星の軌跡の描く未来で

美月藍莉

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第1章 B-Side 紫吹蓮&深澤月那

Episode.7 「星宮琴葉 捕獲指令 II 」

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「来たな...《魔神教団》め...。」
   れん月那るなと共に臨戦態勢をとって、薄く笑みを浮かべながらそう言った。

   この部屋は《LOVERS》が特殊な結界を張り巡らせた、いわば隔離空間。
   この空間に出入りするには蓮や月那のように、結界に自由に出入りするための術が練られた魔術珠が必要だ。
   だがこのサキュバス族の悪魔は、その結界を無理矢理に破壊してこの部屋に入り込んできた。

   《LOVERS》の仕掛けた結界を無理矢理破壊してこの隔離空間に侵入してきたということから、恐らくそれなりの実力を持った悪魔だというのは伺える。

「ねえええ!!レンレン!!あいつ絶対やばくない!?どうする!?ってか......げふっ...。さっきラーメン食べたからあんまり動けないんだけど...。」

「は?......お前バカじゃねえの?」

   そんなやりとりを見た悪魔はこちらを馬鹿にするように笑って
「なに?あーし漫才に興味ないんだけど。用があるのはそこの女。」

   そしてそれに月那がビクッと身体を震わせて
「え...わたし!?!?」
   とか訳の分からないことを言っているが、もう面倒なので蓮は突っ込まなかった。

   蓮は、その生意気げな幼さの残る顔立ちからは想像もつかないくらい鋭い目つきになって
「欲しけりゃ奪ってみろよ。」
   と、悪魔に言い放つ。

   ふと、蓮は琴葉のほうを一瞬振り向くと、彼女は恐怖と混乱からか、綺麗に気絶していて。

   まあ、騒がれるよりかはやり易いか...なんて思う。

「ところで悪魔、この女はなんだ?」
   蓮はどこからともなく、刀身1mほどの剣を生み出して、捕獲した琴葉に向けて言う。
   それにサキュバス族の悪魔は、首を傾げて返した。
「さあ?あーしは上の命令通りにその女の捕獲に来ただけ。」

「はっ。」

「なにがおかしいのかしら?」

「じゃあ、ここにいる誰も、この女が何者か分からずに取り合っているというわけか。おかしな話だな。」

「そんなのどうでもいいもの。」

「だが、お前にやるわけにはいかないな。」
   蓮はそう言って、強く踏み込む。すると、サキュバス族の悪魔との距離が一気に縮まり、そのまま勢いよく剣を放った。

   「へぇ、結構速いのね。」

   悪魔はその剣を背中の翼で身体を覆うようにして、受ける。
   その翼は剣ではびくともしないくらい強固な翼。

   鈍い金属音と共に蓮の剣は跳ね返されるが、蓮の背後からまた入れ替わるようにして、剣を握った月那が悪魔の両翼の間を縫うようにして剣撃を放った。

「...!?」

   悪魔の反応が一瞬遅れて、ぎりぎり避けられてしまったものの、月那の剣は悪魔の頬を少し掠める。
   しかし、頬から流血した真っ赤な血を悪魔は舌を伸ばして舐めとり、口角を不気味に上げる。

「その程度の剣術でこのサリーちゃんと戦おうっての?」

   自らをサリーと名乗ったその悪魔のその言葉に、逆に笑みを浮かべる蓮。
「安心しなよ。今のはただの挨拶だから。」
   そして蓮はちらっと、自分の真横にいる月那の方へ一瞬視線を移す。

   すると蓮の一歩後ろに下がった月那(るな)は、右手の人差し指を悪魔の方へ向ける。

「えへへ....悪いけど《魔神教団》は大嫌いだから思いっきりやっちゃうよー!」
   そう言って、月那(るな)は右手の人差し指で魔法陣のようなものを空中に描き始める。
   非常に慣れた手つきですらすらと術式を描き、悪魔のサリーから見てもその描術速度は目を見張るものがあった。

   ものの2秒足らずで術式は完成して、サリーの両手足は金縛りにあったかのように動かなくなる。
   自由が全く効かなくなってしまう。

「ってなわけでここでお前を殺してもいいんだけどさあ。きっと上の人間はあんたら悪魔を研究材料として欲しがると思うんだよね。」

   直立したまま動けなくなってしまい、無防備を晒しているサリーに蓮は剣を向ける。

「ホント、最近の人間はどいつもこいつも簡単にあーしら悪魔の魔術を使うのねえ...。」

「魔術が悪魔の特許物だったのは何万年も前の話だぜ。いつまでも昔の思い出に浸ってないで前に進めよ。」
   と、蓮が言ったところでサリーはあっさり月那の拘束魔法を破って、蓮が向けている剣を左手で握ってしまう。

「でもこの程度の術じゃあーしをどうすることもできない。勘違いしないでね?人間程度の小さな脳みそじゃ、あーしら悪魔のように魔術は使いこなせない。」

「勘違いしてるのはお前だバーカ。」
   蓮はまた、目の前の悪魔をバカにしたような笑みを浮かべる。

   その瞬間、剣の刃の周りになにやら、魔術とはまた違う円陣が発生する。

   するとサリーと名乗った悪魔の剣を握った左手が、れん剣から放たれる凄まじい冷気に襲われる。
   手から手首、手首から肘、肘から肩へとその氷は侵食していく。

   そして、サリーはそれを見ておかしくて笑ってしまう。

   なぜなら、いま蓮が使ったのは精霊術...天界の精霊や天使が使う術だからだ。

   魔界の魔術を操る少女と、天界の精霊術を操る少年。

   組み合わせとしては最高に異質だった。

「あはははははは!!なにそれぇ。あんたら本当面白いわね。確かに、2人同時に相手するのは面倒くさそ。さっさとあの女を持って帰って終わりにするわ。」
   サリーはそう言って、まだケラケラと笑っていた。


   しかし、突然彼女はピタッと笑い止む。


   急に、この空間が静かになる。
   そのサリーの挙動に僕達2人は、少し身構えた。

「あの女...どこに隠れたの?」
   サリーはそう言った。

   あの女とは恐らく、星宮琴葉のことだろう。
   2人はまた、星宮琴葉を拘束していたはずの方向へと一瞬だけ視線を向ける。

「くそ...マジで言ってんのかよ...。」

「え!?どういうこと!?」

    蓮と月那は、顔を見合わせる。そして、そのまま周囲を見渡して、忽然と姿を消した星宮琴葉を探す。しかし、やはりこの部屋からは消えている。
   あの鎖は魔術が練られているので、ただの人間にはとても解くことの出来ない代物のはず...。

   そんなことを考えていると、この場にいる全員の脳内に強い違和感が現れる。

   あのただの人間の正体が、突然思い出したように脳内に入ってくる。
   
   そして、この任務を受けたきっかけも、突然蓮は思い出す。

『天界の王妃、セシリア・コルネベルチェを拘束、捕獲せよ。』

   確かにそういう依頼だったのを思い出す。
   そして天界を襲った《魔神教団》を潰す手がかりになると思い、この依頼を受けたのも思い出す。
   どういうわけかそれを今まで忘れていた。
   まるで、その間、王妃セシリアは世界から消えていたように。

「どうやら、アンタ達だけじゃないみたいだねえ。」
   何がおかしいのか嬉しそうに笑みを浮かべて悪魔が言う。

   その言葉で蓮はすぐに、『あの悪魔も同じように琴葉=セシリアだということを今思い出したのだ』と、察する。

「なにこれなにこれ!変な術にかかってたわけじゃないのになんか記憶を操作されてるみたい!」
   慌てたような口調で月那は言う。
  
   が、しかし、当然だろう。

「世界中が欲しがるセシリアの星軌術せいきじゅつは、自らの存在そのものを世界から認識できないようにすることすらも出来るのか...。」

   そんな膨大な術、魔術で創ろうと思えばありえないほどの時間と力と労力がかかる。それをあの王妃セシリアは恐らく、単独で行った。

   スケールが、あまりにも違いすぎる。

(そりゃ、世界中があの女の力を欲しがるわけだ...。)

   サリーは月那がさっきやったのと同じように、指先で空中に術式を描き始める。
   それがやがて魔法陣となり、くるくると廻り出して、魔術は完成する。
「あらあら、案外遠くには逃げてないみたいじゃない?」
   そう言ってサリーは次元の穴を開ける。
「んじゃ、ば~い!」
   そしてそのまま次元の穴を開けて、そのまま姿を消してしまう。恐らく、さっきの魔術で星宮琴葉の居場所をあぶり出し、その近くへと移動したのだろう。

   まずい!と思って追おうとした時にはその次元の穴は既に閉ざされてしまっていて。

「ちっ...。月那、お前もあれできないのか?」

「できるよ!ちゃんと見てたもん!」

「やれ。あの悪魔を追って始末して、王妃セシリアを回収する。」

「おっけー!」

    元気よく返事をした月那は、サリーが描いていた魔術と全く同じ魔術を模倣して描き始める。

   クソのやつにも立たないお調子者だが、この深澤月那ふかざわるなには魔術の才能だけはあった。

   簡単な術であれば、一度見ただけで完璧に模倣して同じ魔術を扱うことができる。
   人間である月那るなにとって、魔術は途方もない努力をしてやっと扱えるはずのもの。
   現に、蓮自身も魔術は扱えるが、それもかなり勉強してようやく簡単な魔術を扱えるようになったレベルだ。

   が、しかし月那はそんな魔術を16歳の少女とは思えない精度で扱う。

  そして、魔術は完成する。

「んとねんとね......おー!ほんとだー!すっごい近くにいるよ!あの悪魔も王妃様も!」

「そうか。じゃあ早くその座標に次元の穴を繋げ。」

「任せてー!」

   そう言ってまた、月那は次元の穴を開く。 
   ある程度あの悪魔と王妃セシリアの近くながら、人目につかない路地のブロック塀に、繋がる。

「えへへー!偉いー?」

   ラーメン食べてターゲット捕獲を放棄していた癖に、ちょっと魔術を使っただけで調子に乗るバカを横目に、蓮は穴をくぐる。

「いくぞ。」

「はーい。」

   そして、月那も蓮に続いて、その次元の穴をくぐって目的の場所へと移動する。
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