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第一章 リーベン島編
三人の英雄
しおりを挟むここは『ヤマト龍国』
龍王クリカラが治める龍族の国だ。この大陸は蝶の羽のように広がっている。
龍国は、蝶の羽の左下部分に位置する。
左上は、鬼族の『鬼国ソウジャ』
右上は、魔族の『魔都シルヴァニア』
右下は、仙族の『仙神国オーベルフォール』
始祖四王が睨み合い、四つの国の均衡が保たれている。大規模な大戦により各国は疲弊していた。
その為、各国の王により百年の休戦協定が結ばれた。
我が国は今のこの停戦中に国力を蓄えていた。国民の戦力増強、武具の整備だ。
私はこの休戦中に生まれ、今15歳になる。龍王クリカラの次女として生まれ、術の教育を受けている。私の師匠は長女のメイリン・フェイロック。この国一番の回復術師だ。
「姉さん、リンドウ兄さんが刀くれたんだけど、私は回復術師なのになんで刀を振らないといけない?」
「メイファ、攻撃役が倒れたら誰が敵を倒すの? あなたが倒れても同じ。誰が味方を治すの? 誰があなたを治すの?」
「……あ、そうか」
「そう、生存率の話なの。刀で敵を斬らなければ、自分で自分の身を守れなければ、自分で傷を癒せなければ、全て出来なければ自分の身も味方も守れない。父様が今しようとしてる事はそういう事」
「だから私も刀を貰ったのか」
「そう、あなたは私の弟子。だから全部教えてあげる。リンドウ兄様の刀凄いんだから。一生使えるよ」
父クリカラは、国民の戦力の増強策として国民全員が全ての術を使えるよう指導していた。
普通は、攻撃役、盾役、回復補助役が決まっている。父はその常識を取っ払い、国民の生存率を上げようとした。父は国民の死を誰よりも愁嘆した。
誰も死ぬことは許さぬ。その現れがこの国力増強策だった。
ここは屋敷の庭。
父の側近は長男フドウと次男リンドウ。いつも三人で国の事を話し合っていた。
私もたまに、この三人のところに遊びに行っていた。父の教育だ、色んな話を聞かせようとしていたらしい。
「リンドウよ、武具の作成は順調か?」
「まぁねぇ、弟子総動員で作ってるけど、刀はまぁ、できるっしょ。でも防具が微妙。格が高い魔物の皮がもっと欲しいな」
「そうか、では用意させよう。フドウ、お主は最近何をふらふらしておる」
「……ふらふらとは失敬だな。親父殿、オレすげぇ術編み出したよ」
「どんな術だ」
「普通、刀に気力纏うだろ? あれ凄く気力消費すんだよ。だから、気力を変質させてみたんだ」
「変質だと? どのように」
「そのまま気力を纏うんじゃなく、一度気力を体内で練り込んで留めとく。それを小出しで使うんだ。気力の節約のために編み出したんだけど、それが思わぬ結果を生み出したんだよ」
「思わぬ結果とは?」
「刀に纏うと、とんでもねぇ斬れ味になったんだ。まぁやってみるわ」
フドウ兄さんは刀に気力を纏った。らしい。
「おい、ふざけておるのか? はやくやって見せぬか」
「いや、信じられねぇだろ? これで気力纏ってんだよ」
「兄さん、そりゃないっしょ。じゃ、何か切ってみてくれ」
フドウ兄さんは、近くの岩に刀を乗せた。
刀はスーッと岩に吸い込まれた。
「なにっ!?」
「なんで!?」
「なっ? すげぇだろ?」
「この斬れ味で、気力の消費量は大幅削減。使わない手は無いね。気を練って使うから『練気術』ってのはどうだ?」
「確かに凄い。けど、兄さんしか出来なかったら意味ないっしょ」
「じゃ、親父殿、やってみてくれ。例えば、そうだな……回復術を対象に纏う時、気力を回復魔力に練り込むだろ? あれを身体の中で、気力のみ練るんだよ」
父さんが立ち上がって集中してる。
「そうそう、それを右手にでも集めてみな」
「おぉ、成る程な。これは凄い」
「俺もやってみよっかね」
リンドウ兄さんもただ立ってる。私には何をしてるのか分からない。
「おぉ……すごいなこれ!」
「そうそう、それを刀に更に練り込むんだよ。その後、刀に薄く纏うんだ」
「これはなかなか難易度が高いの……」
「この練気術で、岩蜥蜴がバッサリ斬れたよ。あれの体皮は防具にいいだろ? 普通はあんなもん斬れねぇからな」
「ほう、あれを斬ったか……おい、メイファ! お主はリンファとメイリンを呼んで来い! あと、各部隊長を修練場に集めよ!
私はいつもお遣い役。
父の言う通り皆を集めた。
◆◆◆
「アンタ、いきなり皆を集めるなんて何かあったのかい?」
リンファ母さんはこの国の参謀だ。
全ての術に精通しているが、突出して頭が良い。他国の情報収集、作戦の立案、隊の編成。軍事を総括するこの国の頭脳だ。
「あぁ、フドウが素晴らしい術を生み出しおった」
「へぇ、それを皆に習得させる気かい?」
「うむ、ではフドウ頼む」
兄さんは国の幹部、部隊長の前で練気術を披露した。
「確かに、皆ができたら凄い事になるな」
皆から感嘆の声が上がった。
「皆、聞いてくれ! この『練気術』は武具に纏うだけじゃねぇんだ。回復術や補助術、魔法にも使えねぇかと思ってる。それができれば、この国の戦闘方法は大きく変わる!」
「なるほどの。メイリン、回復術に組み込めるか? 」
「そうですね、練気の術に回復魔力を入れれば何とかなりそうです。補助術も効果があがりそう。持ち帰って研究します」
「これはやるしかないっしょ。守護術が別物になる」
「オレはこいつを魔法に組み込んでみる」
「こりゃ、色々ひっくり返るねぇ。作戦や隊の編成、組み直さないとね。忙しくなるよ!」
皆が持ち帰って、練気術を研究する事になった。
「メイファ、これは回復術が変わるよ」
私はメイリン姉さんの所で新術の研究に参加している。
「練気術に回復魔力を組み込めば完成ね。でも、それが凄く難しいの」
「姉さん、フドウ兄さんは刀に練気を纏う前に、刀に練り込むって言ってたんだ。練気に魔力を練り込む様な感じじゃないか?」
「なるほどね。練気術の基礎は、練る事ね」
姉さんはそれで掴んだ。
数ヶ月で術は完成した。
回復術の上位術『治療術』として。
補助術も新たに『強化術』として、龍族の戦闘力を大幅に上げた。
◆◆◆
それから十年後、練気術は龍族を大きく変えた。
刀本来の斬れ味を更に鋭くし、治療術と強化術で怪我を減らした。
守護術はさらに強固になり、魔法は遁術に置き換わり、魔力の消費量を減らした。
個人の戦闘能力の向上は、武具の材料の調達を容易にした。およそ五年で全ての戦士の武具を一新した。
「龍王様、鬼族に不穏な動きがあります」
今年で停戦から百年。
父の元に斥候から報告があった。
我が国は大陸の左下。
東の仙神国とは、南北に伸びる『パラメオント山脈』で仕切られている。
山脈の最南端と海の間に陸路があるが、軍を通す程広くはない。その為戦闘にはならず、龍族と仙族は比較的友好関係にあった。
龍族は主に北の鬼族と、仙族は魔族と交戦していた。
鬼族は、我々龍族よりもかなり大きい種族だ。男の龍族二人分程の個体も存在する。そして額の角が特徴的だ。
異常なまでの体力と力に、龍族は手こずっていた。
それも以前までの話。
これから龍族の反撃が始まる。
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