、仕事を与えてくれます」
「毎朝!ま、まさか一緒に寝たりしておらんよな⁉︎」
「してないです!してないです!」

 首も手も横に振って否定する創士。

「これもサスタスに聞いたのだが…」

 創士はごくりと唾を飲む。

「他の娘達も連れ回しておるのか?」

 サスタスの顔を睨むように見る。彼は唇をギュッと閉めて笑い出すのを堪えている。

(こいつの仕業か…)

 創士は咳払いをして、どうにか上手く言い訳ができないか考えた。

「あー…。魔王様。デッドアイ王女から話は伺いました。全種族の平和を願うお気持ち、感服いたしました。私のいた世界では人類皆平等と謳いながら同族で殺し合っております。こちらの世界に召喚され、魔王様のお考えを王女様よりお聞きした時、是非お手伝いさせて頂きたいと思いました。その為にまず、こちらの世界の事を何も知りませんでしたので、各種族の方と仲良くなろうと思った次第であります」

 それらしい理由をそれらしい口調で述べてみた。これで納得してくれると助かるのだが。魔王は頬杖をつきながら口を開いた。

「この世界の事を聞きたいのであればサスタスに聞けば良かろう」
(そりゃそうですよね~)

 当たり前のツッコミをされて、またしても陳腐な言い訳をしてしまう。

「サスタス様もお忙しそうでしたので」
「王女が暇だとでもいうのか?」

 会社で上司に怒られるような気分だ。まぁ今回は上司よりも遥かに上の立場の人なのだが。

「すみません。ヒトに一番近いデッドアイ王女に、つい親近感が沸いてしまいまして…」
「まぁまぁ魔王様。彼も急に召喚されて右も左も分からない状況で、デッドアイ王女に親近感を沸いてしまうのは仕方がないでしょう。沖田殿を連れているデッドアイ王女は、まるでマーシャ様のように明るく楽しげでしたよ」

 突然サスタスが助け舟を出してきた。しかし『ありがとう』という気持ちが全く起きないのは、この呼び出しの件が、彼の伝え方の問題であるせいだろう。
 
「マーシャか…。これもヒトの血か…」

 魔王は遠い目をして思いを馳せる。創士はどうしたらいいものな分からず、ただ立っているだけだった。

「よいか?沖田よ。」

 魔王は創士の目をジッと見据えて言う。

「私が言うのも何だが、あれもこれも手を出すのはやめて、1人に絞るのだ」
「……はい?」
「だからな、伴侶にするなら……」
「ちょっと⁉︎話が飛びすぎですって!」

 サスタスは小刻みに震えながら片膝をついて笑いを堪えている。



―――王都 王城――――

 この日、円卓に集まった指揮官達。一部の地域の者は間に合っていないが、すでに到着している者は王を上座として左右に綺麗に分かれて座った。

「皆、よく集まってくれた。まだ全員ではないが先に始めるとしよう。本題の前に北方担当のチスタより話がある」
「はい、報告させて頂きます。先日、ドラゴンマウンテン山頂にて、大きな魔力爆発を感知しました。偵察隊の報告によると山頂付近から岩が大量に転がり落ちてきた形跡があるとの事です」

 大臣がすかさず口を挟む。

「これはマスタードラゴンが動き出したに違いない!」

 顎髭を蓄えた屈強な男がそれを聞いて笑う。

「あの老いぼれドラゴンがか⁉︎もう何十年も動いておらんのだろう?」
「全てのドラゴンのトップが動き出したのかもしれんのだぞ⁉︎悠長に構えている場合か⁉︎」

 大臣は机を叩きながら声を荒げた。

「そうは言っても…ねぇ?一体どうするってんだい?」

 女性指揮官は気怠そうに尋ねた。

「やられる前にやる。全軍で奴を討つ」

 何を勝手な事を言い出すんだと言わんばかりの表情で指揮官達は大臣を見る。大臣は続けて言う。

「それでよろしいのですよね?」

 王様の方を見ながら問いかける大臣の顔には醜い笑みが溢れている。

「うむ。大臣の言う通り、一点集中で奴を討つ。ドラゴン族を討つことは魔物の戦力を大幅に削れるだろう。不意打ちでも構わん。皆、案を出せ」

 指揮官達は最近の王の強行策に懐疑心を持っている。以前ならば、このような重要な作戦は自分達の意見を聞き慎重に進めていたのだが、最近は王と大臣の間で全て決まっている。命を落とすのは現場の人間だというのに…。



―――魔王城――――

 その後も色々と質問をされた創士。あまりにも長いので、途中でデッドアイが乱入し『掃除の途中だから』という理由で創士を引き摺っていった。
 魔王は複雑な感情で2人の後ろ姿を見送った。

「助かりました。魔王様の質問攻めが長くて長くて…」
「いつまで経っても帰ってこないから心配したわよ。まぁいいわ!それよりもムルトゥのエリアって何か臭くない?」
「あの魔物ってオオカミですかね?あれがその辺でおしっこしてるんじゃないですか?」
「あー、それかも」
「尿の匂いはクエン酸で落ちると思うんですが、魔物も一緒なのかな?」
「クエンサン?」
「レモンの汁とかに含まれてるんですけど」
「レモン?」
「サスタスさんに聞いてみましょう」

 デッドアイにサスタスを呼んでもらい、柑橘系の果物があるかどうか訊ねる。『リネス』という果物があるらしい。

「わかったわ!創士、王都に行くわよ!」

 創士は思った。このまま行けばこのイケメン野郎は、また魔王にある事無い事報告するだろう。なので今回は予防策を取らせてもらう。

「アイ様、ちょっと待って。今回はサスタスさんも連れて行きましょう」

 王都に行くのはお忍びだ。サスタスも共犯にしてしまえば、そう簡単に言いふらすことは無いだろう。

「沖田様、残念ですが私は羽が生えておりますので、人里に行くと目立ってしまいます」
「あら?アナタ変身の魔法使えるわよね?」

 デッドアイに指摘され微かに舌打ちしたのを創士は見逃さなかった。

「今回は仕方ありませんね。お供しましょう」

 『今回は』ということは、やはり狙ってやっているのだろう。創士は呆れながらも王城へのゲートを開いてもらう為、ミシオンの部屋へと向かった。


 サスタスが2人の後ろを歩いていると、物陰からフィティアがこちらへ来るように手招いている。サスタスは創士達に気付かれぬようフィティアに近づく。

「どうしました?」
「沖田さんに赤黒い影が見えました」
「例の『予言』ですか?」
「念の為、注意してもらえますか?」
「分かりました。後で『これ』をミシオンに渡してください」

 フィティアは『それ』を受け取ると、お気を付けてと言い残し去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...