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エピローグ 観測者
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「はぁ~、暇ねぇ」
今日も今日とて、転生者や転移者の転送業務をこなすフィティア。
「飽きてきちゃったわ」
転送業務を行う女神は、女神の中でもとりわけ能力の高いものが就く仕事である。本来ならば皆の模範となるような女神が担当する仕事なのだが、フィティアはその要領の良さで見事にこの仕事に就くことができた。しかし飽き性の彼女は、この仕事に飽きを感じ始めていた。
「最近この世界、転移者が多いのよねぇ。どんな世界なのかしら」
女神はその世界の様子を見ることができる。
「へぇ~、人間と魔物がお互いに手を組みたがっているのね!面白そう、どういう過程でその結果に辿り着くのかしら?ちょっと見に行きましょう!」
フィティアは業務を放っぽり出し、この世界へ降り立つ。記憶を改竄し魔王城の悪魔として。本来このような事はやってはいけない。というよりも普通は誰もやらないのだ。その点フィティアは変わった女神と言えるだろう。
しばらくこの世界の住人として生きる。部屋の一室を勝手に占拠して自分の部屋とした。自由気ままに暮らしながらこの世界を観察する。そんな折、ガンバスが持っていた安酒を飲み衝撃が走る。天界には上質で甘美でいくら飲んでも酔う事はない、そんな飲み物しか存在していなかった。あえて毒を喰らう、そのような行為に何の得があるのか分からなかったが、不思議と気持ちが良い。
それからというもの、各地を巡っては酒を買ってくる日々が続く。さらに違う世界にまで足を伸ばす。異世界を色々回ったが、地球という世界の日本という場所が居心地がよかった。多少その世界にそぐわない格好でも『コスプレ』という言葉で解決できるからだ。なるほど、他の女神が転生者を選ぶ際に日本人が楽と言っていたのは、このような文化があるからかもしれない。
酒好きが高じて酒場を開く決意をする。酒場というものは情報が集まる場所と相場が決まっているらしい。そこで日本の伝統的な酒場である『スナック』を参考にして部屋を改造した。
「なかなか進まないわね」
彼女は呟く。何度か召喚に立ち会うも防戦一方の現状では前に進みはしない。本来ならば転生される前に女神による祝福があり、何かしら能力を付与されるなど世界を変えうる力を授かる筈なのだが、その女神がここにいるのだから困った話である。
再び召喚の儀が行われようとしていた。今回は人間を転移させる予定らしい。飽き性の女神はこのマンネリ化を打破するべく『予言』の能力を使う事にする。予言といってもはっきりと未来が分かるわけではなく、タロット占いの様な抽象的な事しか分からない。女神によってこの能力のやり方や精度は違うが、フィティアの場合は頭の中にボヤッとした映像が浮かぶ程度だ。能力を鍛えようと思えばできない事はないが、彼女はこれで十分満足している。分からない方が面白い事もある、そういう考え方なのだ。
今回浮かんできたのは『ウインドカッター』という魔法。
「これは…私が使うのかしら?」
まもなく魔法陣が完成する。フィティアはとりあえず威力を抑えてウインドカッターを放つ。
風の刃は魔法陣を展開中のカシオンへと飛んでいく。魔法陣が完成するギリギリでカシオンの手の甲を薄く切り裂く。痛みで手元が狂った拍子に魔法陣の座標が少し変わってしまった。風の刃は完成した魔法陣の中に吸い込まれて消えた。
程なくして現れたなんとも弱そうな男が切れたロープごと召喚されたのを見るに、おそらくウインドカッターが当たっていたのだろう。
「体に当たらなくて良かったわ…」
危ない危ないと呟きながら、大広間から出ていく。本来召喚される予定だった少年は、今頃別の異世界を救っているのかもしれない。
その後、彼がただの掃除屋だったことを知る。予言に従ったにしては、なんとも拍子抜けの結果に終わった事に納得のいかないフィティアは、再度『予言』をする。デッドアイ王女に紫の影。これは状態異常だろうか?しかし仮にも魔王の血を引く者、状態異常の耐性はあるだろう。そこでこの女神パワーの出番である。状態異常にするくらいならお茶の子さいさいである。
「あまり強力だと危険だから、風邪を引かせるくらいにしときましょ!」
掃除に夢中になっているデッドアイ王女にバレないように状態異常呪文をかける。
その後観察を続ける。変わった事といえば魔王城が綺麗になった事と、創士を中心に、魔王城内部の魔族達が少し明るくなったような、ならなかったような。デッドアイ王女は間違いなく明るくなっている。しかしその程度の変化で、この世界の変革までには至らない。
「しばらくは暇そうね~」
フィティアは観測を続ける。時折スナック経営をして遊びながら、面白そうな事がないか探す日々であった。
ある日、デッドアイとエーデルの仲が改善している事に気付く。年頃の王女様同士だ、仲が悪くて当然だとフィティアは思っていた。というか日本の漫画に書いてあった。この2人のバチバチな関係を楽しんでいた節もあったのだが、まさか改善傾向とは驚いたものだ。これもあの『創士』のせいなのだろうか。
不思議とこの世界を多少なりとも変化させている彼が気になって仕方ない。フィティアはもう一度だけ予言をしてみる。
赤黒い背景に創士が見える。
このような予言は何度か見た事がある。背景の色がその人物の何かを暗示しているパターンだ。綺麗な青空のような色だったり、花のように綺麗な黄色だったりした時は病が治ったりといった事が起きたりした。
ただ今回の色は、あまり良いイメージとは思えない。どちらかと言うと悪いイメージの多い色合いだ。だがこれを本人に伝えるわけにはいかない。何が起こるにせよ、私は観測者であらねばならない。が、この世界に長く留まっているせいか、彼らに情が湧いてきているのも事実。
歩きながら考え込んでいると、窓の外から別棟の廊下をデッドアイ、創士、サスタスの3人が歩いているのが見えた。
フィティアは先回りして物陰に身を隠す。2人の後ろを歩いていたサスタスを呼び止めると、先程の予言の件を言い渡す。
彼に伝えておけば何とかなるでしょう。あとは傍観者に徹しましょう。
フィティアは呑気に自室へと戻り酒を飲みに戻った。
昼酒をしこたま飲み、酒瓶を抱いたまま寝ていたフィティアが目を覚ました理由は魔王城の異様なざわつきを感じとったからだ。ふらふらとした足取りでドアまで辿り着き、ドアノブをひねると顔だけだして廊下の様子を見る。
あちこちで魔物達の出入りが激しい。何かがあったのは間違いないようだ。
「ついに勇者が攻め込んできたか⁉︎」
フィティアは内心ワクワクしながら、酔い覚ましの魔法を自分にかけ、身なりを整え情報収集がてら散歩を始める。
情報はすぐに集まった。まず『創士が死にかけている』という事。『犯人は王子で捕縛している』という事。『デッドアイが再び暴走した』という事。
部屋に戻ると、集めた情報を整理がてら酒とつまみを用意して晩酌を始める。
「予言通り、ってところかしら。アイちゃん大丈夫かなぁ?あの子可愛がってたもんね、そりゃ怒っちゃうわよ。それにしても犯人が王子なんてね…これでこちらに王子という駒が手に入ったわけだけども…なんか動き出しそうな感じね!」
フィティアは嬉しそうに酒を飲む。
「でも、彼は大丈夫なのかしら?もう退場しちゃうのは勿体ないなぁ。もう少し掻き回してほしいところだけど」
フィティアの元に創士復活の情報が届く。
やはり彼は生き残った。これは間違いない、彼を中心に世界が動き出す可能性が高い。そう考えたフィティアは、一度創士と話したいと思い彼を探す事にした。
適当に歩いていると、魔物達が大広間に緊急召集されている事が判明した。ならば創士もそこにいる可能性が高い、そう考え大広間へ向かおうとする。すると何やら懐かしい感覚。うっすらとではあるが、同族の力を感じる。サスタスとはまた違った感触、気のせいかと言われれば気のせいとも思えるほど微弱なもの。楽観的なフィティアは特に気にする事もなく大広間へと辿り着く。
中に入るとカシオンが喋っていた。
「…しょう。意識改革させてから王城に送り込むんです。フィティア様なら可能でしょう」
「呼びました?」
「うおっ⁉︎」
ついつい背後から声を掛けてしまう。驚く魔王が面白くて、怒られてはいるが何度もやってしまう。
先程感じた同族の力が強くなる。どうやら王子から発せられているものらしい。フィティアは王子のステータスを覗く。
なるほど…催眠ね。それも天界物を使ったものか。どうやら邪魔者がこの世界に入り込んでいるようね。
フィティアは出来るだけ平静を装い、催眠を解除する。
本来、天界人である神が各世界に降りる事など滅多にない。イレギュラー的に降りる事はあっても長居する事はない。それゆえにフィティアは異端児と呼ばれても仕方がない。本人も自覚しているし、好奇心を抑える事もできない。だがそんな彼女でも世界に干渉するタブーだけは守っている。この世界にとって神の力というものは強力すぎる。便利な反面、強力な毒にもなりうる。当然強すぎる力は争いを招く。なのでなるべく被害が出ない範囲での力の行使が暗黙の了解なのだ。
だが、今回の催眠は明らかに一線を超えている。ましてこの世界に影響力を持つ王族に対しての力の行使。女神としてこれを野放しにするわけにはいかない。
「これを最後にしましょうかね」
フィティアは決めた。完全に観測者になる事を。もう予言もしない。だがこの世界を蝕む毒の元は自分が断つ。身内の問題は身内で解決させてもらう。
と、いいつつ創士にスキルを渡してしまう。大きなスキル付与は天界にバレてしまうが、ちょっとしたものならバレずに付与させれる位の力は持っている。やはりなんだかんだでこの世界の事が好きなフィティアなのであった。
世界の行く末を傍観するフィティア。創士が王の催眠を解き、この世界から転移したのを確認すると、まるで1クールのドラマを見終わった後の心地よい余韻に浸りながら、催眠の力の残滓を辿る。犯人は簡単に見つかり、余韻に浸る邪魔をされた腹いせに天界で最も真面目で厳しい女の元に送ってやった。ざまぁみろだ。
オーリリーの結婚式で創士が再転移してきた時は、久々に本気で驚いた。まさかアイ王女が血を与えていたとは。
転移した人間を元の世界に戻す時は、与えたスキルや元の世界にそぐわないアイテムは回収する。ただ今回の血液というのは前例がなく、抜いてしまえば失血死するだろうし、徐々に入れ替えるという事も出来なくはないが、そんなめんどくさい事をする天界人がいるかどうか。おそらく面倒臭くなって、送り返してきたのが今回の件なのであろう。
「まったく…これだから下の世界は面白くて好き。さて、この世界の結末も見れた事だし、あと少し余韻を楽しんだら別の世界に行こうかな。あなたはどうする?もう別の世界に行く?いや、あなたの場合は別の世界を『読む』というのかしらね。また違う世界で会っても、お互い観測者として知らないフリをしましょう。それではまたどこかの世界で」
今日も今日とて、転生者や転移者の転送業務をこなすフィティア。
「飽きてきちゃったわ」
転送業務を行う女神は、女神の中でもとりわけ能力の高いものが就く仕事である。本来ならば皆の模範となるような女神が担当する仕事なのだが、フィティアはその要領の良さで見事にこの仕事に就くことができた。しかし飽き性の彼女は、この仕事に飽きを感じ始めていた。
「最近この世界、転移者が多いのよねぇ。どんな世界なのかしら」
女神はその世界の様子を見ることができる。
「へぇ~、人間と魔物がお互いに手を組みたがっているのね!面白そう、どういう過程でその結果に辿り着くのかしら?ちょっと見に行きましょう!」
フィティアは業務を放っぽり出し、この世界へ降り立つ。記憶を改竄し魔王城の悪魔として。本来このような事はやってはいけない。というよりも普通は誰もやらないのだ。その点フィティアは変わった女神と言えるだろう。
しばらくこの世界の住人として生きる。部屋の一室を勝手に占拠して自分の部屋とした。自由気ままに暮らしながらこの世界を観察する。そんな折、ガンバスが持っていた安酒を飲み衝撃が走る。天界には上質で甘美でいくら飲んでも酔う事はない、そんな飲み物しか存在していなかった。あえて毒を喰らう、そのような行為に何の得があるのか分からなかったが、不思議と気持ちが良い。
それからというもの、各地を巡っては酒を買ってくる日々が続く。さらに違う世界にまで足を伸ばす。異世界を色々回ったが、地球という世界の日本という場所が居心地がよかった。多少その世界にそぐわない格好でも『コスプレ』という言葉で解決できるからだ。なるほど、他の女神が転生者を選ぶ際に日本人が楽と言っていたのは、このような文化があるからかもしれない。
酒好きが高じて酒場を開く決意をする。酒場というものは情報が集まる場所と相場が決まっているらしい。そこで日本の伝統的な酒場である『スナック』を参考にして部屋を改造した。
「なかなか進まないわね」
彼女は呟く。何度か召喚に立ち会うも防戦一方の現状では前に進みはしない。本来ならば転生される前に女神による祝福があり、何かしら能力を付与されるなど世界を変えうる力を授かる筈なのだが、その女神がここにいるのだから困った話である。
再び召喚の儀が行われようとしていた。今回は人間を転移させる予定らしい。飽き性の女神はこのマンネリ化を打破するべく『予言』の能力を使う事にする。予言といってもはっきりと未来が分かるわけではなく、タロット占いの様な抽象的な事しか分からない。女神によってこの能力のやり方や精度は違うが、フィティアの場合は頭の中にボヤッとした映像が浮かぶ程度だ。能力を鍛えようと思えばできない事はないが、彼女はこれで十分満足している。分からない方が面白い事もある、そういう考え方なのだ。
今回浮かんできたのは『ウインドカッター』という魔法。
「これは…私が使うのかしら?」
まもなく魔法陣が完成する。フィティアはとりあえず威力を抑えてウインドカッターを放つ。
風の刃は魔法陣を展開中のカシオンへと飛んでいく。魔法陣が完成するギリギリでカシオンの手の甲を薄く切り裂く。痛みで手元が狂った拍子に魔法陣の座標が少し変わってしまった。風の刃は完成した魔法陣の中に吸い込まれて消えた。
程なくして現れたなんとも弱そうな男が切れたロープごと召喚されたのを見るに、おそらくウインドカッターが当たっていたのだろう。
「体に当たらなくて良かったわ…」
危ない危ないと呟きながら、大広間から出ていく。本来召喚される予定だった少年は、今頃別の異世界を救っているのかもしれない。
その後、彼がただの掃除屋だったことを知る。予言に従ったにしては、なんとも拍子抜けの結果に終わった事に納得のいかないフィティアは、再度『予言』をする。デッドアイ王女に紫の影。これは状態異常だろうか?しかし仮にも魔王の血を引く者、状態異常の耐性はあるだろう。そこでこの女神パワーの出番である。状態異常にするくらいならお茶の子さいさいである。
「あまり強力だと危険だから、風邪を引かせるくらいにしときましょ!」
掃除に夢中になっているデッドアイ王女にバレないように状態異常呪文をかける。
その後観察を続ける。変わった事といえば魔王城が綺麗になった事と、創士を中心に、魔王城内部の魔族達が少し明るくなったような、ならなかったような。デッドアイ王女は間違いなく明るくなっている。しかしその程度の変化で、この世界の変革までには至らない。
「しばらくは暇そうね~」
フィティアは観測を続ける。時折スナック経営をして遊びながら、面白そうな事がないか探す日々であった。
ある日、デッドアイとエーデルの仲が改善している事に気付く。年頃の王女様同士だ、仲が悪くて当然だとフィティアは思っていた。というか日本の漫画に書いてあった。この2人のバチバチな関係を楽しんでいた節もあったのだが、まさか改善傾向とは驚いたものだ。これもあの『創士』のせいなのだろうか。
不思議とこの世界を多少なりとも変化させている彼が気になって仕方ない。フィティアはもう一度だけ予言をしてみる。
赤黒い背景に創士が見える。
このような予言は何度か見た事がある。背景の色がその人物の何かを暗示しているパターンだ。綺麗な青空のような色だったり、花のように綺麗な黄色だったりした時は病が治ったりといった事が起きたりした。
ただ今回の色は、あまり良いイメージとは思えない。どちらかと言うと悪いイメージの多い色合いだ。だがこれを本人に伝えるわけにはいかない。何が起こるにせよ、私は観測者であらねばならない。が、この世界に長く留まっているせいか、彼らに情が湧いてきているのも事実。
歩きながら考え込んでいると、窓の外から別棟の廊下をデッドアイ、創士、サスタスの3人が歩いているのが見えた。
フィティアは先回りして物陰に身を隠す。2人の後ろを歩いていたサスタスを呼び止めると、先程の予言の件を言い渡す。
彼に伝えておけば何とかなるでしょう。あとは傍観者に徹しましょう。
フィティアは呑気に自室へと戻り酒を飲みに戻った。
昼酒をしこたま飲み、酒瓶を抱いたまま寝ていたフィティアが目を覚ました理由は魔王城の異様なざわつきを感じとったからだ。ふらふらとした足取りでドアまで辿り着き、ドアノブをひねると顔だけだして廊下の様子を見る。
あちこちで魔物達の出入りが激しい。何かがあったのは間違いないようだ。
「ついに勇者が攻め込んできたか⁉︎」
フィティアは内心ワクワクしながら、酔い覚ましの魔法を自分にかけ、身なりを整え情報収集がてら散歩を始める。
情報はすぐに集まった。まず『創士が死にかけている』という事。『犯人は王子で捕縛している』という事。『デッドアイが再び暴走した』という事。
部屋に戻ると、集めた情報を整理がてら酒とつまみを用意して晩酌を始める。
「予言通り、ってところかしら。アイちゃん大丈夫かなぁ?あの子可愛がってたもんね、そりゃ怒っちゃうわよ。それにしても犯人が王子なんてね…これでこちらに王子という駒が手に入ったわけだけども…なんか動き出しそうな感じね!」
フィティアは嬉しそうに酒を飲む。
「でも、彼は大丈夫なのかしら?もう退場しちゃうのは勿体ないなぁ。もう少し掻き回してほしいところだけど」
フィティアの元に創士復活の情報が届く。
やはり彼は生き残った。これは間違いない、彼を中心に世界が動き出す可能性が高い。そう考えたフィティアは、一度創士と話したいと思い彼を探す事にした。
適当に歩いていると、魔物達が大広間に緊急召集されている事が判明した。ならば創士もそこにいる可能性が高い、そう考え大広間へ向かおうとする。すると何やら懐かしい感覚。うっすらとではあるが、同族の力を感じる。サスタスとはまた違った感触、気のせいかと言われれば気のせいとも思えるほど微弱なもの。楽観的なフィティアは特に気にする事もなく大広間へと辿り着く。
中に入るとカシオンが喋っていた。
「…しょう。意識改革させてから王城に送り込むんです。フィティア様なら可能でしょう」
「呼びました?」
「うおっ⁉︎」
ついつい背後から声を掛けてしまう。驚く魔王が面白くて、怒られてはいるが何度もやってしまう。
先程感じた同族の力が強くなる。どうやら王子から発せられているものらしい。フィティアは王子のステータスを覗く。
なるほど…催眠ね。それも天界物を使ったものか。どうやら邪魔者がこの世界に入り込んでいるようね。
フィティアは出来るだけ平静を装い、催眠を解除する。
本来、天界人である神が各世界に降りる事など滅多にない。イレギュラー的に降りる事はあっても長居する事はない。それゆえにフィティアは異端児と呼ばれても仕方がない。本人も自覚しているし、好奇心を抑える事もできない。だがそんな彼女でも世界に干渉するタブーだけは守っている。この世界にとって神の力というものは強力すぎる。便利な反面、強力な毒にもなりうる。当然強すぎる力は争いを招く。なのでなるべく被害が出ない範囲での力の行使が暗黙の了解なのだ。
だが、今回の催眠は明らかに一線を超えている。ましてこの世界に影響力を持つ王族に対しての力の行使。女神としてこれを野放しにするわけにはいかない。
「これを最後にしましょうかね」
フィティアは決めた。完全に観測者になる事を。もう予言もしない。だがこの世界を蝕む毒の元は自分が断つ。身内の問題は身内で解決させてもらう。
と、いいつつ創士にスキルを渡してしまう。大きなスキル付与は天界にバレてしまうが、ちょっとしたものならバレずに付与させれる位の力は持っている。やはりなんだかんだでこの世界の事が好きなフィティアなのであった。
世界の行く末を傍観するフィティア。創士が王の催眠を解き、この世界から転移したのを確認すると、まるで1クールのドラマを見終わった後の心地よい余韻に浸りながら、催眠の力の残滓を辿る。犯人は簡単に見つかり、余韻に浸る邪魔をされた腹いせに天界で最も真面目で厳しい女の元に送ってやった。ざまぁみろだ。
オーリリーの結婚式で創士が再転移してきた時は、久々に本気で驚いた。まさかアイ王女が血を与えていたとは。
転移した人間を元の世界に戻す時は、与えたスキルや元の世界にそぐわないアイテムは回収する。ただ今回の血液というのは前例がなく、抜いてしまえば失血死するだろうし、徐々に入れ替えるという事も出来なくはないが、そんなめんどくさい事をする天界人がいるかどうか。おそらく面倒臭くなって、送り返してきたのが今回の件なのであろう。
「まったく…これだから下の世界は面白くて好き。さて、この世界の結末も見れた事だし、あと少し余韻を楽しんだら別の世界に行こうかな。あなたはどうする?もう別の世界に行く?いや、あなたの場合は別の世界を『読む』というのかしらね。また違う世界で会っても、お互い観測者として知らないフリをしましょう。それではまたどこかの世界で」
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