- Mix blood -

久悟

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第四章 魔人の過去編

ヴァロンティーヌ・シモン

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 通されたのは、バーの二階にある応接室だった。
 革張りのソファに、落ち着いた照明。壁に飾られた絵画一つとっても、この部屋の主のセンスの良さが滲み出ている。さすがは人気デザイナー、空間作りも一流ね。

「アナタの着てる服も良いわね、ラインが凄くキレイだわ」
「すごく褒めてくれるんだな。お前達も背が高いからよく似合っているよ。私が作る服のコンセプトは特にない。自分が着たいものを作ったら、勝手に売れただけだ」

 媚びない姿勢が潔くて好感が持てる。この素晴らしい洋服の美学についてもっと語り合いたいところだけれど、ファッションに興味のない無粋な男が割り込んできた。

「お近づきのしるしにワインでも飲もう。赤ワインがいいな。美しいキミを見つめながら芳醇な香りを楽しみたい」
「わかったよ、用意させよう。銘柄は何でもいいね?」
「あぁ、一番高いヤツをくれ。キミの様な美しいレディに、安いワインは似合わないからね」

 アレクサンドが歯の浮くような世辞を並べるけど、ヴァロンティーヌには全く響いていない様子だ。彼女は呆れたように呼鈴を鳴らし、店員にワインを持ってこさせた。

「遠慮なく頂くよ、会計は下でしてくれ」
「あぁ、構わない。ボク達の出会いに、乾杯」

 グラスを軽く上げて口をつける。
 美味しい。重厚な渋みと果実味のバランスが絶妙だわ。

「で、仙人のお前は分かる。そっちの男は仙族だね? だが、赤髪のお前の魔力は何だ……? 魔族というのはそんなに魔力が多いのか?」
 
 ヴァロンティーヌの鋭い視線がワタシを射抜く。

「あぁ、自己紹介をしてなかったね。ボクはアレクサンドだ、アレクと呼んでくれ」
「わたくしはサラン、あなたの洋服のファンの一人ですわ」
「ワタシはマモン。魔族と人族のミックス・ブラッドよ。それが魔力の多さの理由ね」

「……なるほどね。魔族に会った事が無いから気になったんだ」

 彼女は納得したように頷いた。

「アナタは昇化してるのね。 あいつら三人を一瞬で倒すなんて、相当な手練れとお見受けするわ」
「普通に客として来るには構わないんだけどな。バックにあいつらが居るからって、調子に乗る奴は多いんだ」
「まぁ、ワタシも絡まれたしね。わざと一人逃がして仕返しを待ってるのに、全然来ないのよ。その『三連符トリプレット』って何なの?」

 ヴァロンティーヌはこの店のオーナーであり、「レパーデス」という組織のボスだと言っていた。敵対組織なのは間違いない。

「『三連符』はマルフザン三兄妹がトップの組織だ。長兄ガスパール・マルフザンを筆頭に、三つ子が支配している」
「三つ子か、それでトリプレットね。ワタシに絡んできたヤツや今日のヤツらを見ても、統制が取れてる組織じゃなさそうね」
「あぁ……そこら中で下っ端がトラブルを起こす。本当に迷惑してるんだよ」
 
 ヴァロンティーヌの話によると、レトルコメルスには二大マフィアが長く君臨しているようだ。
 彼女が率いる『女豹レパーデス』と、もう一つ『蛇神の王ナーガラージャ』。

「私達とナーガラージャはナワバリが違うんだ。レトルコメルスには主に二つの繁華街がある。だから奴らとの抗争は今まで無かった。上手く住み分けが出来ているんだよ」
「そこに出てきたのが、新興勢力のトリプレットって事ですわね?」
 
「あぁ、二つのマフィアのナワバリに被るように組織を拡大している。いきなりこの街に現れて、どんどん力をつけてきた。まぁ、私達もかつて抗争によってこの街の古いマフィアを壊滅させた身だからね。奴らの存在自体をとやかく言うつもりは無いが、奴らのやり方が気に食わん」
「やり方?」

 ヴァロンティーヌはワイングラスを回し、紅い液体を見つめながら言葉を続けた。

「あぁ、私達の組織に入るには信頼が必要だ。誰でも入れる訳じゃないから自然に結束が生まれるし、裏切りもそうそう起こらない。だが奴らは違う、来る者拒まずだ。頭数が膨れ上がって統制が効かなくなっている。今日のように、下っ端が自分の組織の看板の重さも分からず暴れ回ってるのが現状だよ」

 普通は敵対組織のボスが経営している店に出入りして暴れたりはしない。そもそも、ここが誰の店かも知らされていないのだろう。組織としてお粗末だわ。

「ワタシはさっきも言ったけど、トリプレットとか言う組織が仕返ししてくるのを待ってたの。構成員に暴言を吐かれたからね。アイツらを殺したくらいじゃ腹の虫がおさまらないわ」
「まぁ、下っ端がやられたくらいじゃ上は動かないだろうな……恐らく、報告すら上がっていないはずだ。私もどうにかしたいと思っているよ。ナーガラージャも同じだろうけどね」

 ワタシとサランはヴァロンティーヌのデザインする服と生き様に惹かれている。アレクサンドは彼女の美しさに心を奪われている様だ。彼がここまで真剣な目をするのは珍しい。
 利害と興味が一致したわね。

「ねぇ、ヴァロンティーヌ。ワタシ達を組織に入れる気は無い? トリプレットを壊滅させたいなら手伝うわよ? 手伝うというか、ワタシは個人的に腹の虫をおさめたいだけなんだけどね。この町に何年いるかは分からないけど」

 ヴァロンティーヌが目を丸くした。

「……なんだと? 何のメリットがあってそんな事を」
「ワタシ達は基本的にヒマなの、刺激を求めてるだけよ。メリットがあるとしたら、好きなデザイナーの近くにいられる事かしらね」

 ヴァロンティーヌは三人の顔を、交互に値踏みするようにじっと見つめた。それはそうだろう、正体不明の三人が突然押しかけて、仲間に入れて欲しいと言っている。警戒して当然ね。

「……まぁ、嘘を言って無いのは分かるよ。だが、私達の組織は一枚岩だ。互いの信頼と規律を一番に考えている。入るなら、一番下っ端からになるぞ? 実力があるからといって特別扱いはしない。無理に敬語を使えとは言わないけどね」
「えぇ、勿論よ。アナタの部下なら退屈しなさそうだしね」

 こうして、ワタシ達三人は『女豹レパーデス』の構成員になった。

「この店のオーナーは私だ。店の名前は入口に掲げてる通り『レオパルド』。私は基本的には三階の自室かアトリエに居る。この店の二階から上がレパーデスのアジト兼事務所だ」
「ボク達はこの近くのホテルに長期滞在するつもりで宿泊している。他の構成員はどこに住んでるんだ?」
「ここに住み込みで世話してる奴もいるし、外に居を構えてる奴もいる。その辺は好きにすればいい」
 
「分かったわボス、何でも命令してね。人の下に付くなんて初めてだわ。なんだかワクワクするわね」
「ボクは国にいた頃以来だな。こんなに美しいボスなら、いくらでも言うことを聞くよ」
「わたくしもボスのセンスを吸収したいですわ。身の回りのお世話をさせて頂きたいですわね」

 ヴァロンティーヌの部屋は、二階から専用階段を登った三階にあるらしい。デザインした服を縫製するアトリエもそこにあるそうだ。
 この建物は五階建てだ。普通、組織のボスともなると一番上の階に部屋を作りそうなものだけど、下の店の様子をよく見に行くのと、服の材料の搬入が面倒臭い事から中間の階に部屋を作ったらしい。合理的ね。

「じゃあ、ワタシ達は今日は帰るわね。楽しかったわ、ボス」
「随分と横柄な部下だな……まぁいい、頼りにしてるよ。戦わなくても強いのは分かるからね」

 ヴァロンティーヌに見送られ、ワタシ達はホテルに帰って休んだ。
 明日からは下っ端生活の始まりだ。どんな刺激が待っているのか、楽しみだわ。
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