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第2章

守られなかった約束

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部員のマラソンの間は、先生やOBの先輩たちと話す時間でもあった。
先生はもうすぐ結婚するらしい。
お相手は、以前、魚の骨が喉に詰まって入院したときの看護師さんらしい。

OBの桜井さんともよく話した。
ノーアウトの守備からツーアウト満塁の守備の動きについて、とか、ファーストストライクの時の打撃の心得とか。野球の話ばかりだった。

ある日、私に素振りをさせて、ひとしきりからかい楽しんだあと、ポツリポツリと話始めた。
「俺の代、優勝したんだ。。優勝したら硬式にしてくれるって約束だったんだ。先生と。それなのに。裏切られたんだ。」

「俺はこの野球部が好きだ。。だから、人数が少なくても野球部を守ってくれている奴らのために、バッティングピッチャーをやってやる。ノックをやってやる。野手が足りなくて、試合に出られなくても野球部を守ってくれている奴らのために。
優勝したら、また硬式になるチャンスがあるかも知れない。甲子園を目指せるチャンスがあるかも知れないだろ⁉」

桜井さんが、忘れ物を探しに来ているように見えたのは、硬式野球部になれなかった未練のようなものなんだろうか。

そんな思いを知ってか知らずか、部員たちはもくもくとトレーニングに励んでいた。

  私の文通相手のヒロコからはまめに手紙が届いていた。彼氏ができたと書いてあった。私は野球部生活に没頭しすぎて、なかなか返事が書けなくなっていた。手紙を読んで、よかったよかった、と安心し、その手紙を机の上に放り出したままだった。
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