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第三章 新魔王誕生編

レパーデスの強さ

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 幹部が招集されている。
 皆そのつもりでいたようだ、すぐに集まり席に着いた。

「久しぶりに暴れるよ」

 皆静かに闘志を燃やしている。ワタシ達もそうだが、皆鬱憤を溜めている。
 皆のストレスをトリプレットのアジトにぶつけよう。

 フェリックスが作戦を告げる。

「奴らの数は準構成員を含めても、どれだけ居るのか見当もつきません。しかし、どれだけ広くともアジトに全員は入れません。三兄妹の他幹部を除いても後は雑魚ばかりでしょう。奴ら幹部達は滅多に街に姿を現しません。先ずは雑魚どもが応戦するはずです、待ち構えていると見て良いでしょう。蹴散らしてやりましょう」

 ワタシは手を挙げて発言の許可を求めた。

「どうぞマモンさん」
「皆は魔法は使わないの?」
「いえ、使いますよ。でも街中では使いません。建物が燃えたり崩れたりした時の損害が大き過ぎますからね」
「じゃあ、ヤツらのアジトに向けて魔法を放っても良いわね?」
「えぇ、構いません」

 さて、一年溜めたこの鬱憤を全放出する時が来た。

「三兄妹は勿論、幹部も強いよ。油断しないようにな」
「ボスは後ろで腕を組んで見ておくがいいよ。ボク達が蹴散らしてやるからね」
「そうですわね、今日はわたくしもボスの横を離れますわよ」
「お前らの本気を見られるかもな。楽しみにしとくよ」


 レパーデスは200人程の組織だ。構成員のほとんどがAランク冒険者相当かそれ以上の力を持っている少数精鋭だ。
 皆が武具を装備し、ワタシ達構成員を前に幹部が後に続く。

「ワタシ達が先陣を切るわ」

 街の外れにかなり大きな屋敷が見えた。庭も相当広い、暴れてくれと言わんばかりだ。襲撃される可能性は考えてないのだろうか。

「さて、準備しとくわね」

 頭上に気力のボールを複数作り、ゆっくりと自然エネルギーを込めた火魔法を圧縮する。

 大きな門をアレクサンドが壊し、三人で中に入った。
 どれくらいいるだろう、構成員がズラリと並んでいる。フェリックスの読み通り待ち構えていたようだ。
 
「さぁて、開戦よ」

『仙術 風魔の罠ジントラップ

 アレクサンドとサランの仙術によって、構成員達が切り刻まれた。

『ギィヤァァ――!!』
 
 断末魔が響き渡る。

『連続火魔法 炎熱地獄ブレイジング ヘル

 屋敷に向けて無数の火魔法を放った。
 爆発音と共に、屋敷は弾け飛ぶ様に崩れた。戦力はかなり削ったはずだ。

「おいおい……とんでもない魔法使うんだな……」
「ただの開戦の花火よ、鬱憤晴らしはこれからね」

 屋敷は黒煙を上げて燃えている。
 煙の中から強烈な風魔法が飛んできた。
 いや、仙術だ。

「アレクサンド」
「あぁ、分かってる」
 
魔力吸収アブソーブ
『守護術 堅固な城壁ロバスト ランパーツ

 ワタシが風魔法を吸収し、風エネルギーをアレクサンドがガードする。
 この仙術から見るに相手はかなり強い。

解放リリース

 風エネルギーを付与し、相手にそのまま仙術をお返しする。
 風の仙術で黒煙が晴れた。

 浮遊術で浮かぶ人影が数人。
 真ん中の一際目立つ大男がこちらを睨みつけている。
 
「おいおい……随分派手な挨拶じゃねーか。覚悟は出来てんだろうな……?」
「お前こそ覚悟しろガスパール、こっちはもう我慢の限界なんだよ」
「お前は大人しく服作ってろよ。店が襲われたから作れなくなったか?」
「やっぱりお前の指示か、ここに攻めてくると踏んでいたな? 随分と準備がいい」
「街中でおっ始める訳にもいかねーしな、次は俺らのもんだ。まさか屋敷を吹っ飛ばす様なイカれた野郎がいるとは思わなかったけどな」

 あの大男が『ガスパール・マルフザン』か。背が高い上に鍛え上げた身体でかなり大きく見える。
 その両隣の、背は高いが細身の男女が弟と妹だろう。見た感じ三卵生の三つ子のようだ。
 その三人の両脇に三人づつ、合わせて九人の仙人だ。

「ボスは後ろでドシッと構えててね。ワタシ達とアンダーボスとカポ達で九人よ」

「よし、他の構成員ソルジャーで残った雑魚どもを全滅させろ! 一人も逃がすんじゃないよ!」

 構成員達は四方に散って、幹部以外の雑魚ども相手をする。
 ワタシ達は頭上の九人と対峙した。 

「ねぇフェリックス、ワタシ達があの三兄妹を貰うわよ?」
「えぇ、お好きにどうぞ。あなた達の相手になるとは思えませんがね」
「じゃ、ワタシはあのデカイのを貰うわ」
「じゃあ、ボクはあの細い男か。あのレディはサランにあげるよ」
「分かりましたわ」

 両手親指を除く八本の指先に太陽光エネルギーの仙術を圧縮し、ガスパール以外に向けて発射した。
 さすがに食らうものはいない。四方に散らばった敵をレパーデスの幹部が追いかける。

 アレクサンドとサランも敵に斬りかかっていく。

 ガスパールはゆっくりとワタシの前に降りてきた。

「おい、屋敷に魔法ぶっぱなしたのはてめーだな……? 建て直しにどれだけかかるか知らねーが、てめーらのナワバリぶんどったらお釣りがきそうだ」
「ワタシに勝てる気でいるの? おめでたい人ね」
「俺がオカマに負ける訳ねーだろ」
「トップが悪いと部下にも伝染するのね、いい勉強になるわ。お礼に痛みもなく殺してあげるわね」

 ガスパールは空間から両手大剣を取り出した。見た目通り、パワータイプのアタッカーの様だ。
 ワタシもデュランダルを抜いて構える。

「そんな細い剣でこいつを捌くつもりか? 笑わせる」

 ガスパールは両手大剣を構えた。

 十数歩先にいたガスパールが一瞬にして目の前に斬りかかってきた。
 速い。

 咄嗟に守護術を掛けた。
 その下に構えたデュランダルで相手の大剣をいなす。高い金属音と共に大剣を弾いた。

「甘くみてたわ……やるわね」
「終わりだと思ったんだがな、てめーもやるようだ」

 強い。
 間違いなく今までで最強の相手だ。あの重い両手大剣で出来る動きじゃない、補助術の精度が高い証拠だ。仙神剣術に似ている。

 ワタシの守護術は突破された。
 余裕を見せられる相手じゃない。

「レパーデスが手を出せずにいた理由が分かったわ。強いのねアナタ」
「ふん、すぐに喋れねーようにしてやるよ」

 コイツならワタシの全てをぶつけられる。
 ダメだ、顔がニヤける。興奮が抑えられない、最高だわ!

「キャーッハッハッ! 最高だわアナタ! 殺したらかなり気持ちいいでしょうね!」
「なんだよいきなり……気持ち悪りー野郎だな」

 血が滾る。
 ここまで気が昂る事はなかなかない。
 更に精度を高めて補助術を施す。自然エネルギーと気力を丁寧に剣に込めた。

『剣技 剣光の舞ソード ダンス

 いつもより身体が軽い。
 気の昂りが身体能力に影響を与えるのか。
 全て守護術と大剣でガードされた。けど、ワタシは今楽しんでいる。

 ガスパールの反撃が来る。

『剣技 豪剣マイティ ソード

 視える。
 これはまともに受けてはダメ、剣に角度をつけていなす。
 
 魔物との戦闘とは全く違う、実戦がこうも自身を成長させるのか。ガスパールの剣戟を受け続けた。ワタシはもっと強くなれる。

「ハァ……ハァ……クソったれ……涼しい顔で受けやがって……」

 剣を受け続けている間、自然エネルギーと気力を剣に込め続けていた。

「楽しかったわよ、殺すのが勿体ないわ 」

 デュランダルを両手持ちで頭上に構える。

『剣技 聖剣の制裁ホーリー サンクション

 頭上から振り下ろし斬撃を放った。

 ガスパールは大剣を構えて防御した。

「判断を誤ったわね」

 放った斬撃はみるみる大きくなり、大剣が護る頭以外を真っ二つに斬り裂いた。

「避けるべきだったわね、あれだけ疲れてたら無理もないか」


 ふと後ろを見ると、アレクサンドとサランが見ていた。

「相手はかなりの使い手だったみたいだね。いい練習になったんじゃないか?」
「えぇ、防御が上達したわ、コイツに感謝ね。でも、守護術がまだまだだわ」
「羨ましいですわ。わたくしの相手もまぁまぁでしたけど、アレクとの模擬戦の方がよっぽど訓練になりますわ」

 周りを見ると、粗方終わっている。
 レパーデスはやはりかなり強い組織だ。皆、息も乱さず相手を倒していた。

 皆でボスの元に集まる。

「待たせちゃったみたいね。楽しくて遊びすぎたわ」
「あのマルフザン兄妹を子供扱いするとはね……本物だよお前達」

 皆でトリプレット達の死体を焼けた屋敷に放り込み、ワタシの火魔法で灰にした。

「相手の武具はお前らの戦利品にすればいい。奴らの死体はアジトと共に灰になった、後ろ盾を無くした奴らは大人しくなるはずだよ。私達の勝利だ!」

『オォォ――ッ!!』

 抗争はレパーデスの完勝で終わった。
 
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