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第三章 新魔王誕生編

ヴァロンティーヌブランド

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 アジト一階のバー、レオパルドは臨時休業。レパーデスの祝勝会の為だ。

「皆、ご苦労だったね。トリプレットは壊滅した。今日は私から日頃の感謝を込めてご馳走を用意したよ。美味しい酒と共に楽しんでくれ! 乾杯!」

『カンパーイ!』

 約200人の大宴会が始まった。
 一年間の付き合いで皆とは大体顔見知りだ。
 皆と歓談しながら腹を満たしてワインを楽しんでいると、ヴァロンティーヌが隣に座った。

「やぁボス、久しぶりに一緒に飲もうじゃないか」
「一年前、組織に入れてくれなんて何を企んでるのかと思ったけど、とんだ拾い物だったようだね」
「色んな経験が出来たわ、人の下に付くって悪い事ばかりじゃないのね」
「私じゃガスパールには勝てなかったかもな。あいつ強かっただろう?」
「そうね、初撃は速くてビックリしたわね」
「ボスならあの程度の男、問題ありませんわよ」

 ヴァロンティーヌは過去を語り始めた。

「私とガスパールは同じ師匠に師事していたんだ。出身は『ゴルドホーク』だ。あの三兄妹と私達姉弟は親がいない。ならず者の私達に剣と仙術を教えてくれた」
「あら、ここの生まれじゃなかったのね」

「……あぁ、お前達の剣は私達の剣と似ている」
「えぇ、ガスパールの技を見て思ったわ」
「師匠は王都の貴族出身で、王の部下だったと言っていた。ホラの可能性が高いがな」
「王都の……? 名前は覚えてますの?」
「『セザール・マルティネス』と名乗っていたな」

 サランが驚いて声を上げた。

「えっ……わたくしのお祖父様の名ですわ」
「なんだと? セザールなら知っている。オーベルジュ王の側近だった男だ」
「ジョカルドに寄った後、ゴルドホークに移住したのですね。お母様も知らなかった事ですわ」
 
「……本当だったのか。ホラ吹き野郎だと思っていたんだけどな。師匠は部下に裏切られた挙句、濡れ衣を着せられて王都を追放されたと言っていた。相当な恨みを持ってたよ。憎悪と共に剣を教えられたんだ、既に悪党だった私達がその後まともに育つわけが無い」

「それならボスの剣がボクらと似ている理由は簡単だ。ウェザブール王は元々仙王の部下で、仙神剣術の使い手だ。だからその部下のセザールも仙神剣術を使う」

「……ウェザブール王が、仙王の部下……?」
「あ……これは言ってはいけないやつだったかな。まぁ良いだろ、二人のウェザブール王は退化した仙族だよ、人族の祖だ」
「そうなのね……だから私達はなのか……なるほどね。深く考えた事もなかった」

 ガスパールが強いはずだわ。
 ワタシ達の師匠はアレクサンドだ。師匠の差もあるのかもしれないけど、ワタシの方が才能があったって事ね。

「お祖父様……セザールはまだ生きてますの?」
「いや、死んだよ、ガスパールに殺された。全てを教わった後にね。それからだな、ガスパールと距離を置くようになったのは。元々仲良くはなかったが」

 サランは特に悲しそうな顔することも無く、そうですかと頷いた。サランは身内の死に対する感情が無いようだ。

「師匠が言うには、特に私とガスパールに剣の才能があったようだ。弟も剣を使うが、仙術が得意だね。ガスパールは何をするにも私と張り合ってきた。私がここに来てマフィアのボスになった後も追いかけてきて、対抗組織のナーガラージャに入った」
「へぇ、元々はナーガラージャの構成員だったのね」

「……あぁ、あいつは強くてカリスマ性がある。ナーガラージャから引っ張って来た仙人達がトリプレットの幹部だよ。その後も勢力を拡大し続けた。でも、あいつらに足りなかったのは頭だね。バカにマフィアは務まらない」
「そうね、ウチにはフェリックスがいるし、ボスを筆頭に皆頭がいいものね」

 ガスパールは何がしたかったんだろうか。
 ヴァロンティーヌに対するライバル意識なのか、そんな事でわざわざ追いかけて来て対抗するだろうか。

「ねぇボス、ガスパールはアナタの気を引きたかっただけなんじゃない?」
「どういう事だ?」
「ガスパールはキミの事が好きだったんじゃないかと言うことだね」

「……そんな事の為に多くの命を犠牲にしたのか……?」
「あくまで憶測だけど、不器用でバカな男にありがちな話ではあるわね。死人に聞く訳にもいかないけど」

 まぁ、ただの憶測だ。
 正直どうでもいい。

「まぁ死人に口なしだな、どうでもいい。そんな事より、お前達はずっとうちにいるわけじゃないんだろ?」
「そうだね、ボスがボクと寝てくれたらこの街に用は無いね」
「アナタがここまで一人の女に執着するのも珍しいわね……でもそれはワタシ達が許さないわよ。ヴァロンティーヌはワタシ達のボスよ」
「本気の恋は実らないものだね、切ないよ。今までにない感覚だ」

 まぁ、アレクサンドはこう言っててもすぐに飽きる。基本的に軽い男だ。

「いずれは出るわね、いつになるかは分からないけど」
「そうか、お前達には礼がいるな。それが思いつかない、何か望みはないか?」

 アレクサンドが何かを言おうとするのを二人で睨みつけて口を塞ぐ。

「前からお願いしようと思ってた事はあるわ。ワタシ達の鎧は見たわね? あの鎧に合うマントや装飾品をデザインして欲しいの」
「マモン、わたくしもそれは思ってましたわ」

「……それはアレクのもか?」
「いや、ボクのはいい。それより……」
「お黙り、アレクサンド」
「ハァ……本命ほど難しいものだね……向こうで男達と飲んでくるよ……」

 アレクサンドは肩を落として男達の方へ歩いて行った。

「分かったよ。半端な物にしたくない、時間をくれるか?」
「勿論よ、ワタシ達もすぐに出ていく訳じゃなしね。仕事は今まで通りこなすわ」
「わたくしはこの一年服飾の勉強をさせてもらってますの。デザインさえ決まれば他で作ることはできますわ」

 なんですって。
 サランは秘書としての仕事の合間に、服飾の指導も受けていたようだ。サランはセンスがいい上にワタシと趣味が合う。これは頼もしい。

「あぁ、サランは助手に欲しいくらいだ。秘書としても完璧だしな」
「そう言って貰えるのは嬉しいですわね」

 素晴らしい物ができるのは間違いない、楽しみだ。
 宴会は大盛り上がりで終わった。


 ◆◆◆


 トリプレットの壊滅で、東の繁華街ソレムニー・アベニューにも活気が戻った。後ろ盾を無くしたゴロツキ共はキレイに居なくなった。

『魔人マモン一派、マフィアを壊滅させる』
 
 王都やジョカルドから付きまとう新聞社が、また大袈裟に報道している。まぁ、どうでもいい事だけど。
 
 ワタシ達はそれぞれの仕事に戻っている。金貸しの集金業務は連日大忙し。ワタシのドS心を満たしてくれる素晴らしい仕事だ。
 ヤツらに支払い能力は無い、働いてもカジノで使い切りウチから借りる。利息を支払う為だけに生きているクズ共だ。それでウチは儲かる、よく出来ている。

「ねぇマックス、カジノには相当護衛入れてるんでしょ? ヤバいやつが来たら押さえられないものね」
「そうだな、アンダーボスがオーナーとしてほとんどあそこにいるよ。あとは週替わりでカポが部下を連れて入っている。俺も良く入るよ!」
「なるほどね、それは安心だわ」


  
 そんな日々の業務をこなして三ヶ月。
 ヴァロンティーヌからアトリエに呼び出され、三人で向かった。

「出来たよ。悩んだ挙句、クロースアーマーとサーコートを作ったよ。気分によって使い分けてくれ」
「素晴らしいわ……やっぱりボスにお願いして良かったわ!」

 クロースアーマーは布製の防護服で今回作って貰ったものは鎧の下に着込む物だ。

「鎧の下部分の素材は、うちのシルクを使っている。速乾性と吸湿性に優れているから鎧の中が蒸れにくい。エビルスパイダーの糸で織っているから防御力もある。鎧で守れない部分もあるだろ? お前達の鎧のデザインに合わせて作った。アレクの分もあるよ」

「……おぉ、これは素晴らしいね。大事に使うよ、ありがとう」

「サーコートは冬に使うのが良いかな。私のブランドのロゴをあしらってみた、会心の出来だよ。これも三人分だ」

 膝下まであるコートだ。素晴らしいデザインだ。防寒着としてこの上ない。

「完璧よボス、これ以上は無いわ」
「そう言ってくれると嬉しいよ。これらのパターンはサランに渡しておく。かなり丈夫だから、直しで済むと思うが」
「責任を持って直しますわ。一から作る事も出来ますわよ」

 パターンは洋服の設計図にあたる型紙だ。サランはこの服の作成に携わっている。安心して任せられる。

「こんなに感動することは無いわね。出会えてよかったわボス」
「いや、それはこちらのセリフだ。お前達のような部下は探してもいないからな。トリプレットの壊滅はお前達の手柄だ。この服のお代は勿論いらない」
「いいの? じゃ、働いて返すわね」


 その後もワタシ達はレパーデスでの仕事をこなした。
 
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