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第三章 新魔王誕生編

オルトロス討伐

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「パラメオント山脈に連なる『アズガルシス山』で採れる鋼の質がすこぶる良くてな。ここの産業の一つだった」
「だった? 今は採れないの?」
「いや、採れる……が、20年ほど前になるか、アズガルシス山にとんでもねぇ魔物が住み着いたんだ。双頭の犬の魔物『オルトロス』がな。タチの悪ぃ事に坑道に住み着きやがった」

 それを倒せば最高の防具が手に入りそうね。
 でも、SSランクを超える魔物だろう。

「その鋼で作った合金はないのか?」
「あるよ、小さいけどな」

 そう言って主人は奥から一枚の金属板を持ってきた。

「ほぉ……これは見事だね。ここに並んでるどの防具よりも上質だ」
「アナタの国にも無かったの?」
「うちの加工金属もかなり頑丈だからね。でも良い金属はあったな……あぁ! アズガルシス鋼か! 思い出したよ。入手難易度が高すぎて出回らない金属だと聞いたが」

「……あぁ、オルトロスが住み着く以前からアズガルシス鋼の入手難易度は高い。まず、あの山にはSランクの犬の魔物『ヘルハウンド』が住み着いてる。一匹や二匹じゃねぇ」

 それじゃあ、普通は無理ね……。

「まず、アズガルシス鋼を入手するには、鉱夫に採掘を依頼しなきゃならねぇ。そいつらを守る戦士も必要だ。普通は防具が欲しい冒険者が鉱夫に依頼するが、ほとんどがヘルハウンドに食い尽くされて全滅だ。だから鉱夫が行きたがらねぇ。そもそも採掘する者がいねぇんだ」

「……そりゃ難易度が高いな」
「オルトロスを討伐して、ヘルハウンドを数頭仕留めて帰ったら鉱夫達の信頼は得られるかしら? SSランクの冒険者な訳だし」
「あぁ、SSの冒険者なら安心だ。普通は最初に遭遇したヘルハウンドを討伐させて、冒険者の実力を見てから坑道に向かう。じゃねぇと、見ず知らずの冒険者に命は預けられん」

 まずはオルトロスの討伐ね。

「どう? 二人共。アズガルシス鋼の防具、欲しくない?」
「あぁ、ボクは欲しい。かなり良い物ができるのは間違いない」
「わたくしの防具の質も跳ね上がりますわね」
「じゃ、ご主人、オルトロスを討伐したら、鉱夫を紹介して貰えるかしら? あと、加工と防具作成はアナタに任せるわ」

「……本当に行くのか? あぁ、俺に任せてくれ。弟子達にも見せてやらねぇと後世に伝えられねぇ。武具の整備は明日の朝までにしとくよ」

 オルトロス討伐は明日だ。
 さすがのアレクサンドも女漁りには行かなかった。
 ゆっくり身体を休めよう。


 ◆◆◆


「おはよう二人とも」

 アレクサンドとサランは既に朝食を食べている。

「あぁ、おはよう」
「おはようございます。調子はいかが?」
「えぇ、よく眠れたわ」

 朝食にもソーセージ。
 パンによく合う。

「昨日の鍛冶屋の主人、昇化してたわね。武具作成の他に剣術も使うのかしら?」
「いや、何も武に秀でた者だけが昇化するわけじゃないよ。常人が出来ない様な努力をして、その道を極める程に打ち込んだ者が稀に昇化するんだ。学問や武具作成等で昇化する者もいる」
「そうなのね、今まで会った仙人は皆ある程度強かったからてっきりね」
「例えば、学問を極めて昇化した者が修練して剣士や術師になる事もあれば、そのまま学問の道を更に突き進む者もいる。全ての仙人が武に秀でてる訳ではないね」

 なるほどね。
 昇化するほど武具作成に打ち込んだあの主人はかなり腕が良さそうだ。信頼して良さそうね。
 
「さて、行こうか。まずは武具を取りに行って、ギルドだね」

 
 少し歩いて鍛冶屋に着いた。

「おう、出来てるぞ。久しぶりに特級品の武器を触ったよ」
「ほぉ、これは見事だね。さすが昇化するほどの鍛冶師だ、腕が良い」

 剣が光っている。

「あぁ、鍛冶仕事に人生を捧げてるからな。60過ぎた頃だったかな、いきなり眼が緑色になって驚いた。武器を打つのに槌に気力を纏うからな、気力量が増えたのが一番嬉しかったよ」

 主人は50歳前後に見える。昇化すると若返ると言う話は本当らしい。

「ありがとね、行ってくるわ。鉱夫の件、頼んだわよ」
「おう、任せとけ」

 整備のお金を支払ってギルドへ向かう。


「なかなか賑わってますわね」
「えぇ、パラメオント山脈が近いと、魔物の討伐依頼も多そうね」

 依頼を確認する。
 一番目につくところにオルトロスの依頼書がある。相当討伐して欲しいらしい。

「これね、やっぱりSSランクよね」
「サランもSSランクに昇級できるし、防具も良くなる。いい事ずくめじゃないか」

 オルトロスとヘルハウンドの依頼書を持ってカウンターに行く。

「おぉ、オルトロス討伐の受付は久しぶりだな。たったの三人で行くのか?」
「三人パーティなもんでね」
「そうか……気をつけてな! 討伐したら領主んとこに行ってくれ!」

 アズガルシス山は、歩けば少し距離があるが浮遊術ですぐの所だ。
 昼までには帰れるだろう。


 ひとっ飛びでアズガルシス山に着いた。

「そこまで高い山じゃないのね」
「あぁ、ここにいても魔力を感じるな」
「ヘルハウンドを狩りながら登る? 飛んで現地まで行く?」
「一頭だけわたくしに狩らせてくださる? SSランクに挑戦できるかの確認ですわ」
「サランは回復役だぞ? まぁ、Sランクを一人で倒せれば文句なしのSSだろうな」

 前方にはヘルハウンドが一頭。どんな攻撃をしてくる魔物なのかも全く知らない。
 四足でもサランの背丈ほどある大型の犬だ。

「結構大きいのね」
「危なくなったら手伝うよ」
「えぇ、お願いしますわ」


 サランは双剣を構えた。
 ヘルハウンドがサランに飛びかかる。
 さすがはSランク、かなり速い。

 サランは守護術でヘルハウンドの爪攻撃を弾いた。

「うん、自然エネルギーも上手く使えている。良い守護術だ」

 ヘルハウンドも速いが、サランは更に速い。さすがはスピードタイプの双剣使いだ。
 サランの補助術は身体の構造を熟知しているからか、かなり効果が高い。サランの記憶を貰ったワタシ達も、及ばないまでもその恩恵を受けている。

『剣技 苦難の十字架クルスィフィクション

 ヘルハウンドの噛みつきを避けながら、二本の斬撃で十字に切りつけた。

「お見事。回復術だけじゃなくアタッカーとしてもかなり優秀だね」
「えぇ、ワタシも負けてはいられないわね」 

 サランは文句なしのSランク超えの冒険者だ。
 ヘルハウンドの爪や長い犬歯を採取し、火魔法で火葬する。魔晶石が二個だ、Sランクの魔物からはだいたい二、三個出てくる。

「自信がつきましたわ。わたくしは二人のお陰でかなり強くなってますわね」
「あぁ、サクッとオルトロスを討伐するか」

 ヘルハウンド達と律儀に戦ってやる必要は無い。浮遊術で直接オルトロスの住み着いている坑道へ飛ぶ。

「犬なら飛ばないね。途絶が使えそうだが、最終手段にするか」
「そうね、どうせなら剣で倒したいわ」
「よし、ボクが守るから安心して攻撃してくれ。サランは回復と補助だ、サブアタッカーとしても動いてくれ」
「分かりましたわ」

 坑道に着いた。
 中から魔力が漏れ出ている。

 ゆっくりと何かが出てきた。犬の頭が二つ、オルトロスだ。思ったよりかなり大きい。

「おいでなすったわ! 行くわよ!」

『守護術 堅固な城壁ロバスト ランパーツ

 オルトロスの敵意は、全て先頭のアレクサンドに向いた。盾を構えた姿を久しぶりに見る。

「まずは観察するわ」
「あぁ、ボクの後ろにいるといい」

 オルトロスの片方の頭から、強烈な火魔法が放たれた。

魔力吸収アブソーブ 解放リリース

 ワタシは魔力吸収能力で魔法を吸収し、そのままオルトロスに向け解放した。

 巨体の割に速い、躱された。

「ここの犬は速いわね。まぁ、ワタシに魔法は効かないわ。さて、どうするワンちゃん?」
 
 オルトロスはもう一方の頭から風魔法を放った。それも吸収して解放する。
 今度は狙って解放した。しかし、かすっただけだ。

 その後はアレクサンドに向けて爪や牙の物理攻撃に切り替えた。

「魔法は封じたわね。アレクサンド、守りは任せたわよ。サラン、両脇から一斉に剣突ね 」

 アレクサンドは正面から攻撃を捌いている。
 ワタシとサランは横から剣で攻撃だ。
 一斉に攻撃する。

『剣技 刺突剣ソードストライク

『グゥォォォ!』

 二人の剣が深く刺さった。
 が、致命傷にはならない。オルトロスは怯んでいる。

「急所を外してしまったわね。アレクサンドとサランで気を引いてちょうだい。ワタシは意識の外から攻撃するわ」
「「了解」」

 オルトロスの敵意は常にアレクサンドに向いている、本当に優秀な盾役だ。
 サランがスピードを活かして少しづつダメージを与えている。

 急所に届かないなら首を刎ねよう。

『剣技 斬首一閃ディキャピテーション

 斜め後ろからからオルトロスに斬りかかり、首を刎ねた。

『グゥォォ――!』
 
 片方の首を失い、パニック状態だ。

「終わりよ!」
 
 そのままの勢いで、もう片方の首も切り落とした。巨体が地を揺らして倒れ込む。

「見事。魔族が魔法を使わずにSSランクの魔物を斬り殺すとはね」
「えぇ、自信がついたわ。でも、サランのサポートありきね、いいパーティになったわ」
「そう言って貰えると嬉しいですわね」

 ヘルハウンドよりも長く立派な犬歯を採取し、毛皮も剥いでおく。
 火葬すると、魔晶石が五つ出た。

「さて、帰って領主の所に行くか」
「このままの勢いでヘルハウンドも減らしておかない?」
「そうですわね、どうせ討伐しなくてはならないですものね」

 帰りは歩いて山を降りた。
 ヘルハウンドは群れで襲ってくる事はなかった。一、二匹で飛びかかってくるのを斬り殺す作業。オルトロスの後ではただの大型犬だ。

 山を降り、領主の屋敷まで飛んで帰った。
 
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