【完結】ミックス・ブラッド ～異種族間の混血児は魔力が多め？～

序章 旅立ち

交易都市レトルコメルス

　レトルコメルス。
　
　北西へ進めばウェザブール王都、東西南北に街道を伸ばす交易都市として賑わっている大都市だ。
　周りを城壁が囲んでいる。入口の門に関所が設けられ、とんでもない列が出来ている。小さい町には見られないが、こういう大都市には検問があるようだ。ウェザブール王国内でも検問があるのは王都と、ここレトルコメルスだけらしい。

「え、これに並ぶのか……？」
「いや、大体冒険者と通行手形所持者用のゲートがあるはずなんだけどね」

　見渡すと、少し人がいる門がある。多分あれだ。
　冒険者の証明カードを見せると難なく入れた。思った以上に効力があるんだな。

　門をくぐると、見たことの無い大都市が目の前に広がっている。
　綺麗に整備された道、ガラス張りのショーウインドウ、階数の高い建物がズラリ。道行く人の華美な服装がこの街の豊かさを物語っている。

「多数決を取る！　まず何がしたい？　せーのっ！」
「「「風呂ー！」」」

　初めて三人の意見が合ったかもしれない。
　エミリーがギャンブルより風呂を選んだ。何せ一週間お湯を使っていない。

「もうすぐ夕方だし、先ずは宿を決めよう」
「ちょっといい所に泊まろうよ！　身体が痛い……」
「よし、とりあえず三泊くらい抑えようか」

　一週間ぶりのまともな寝床だ。
　一週間くらいゆっくりしたい所だが、とりあえず三泊で……。

　
　街のメインストリートを歩く。
　商人風や冒険者風の人達が多く見受けられる。貴族だろうか、明らかに身なりの良い人もちらほら歩いている。
　
　高級そうなホテルにチェックインした。金はある、無くなればギルドの依頼をこなせばいい。
　ホテル内に温浴施設があり、目の前にいい感じの酒場がある。

「風呂上がったら前の酒場に集合な！」
　

　各自の部屋に別れ、着替えを用意して風呂に向かった。　

　武具はとりあえず部屋に置いてきた。高級ホテルだけあってセキュリティは万全だ。
　今の衣服が臭いのは風呂場までの我慢。洗い場で一週間分の垢を落とし、大きな湯船に浸かる。極楽とはこの事か……。
　そこで、トーマスがある物を見つける。

「ユーゴ、見てよ。サウナがあるよ」
「サウナ？　何それ？」
「僕の出身は北の方で、標高が高くて寒いでしょ？　小部屋に石を熱して、それに水をかけて暖まる蒸風呂が一般的なんだよ」

　何それ、入ってみたい。
　二人でサウナとやらに入る。
　なるほど、すごく暑い。

「ストーブの上に石が置いてあるでしょ？　これに水をかけたら、蒸気が上から降ってくるんだ」

　そう言ってトーマスが石に水をかける。
　
『ジョワァァァ……』
　
「うおー！　凄いなこれ！　汗が吹き出してくる！」
「石なら何でも良いわけじゃ無いんだ。火成岩の類が最適だね」

　たっぷり汗をかいて外に出た。

「なるほど、この辺りは寒くないから水に浸かるんだね」

　二人で水風呂に浸かる。
　冷たい！　が、徐々に暖かくなってくる。

「凄いな。不思議な感覚だ」
「僕もこの感覚は初めてだ」

　不思議だ。あれだけ水に浸かったのにポカポカしている。暑い……。
　その後、椅子で休憩する。

「おいおい、どうにかなりそうだ……」
「確かに……気持ちいいねこれは……」
　
　
　
　サウナを存分に楽しんで酒場に向かう。
　まだエミリーは来ていない。

「オレらだいぶゆっくりしたつもりだったけど、エミリーまだ入ってんのか？」
「久しぶり過ぎてのぼせてないだろうね……」

　とりあえず、風呂上がりのビールで乾杯する。
　はぁ……美味い……。
　一杯飲み干した時、エミリーが上がってきた。

「ちょっと！　あのサウナってのヤバいね！　ハマっちゃうよ！」
「おぉ、エミリーもか！　あれは凄いよな！」
「僕の故郷の文化が広がってるのは単純に嬉しいね。明日も入ろうよ」

　流石は交易都市、王国内の様々な文化が楽しめる。色々なお酒、食材、これは楽しい夜になりそうだ。

「食った飲んだ……さぁ、みんなこれからどうする？」
「私は勿論カジノだよ！　一週間我慢したんだからね！」
「なるほど、カジノがあるのか。健闘を祈るよ」

　エミリーは上機嫌で酒場を出ていった。
　こんな大都市で女の子一人は普通は危ないが、エミリーに関しては心配ない。
　暴漢の方が心配だ。

「さて、トーマス君、久々におねぇちゃんのとこに飲みに行かないかい？」
「ユーゴ、意外とそういう所好きなんだよね……いいよ、今夜は付き合うよ」

　この街に着いたときからそうだった。
　オレは浮かれていた。
　

　◇◇◇
　

　酒場から少し歩いたところに、繁華街が広がっている。聞いた話では、レトルコメルスには大きく分けて二つの繁華街があるらしい。ここは東の繁華街『ソレムニー・アベニュー』だ。メインストリートでは綺麗なお姉さんの呼び込みで賑わっている。ゴルドホークでは見たことが無いきらびやかな街。

「お兄さん達、この先のお店なんだけど、少しご一緒しません？」

　綺麗なお姉さん二人が声をかけてきた。二人共整った顔立ち、胸には見事に実った二つの膨らみ。すっごく好みだ。

「行きます！」
「ほんとに？　すぐそこの店なの。行きましょ！」

　そう言ってお姉さんはオレ達の腕に抱きついた。大きな胸が肘に当たっている。自然と頬がほころぶ。


　店に入る前からもう楽しい。
　黒服がドアを開け、案内されたボックス席に四人で座った。

「何飲みますか？」
「オレはウイスキーの水割りにしようかな！」

　ニコッと笑った顔が美しい……お姉さんは少し前屈みになって水割りを作っている。大きな胸の谷間を眺めながらそれを待つ。
　グラスが皆に渡った。

「んじゃ、カンパーイ！」

　四人でグラスを合わせ、それぞれの時間を隣のお姉さんと過ごす。

「お兄さん、この辺の人じゃ無いですよね？　黒髪の人、初めて見たもん」
「うん、冒険者」
「結構高ランクだったりして？」
「こう見えてＡランクなんだ」
「え！？　若いのにすごーい！　どれくらいここにいるの？」
「とりあえず、三泊の予定」
「じゃ、また会えるね！」
「うん、いっぱい飲んでよ！」
「ホントに？　じゃ、いただきまーす！」
「名前は？　オレはユーゴ」
「ユーゴ君ね！　私はエマ。よろしくね」

　上機嫌でお酒を飲みまくった。
　オレは、隣に座るグラマーなお姉さんに夢中だ。
　トーマスもなんだかんだ楽しそうだ。
　
（ユーゴ君のホテルに行ってもいい？）

　エマちゃんが耳打ちしてきた。
　キタキタ。
　
（オレ、結構いいホテル取ってるんだよ。今から行こっか）
（うん、行こ……）

　交渉は成立した。
　トーマスも楽しむだろう。
　俺達は店を後にした。