- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
22 / 260
第二章 リーベン島編

シュエン・フェイロックの日記 2

しおりを挟む
 治療術で腕の傷を癒やしながら、新しい刀をマジマジと見る。木陰から差す陽の光が、刀身に反射して目に刺さる。
 
「しかしすごい切れ味だな」
「だろ? 文句なしの特級品だ。これ以上の刀ぁ打てる気がしねぇ」
 
 とんでもない刀をもらったもんだ。こいつに見合う様な剣士にならないとな。
 
「さて、帰るか!」
 
 町に向かって帰ろうと、数歩進んだ時だった。
 
 ドォンッ!!
 
 凄まじい突風の様に、禍々しい魔力が背中を叩きつけた。体が前のめりに押し出されるほどの圧力だ。
 
「なんだよこの魔力……」
 
 俺は思わず息を呑んだ。
 
「そういやここ、封印の祠の辺りじゃねぇか……?」
 
 ヤンの声は震えている。
 
「これ、逃げたほうが良いよな……」
 
 そう思ったときにはもう遅かった。山中の木々が、不自然にへし曲がり、土が盛り上がり、巨大な影が姿を現す。
 
「おいおい……マジかよ……」
「実在するのかよこいつ……」
 
 八つの首に八つの尾。
 鱗に覆われた巨体が、大地を揺らしながら眼前に聳え立つ。神話の世界の化物が目の前に現れた。
 
「ヤマタノオロチだ……」
 
 八本の頭が、それぞれに意思を持ち、赤い瞳で俺達を視界に捉えて揺れている。その威圧感は、今までのどんな魔物とも比べ物にならない。
 
「やるしかねぇぞ! 気合い入れろ!」
 
 ヤンが咆哮する。
 
「全力で攻撃する! 守りは頼んだぞ!」
 
 ヤンは化物の正面に立つと、全身の練気を幅広の愛刀に注ぎ込み、盾のように構えた。
 
 グギャアァァァ!!
 
 八つの首が、それぞれ意思を持つかのように、地を抉る咆哮と共にヤンに降り注ぐ。
 
「うぉー!! シュエン、横から叩き斬れ!」
 
 言われるまでもなく、俺は新しい刀に渾身の力を込めて斬りかかる。
 
「キィーン!!」
 
 甲高い金属音が鳴り響き、刃が鱗に弾かれる。
 
「何だよこの硬さ!」
 
 普通に斬りかかったんじゃどうにもならない。更に精度を上げて気力を練り上げ、刀に纏わせる。刃を薄く、鋭く研ぎ澄ませる。
 
『剣技 乱れ氷刃みだれひょうじん
 
 練気で研ぎ澄ました刃を、無数に斬りつける連続攻撃。激しい金属音が鳴り響き、ようやく深手を負わせる。
 
「ギャァァァ!」
 
 オロチの悲鳴と共に、首を一本切り落とした。生々しい血飛沫が舞い上がる。
 
 よし! いける!
 と思った瞬間、オロチの巨体が唸りを上げ、八本の尾が鞭のように俺に襲いかかった。
 
「ぐぁっ!」
 
 強烈な衝撃が脇腹を打ち、吹き飛ばされた俺は岩に叩きつけられた。激痛に意識が飛びそうになる。
 ヤンは残り七本の首の猛攻で手一杯だ。近づけば八本の尾が飛んでくる。どうする……。
 
「ヤン! 十分……いや五分だけ持ちこたえれるか!?」
「言ってる間に早く練り上げろぉ! もう持たねぇぞ!」
 
 体中の気力。頭の先からつま先までの全気力を、残らず練り上げる。
 集中しろ……失敗すれば俺たちは死ぬ。
 ヤンが鍛え上げたこの刀を信じろ。薄く鋭く、全ての練気を刀に纏わせる。俺の全てをこの一撃に込める。今の俺が繰り出せる最高の一撃だ。
 
「ヤーン! 伏せろォォォー!!」
 
『剣技! 横薙一閃よこなぎいっせん!!』
 
 咆哮と共に放たれた全力渾身の横薙ぎの斬撃が、凄まじい風切音と共に、ヤマタノオロチの全ての首を瞬時に切り飛ばした。
 斬撃はそのまま後ろの柳の大木を両断し、岩山の奥深くに轟音と共に吸い込まれた。
 
「うぉぉ……すげぇ……」
 
 顔を上げたヤンが感嘆の声をあげた。
 
「ヤン、この刀の名前決めたよ」
 
 今の一撃で閃いた。
 
柳一文字やなぎいちもんじだ」
 
「……おいおい、柳の前にとんでもねぇもん斬ってるだろ……まぁお前らしいわ」
 
 二人で力尽きて倒れ込んだ。
 
「死ぬかと思った……気力切れだ」
「だな。良く生き残ったよ……気力吸い取りゃ良かったじゃねぇか」
「流石の俺も気力までは吸収できねーよ」
 
 こんな禍々しい魔力だ。誰も気づかない訳がない。父と兄二人が駆けつけて、目を丸くしてオロチの残骸と俺たちを見ていた。
 
「お主らがやったのか……?」
「貴方の息子と俺の刀が斬ったんですよ。里中に触れ回ってくださいよ……」
 
 そのまま二人で気を失った。

  
 ◆◆◆

  
 丸二日寝込んだらしい。全気力使い果たしたんだ。よく死ななかったもんだ。
 
「シュエン様、ご無事で何よりです。目覚め次第御前にと里長より言付かっております」
「あぁ、わかった。でもヤンが心配だ。その後に行くよ」
「かしこまりました。そのようにお伝え致します」
 
 二日も床に伏せていたからか、体がダルい。鍛冶屋街のヤンの鍛冶場に入ると、金属音が鳴り響いている。今日も元気に武具制作に勤しんでいるようだ。
 
「おいおい、お前鉄人だな……もう大丈夫なのか?」
「おぉ、生きてたか! 昨日ヤマタノオロチの体皮を持ち帰ってきてよ。すごいぞこいつぁ!」
 
 変態だなこいつは……。身の危険よりも創作欲が勝るらしい。
 
「体皮は大量にあるからな。とりあえずは革鎧と篭手と脛当てを作るか。当然お前の分もな、出来たら伝えるわ」 
「そりゃありがたい。相当な物が出来そうだな」
「これも見てみろよ。こんなもん見たことねぇよ」
「でかいな。確かにここまでデカいのは見たことない」
 
 拳大の『魔晶石』だ。小さい魔晶石ですら、通常の魔石とは比べ物にならない。長い年月で出来た幾重にも重なる層が、鍛冶場の灯りを蓄え発光しているようだ。
 
「そうだ、春雪はどうする?」
「あぁ、俺にとってもヤンにとっても思い出深い刀だ。でも、お前さえ良ければそのまま俺が持っておきたい」
「元々お前ぇに譲った刀だ。返せなんて言わねぇよ。最高の状態に研いでおくからまた取りに来いよ。柳一文字も手入れしとくから置いていけ」
「分かった。ありがとな」

 武具を扱う親友の横顔は、生き生きとしている。
 
「ヤン……」
「ん? なんだ?」
「いや、何でもない。お前が親友で良かったよ」
「何だよ気持ち悪ぃな」
 
 ヤンは照れ隠しにそう言って笑う。
 
「刀と防具はまた取りにくるよ」
「おう、楽しみにしとけよ!」
 
 柳一文字を手渡し、父の元へ向とかった。

  
 ◆◆◆

  
 龍王の御前。
 二人の兄、カイエン、コウエンが両脇に立っている。
 
「体はもう良いのか?」
「えぇ、二日も寝ていたようですから」
 
 心なしか、父の顔が優しく見える。
 
「封印が何故解けたのかは判らぬ。しかし、お主らが祠の前に居たお陰で里の危機は免れた」
「たまたまですよ。俺たちが一番驚いた」
「儂らがヤマタノオロチを封印したのは知っておろう」
「へ……? いや、存じませんでした。神話の化物が目の前に出てきて驚いたんですから」
「そうか、儂らですら封印するので精一杯であった化物をお主は斬り伏せた。お主らを認めざるを得ぬであろうな。なんぞ望みはあるか?」
 
 俺の心はもう決まっていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...