- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

悪魔族の戦闘法

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【魔都 シルヴァニア城】

「……という事で、ファーヴニルを倒してアザゼル達にワタシが魔王を名乗る事を認めてもらったわ」
「あのアザゼル殿とラミア殿か。リリスへの警戒からこちらに来る事は絶えて久しいが……ついにあの町との交流が再開できるのか」

 ワタシの報告を聞き、長兄ベアルが感慨深げに頷く。
 金の採掘も彼らと相談の上で取り掛かろうという話になり、会議は建設的な空気に包まれていた。
 
 ファーヴニル討伐から戻り、一日ゆっくり休んで英気を養った後、ワタシ達は幹部を集めて今後の方針について話し合っていた。
 ……ちなみに、食事をしながらの会議はもうやめた。理由は言うまでも無いわね。

「グラシエルから数人こちらに派遣されるという事だ。それを待って軍事演習をしよう。ルシフェルもまだ万全ではないだろうし、皆で他種族の戦闘法を教え合うのがいい」
「そうね。魔都の戦士全員が戦闘力を底上げしないと話にならないわ。向こうの人族は潜在能力が低いと言っても数が桁違いに多い。しかも、練気術をレクチャーされていると見ていいわ。戦力が跳ね上がってるはずよ」

 その時、紅茶をズルズルと音を立ててすすっていたルシフェルが、不意に口を開いた。

「なぁ、前にオレ様の『魔術』と『天魔剣術』の説明したよな?」
「えぇ、闘気に魔力を混ぜ込んで扱うって言ってたわね」
 
「その事だが、あれは簡単に言えばそういう事だと付け加えたのを覚えてるか? 移動中に詳しく話しても意味がねぇと思って言わなかったが……」

 ルシフェルが意味ありげな表情を浮かべた瞬間、メイドが山盛りのポテトチップスを運んできた。
 彼の目が輝き、話が中断した。

 ……あの嬉しそうな顔。こうなったらダメね。少し待つしかないわ。
 バリボリと響く音が部屋の静寂を壊す。全員が生暖かい目で見守る中、皿が空になるのを待った。

「で? 何かいい話?」

 満足げに指を舐めるルシフェルに、ワタシは改めて問いかけた。

「あぁ。魔術で扱うのは魔力には違いないが、変質させて扱う。悪魔族はそれを『咒力じゅりょく』と呼んでる」

 ……咒力。聞いたことも無い言葉だわ。
 見回しても、ここにいる誰もが初耳のようだ。

「で、それはキミしか扱えなければここで言う必要はないが?」

 アレクサンドが核心を突く。

「あぁ。だが、神族も扱うことが出来たから、テメェらも問題なく習得は可能だとは思うぜ。……ま、難易度はかなり高ぇがな」
「その咒力を習得出来れば、闘気を扱えなくてもかなりパワーアップしそうね。そんな話聞いたらウズウズしてきたわ。今から外に行かない?」

 全員が頷いた。
 皆、自身のスキルアップには貪欲だ。準備をしてルシフェルの教えを乞う事になった。

 城郭都市を出て手頃な森に向かい、ルシフェルのレクチャーを受ける。

「さっきも言ったが、咒力への変質は難易度が高ぇ。まず言葉で説明するのが難しい……どう言えばいいか……『ガァ――ッ!』って感じだな」

 ルシフェルは両腕で空気を激しく掻き回すようなジェスチャーをした。
 ……サッパリ分からないわ。

「ルシフェル、前に自然エネルギーの扱い方をアナタの脳裏に写したわよね?」
「あぁ、あれは分かりやすかったな」
「アナタの『咒力』の感覚の記憶を貰えない? その方が手っ取り早いわ」
「あぁ、別に構わねぇが」

 許可を得てルシフェルの頭上に掌を乗せる。
 彼は人に何かを教えるのが致命的に下手らしいから、感覚ごと貰っておくのが一番ね。

「……なるほどね。記憶を貰っても、いまいちピンとこないわ……。まぁ、皆にも写すわね」

 ワタシは得た感覚を皆に共有し、実践に移る。

「これは……確かに難易度が高そうだな」
「あぁ、本家の悪魔族でも皆が出来る訳じゃねぇからな」

 皆が目を閉じ、試行錯誤して理解しようと試みている。
 その時、ベアルが何かに気が付いたように目を開いた。

「……あぁ、ルシフェルのさっきのジェスチャーは『ミキサー』じゃないか? 君はこの間、メイドがフルーツジュースを作っているのを熱心に見ていたな?」

「それだ!」

 ルシフェルがポンと手を叩いた。

「あれはミキサーって言うのか。そのイメージだな」
「なるほどね、身体の中の魔力を勢い良く掻き混ぜるイメージか。もっと言えば、魔力の粒を砕いて均一にするって感じかな」
「それよ、魔力の粒子の均一化だわ。言葉で言うのは簡単だけど、確かに高難度だわ」

 
 それから半日、体内で魔力を掻き混ぜ続けた。
 魔力を体外に放出する訳じゃないから、魔力の消費は無い。けど、精神的な疲労が凄まじい。これはかなり難しいわね。

「一日で習得するのはさすがに無理だ。オレ様も練気術の空中歩行を頑張ろう」

 ルシフェルも苦戦しているようだ。
 城に帰る時も、シャワーを浴びる時も、食事の時も寝る時も、ワタシは体内で魔力を掻き混ぜ続けた。無闇に混ぜるだけではダメ。意識して魔力の粒子を細かくし、更に均一化するイメージを保ち続ける。
 体は何もしていないのに、泥のように疲れている。ベッドに入ると、そのまま気絶するように眠りに落ちた。

 
 ◇◇◇

 
 翌朝。朝食を皆で食べるのはすっかり日課になっていた。思ってる以上に、ワタシ達は仲間意識が強いのかもしれないわね。

「鬼国側には『ヤトノカミ』っていう魔物がいるって言ってたわよね? そこに行けば、間違いなく悪鬼ラセツの思念が見られるわね」
「そうだろうな。また同じような恨み節を聞かされるだろうけどね」

 アレクサンドが肩をすくめる。
 あれを見にわざわざファーヴニルクラスの魔物を倒しに行く必要があるのかどうか。自分の力試しはファーヴニル戦で十分事足りた気もする。

 ……あぁ、力試しか。

「じゃあ、こうしない? ワタシ達が咒力を、ルシフェルが練気の空中歩行を習得出来たら、その成果を試すためにヤトノカミを倒しに行くの」
「そうだな、ボクは賛成だよ。今のところ全く掴めないけどね」
「オレ様は文句ねぇ! もっと強くなってやる」

 皆口々に賛成の意を表した。

「じゃあ、当面の目標はヤトノカミ討伐ね。数日内にグラシエルから派遣が来るし、それまでは修練に励みましょう」

  
 テンはまだ魔力が不安定なため、ワタシの近くにいさせることにした。ベンケイは軍事演習の準備の為、シルヴァニア城に滞在している。
 北の鬼族の町づくりは順調に進んでいるらしい。山や森が近く木材が豊富であるのと、彼らは元々建造技術がある者が多い為だ。さらにその大きな体躯が作業効率を大幅に上げている。もう体躯の大小で差別をする者もいない、皆の関係は良好だ。

「ベンケイ爺さんも咒力の習得はして欲しいわね。鬼族の更なる戦力アップが望めそうだわ」
「うむ、この老いぼれもまだまだ鬼族に尽力せねばならん。ワシも参加させてもらおう」

 
 ◇◇◇

 
 次の日の昼前、グラシエルからの派遣団が到着した。その姿を見て、ワタシは目を丸くした。

「あら、アザゼルさんとラミアさん自ら来たのね」
「あぁ。久しぶりにシルヴァニア城を見たくなってな。それに、新たな戦闘法を学べるのに屋敷でじっとしているのも性に合わん。俺達はまだまだ現役だ」
「そうね、いつまでも若者には負けていられないもの」

 二人はそれぞれ十人程の精鋭を連れて来た。
 魔族の重鎮二人の登城に、シルヴァニア城は蜂の巣を突っついたような大騒ぎになった。急遽、歓迎の宴が開かれる事になった。

 城内の大ホールでの立食パーティー。
 色々な人と話せる様に配慮した形式だ。三兄弟も、アザゼル達とは相当久しぶりに顔を合わせるようだ。

 長兄ベアルが会を仕切る。

「アザゼル殿とラミア殿が、およそ千年振りにシルヴァニア城にお越しになられた。今まで魔族の為に尽力なされたお二人に、暗君リリスのいないこの城を、心ゆくまで楽しんで頂きたい」

 ベアルがグラスを掲げると、皆もグラスを持ち上げた。宴会が始まり、すぐに久々に会う魔族達の歓談の花が咲いた。

 ……いい光景ね。
 
 ワタシがいた頃でも、皆がこんなに笑顔でグラスを傾けている姿なんて見たことがない。アスタロスが落ちて以来の暗黒の千年を、これから取り戻していく必要がある。
 良くも悪くも、暗君リリスのお陰で重税と引き換えに魔導技術だけは発展した。千年間発展し続けた人族の世と比べればまだ劣るけれど、素地はあるわ。

「早速明日から軍事演習を開始するわね」
「あぁ、それでいい。こんな会まで開いてもらって悪いな」

 アザゼルが満足げに頷く。

「ねぇベアル兄さん、いつも軍事演習ってどこでしてたの?」

 アザゼルとラミアに挨拶を済ませたベアルに問い掛ける。

「あぁ、城郭の外に広大な演習場がある。いつから使っていないのか覚えてもいないけどね。最近整備させたから、各部隊には伝達済みだ」
「あぁ、最近綺麗にしてたあの平地ね。あれが演習場なのね、分かったわ」

 政治的な事は長兄ベアルに、軍事的な事はその下の二人の兄に任せっきりだ。餅は餅屋ね。
 まずは城内の軍の進捗状況の確認と、グラシエルの人達に仙術等をレクチャーする事から始めよう。
 その後は咒力の説明だ。これは持ち帰って習得して貰う他ない。何せ、まだワタシ達自身も習得できていないのだから。

 明日からは再び、魔族を一つにするための軍事演習が始まる。退屈しなくて済みそうだわ。
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